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カレーで異世界制覇  作者: 黒犬
スパイスと出会い
7/26

最後の夕食はチキンカレーで


 ハンバーグを作ってから5日ほど経ちました。

 村と街に2回ほど立ち寄り、バルさん達にいろいろ教わっています。

 文字の読み書きなどは何とか出来る様になり、買い物などもできるようになりました。

 

 トマト以降新しいスパイスや食材は見つかってないですが、

 いくつか変化がありました。

 アニスさんが自分に本格的に料理を教わるようになりました。

 自分が手伝うようになってから、アムちゃんの野菜を残さなくなったのが理由だそうです。

 夕飯は自分で朝昼がアニスさんと一緒に作ります。

 もともと料理上手だから、教えた事をすぐに吸収してくれるので面白いです。


 あとアムちゃんがかなり懐いてくれる様になりました。

 オセロや勉強の時は自分を足の間で、椅子のように座り一緒にやるようになり。

 トランプの時は手札が見えるので横にちょこんと座り、

 昼寝の膝枕で寝てくれるようになり、すごく嬉しいんですがそれと同時に困った事があります。


 あと2,3日ほどでお別れなんですよ。


 昼食のアニスさん特製のトマトスープとパンを食べながらどのタイミングで言おうか考え中、

 自分の横でシナモンシュガーをたっぷり振りかけたパンを食べているアムちゃんを見てると決心が鈍ります。

 自分の視線に気が付きアムちゃんが食べかけのパンを、アーーンといってこちらに差し出してくる。

 ありがとうといい齧ります。

 気分のせいか甘くて少しほろ苦いです。

 

 溜息を吐きながら覚悟を決めます。


 「アムちゃん少しいいですか」

 「おにいちゃんなーに?」

 「ええとね。お兄ちゃん次の街に着いたら、そこで馬車を降りるんです」

 「おりる?アムたちもおりるよ?」


 難しかったようなので、分かりやすく説明します。


 「その街でバイバイです」

 「ばいばい?」

 「バイバイです」

 

 意味が分かったのか泣きそうな顔をして、バルさんとアニスさんの表情を見て確認します。

 それを見て僕が嘘を付いていないのを理解したみたいで、

 表情が見る間に変わり、持っていたパンをぎゅっと握り。


 『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』 


 耳がキーンとする位の大号泣です。

 自分は動けずアムちゃんを見ていたら、

 アニスさんがすぐ抱きかかえながら、あやしています。

 いつのまにかバルさんが横に来て肩に手を置いて、すまなさそうな表情をこちらに向けてくれます。


 「ケイタ嫌な役目させたな、俺達が説明しても良かったんだが」

 「いえ、自分の役目ですよ、とりあえず昼食片付けましょうか」


 バルさんが苦笑して頷きます。


 昼食後、馬車で移動している最中もずっとぐずっていますが、自分が近くに行くとまた大泣きになるので馬を操るバルさんの横に座り夜のキャンプ地まで色々話をしました。


 自分が居た世界の事や、どんなカレー屋をやりたいとか、バルさん達が冒険者だった頃や、アニスさんとの出会い、アムちゃんが産まれてからの事、

 アニスさんから聞いた話と視点が変わると違う面白さがある。

 ひとつ言える事はお互いを強く思っている事はよく分かる。 


 いつの間にか今日のキャンプ地に着き、夕食の準備を始めようとすると、アニスさんに連れられてアムちゃんが下りてきた。

 もう泣き止んでいたので近づくと、


 「おにいちゃんきらい」


 こちらに来てからの一番のショックです。というか泣きそうです。

 バルさんとアニスさんが苦笑いしています。


 夕飯にはアムちゃんが大好きなトマトソースのハンバーグに目玉焼きを乗せたのを出しましたが。

 いつもみたいに笑顔でおいしいと言わないで、下を向いたままこちらを見ないで食べています。

 せめてもの救いはハンバーグは全部食べてくれた事です。


 夕飯の片付けをしていると、アニスさんが近づいて来ます。


 「ごめんなさい、アムがあんな態度を取って」

 「いえ、お別れが寂しいのはみんな一緒ですから」

 「お願いなんだけどアムを嫌わないであげて欲しいの」

 「大丈夫ですよ、僕はアムちゃんの事大好きですから」


 自然と思っていた事が口から出た。

 出会って数日でいろんな表情を見せてくれたが、出来たら笑顔でお別れをしたい。

 アニスさんは笑顔を浮かべ、


 「ありがとうね、でもあと何年かは待ってね。私達もアムと一緒に居たいから」

 「いいんですか、そんな事言って」

 「あら私は構わないわよ。主人は寂しがるけど」

 「全てはアムちゃん次第ですよ」


 落ち込んだ気持ちがアニスさんとの会話で軽くなった。

 片づけをして仲直りする方法を考えよう。


翌日も相変わらずで、アムちゃんが好きなシナモンシュガーたっぷり掛けたパンを渡した時も、

 こちらの顔を見ずにひったくる様に取ってアニスさんの横の席に行きます。

 食べ顔を見せない様に後ろを向いて食べています。

 好きな物で機嫌を取ろうという作戦は失敗です。


 馬車で移動中も昨日と同じバルさんの横が定位置で座ってますが、

 背中にすごい視線を感じるので振り向くと視線を逸らすアムちゃん何度も振り向きますが逸らし、

 結局、視線が一度も合う事は無かったです。


 バルさんと昨日と同じように様々な事を聞き、振り向いたりを繰り返すといつの間にか今日のキャンプ地着きます。

 つまりこの一家と一緒に食べれる最後の夕食の場所です。


 バルさんは馬に飼葉をやり、アニスさんとアムちゃんは洗濯に行きました。自分は夕食の準備です。

 今日は特別な物を作ろうと思います。


 下ごしらえにタマネギを大量にみじん切りにして、ショウガもすり下ろします。

 鍋に水を入れその中に鳥の骨をいれ出汁を取ります。

 フライパンを熱してにイノシシの背油で油を出し、その中にペイリーフや砕く前のシナモンスティック、他にも自分が持っているスパイスを数種、惜しげも無く投入して炒めて香りを移します。

 スパイスが熱せられて複雑な香りが辺りに広がります。


 匂いが移ったらスパイスを取り出しタマネギを投入、焦げないように炒めていき、ショウガも入れ飴色になるまで炒めていきます。

 

 飴色になったら塩やまた数種のスパイスを入れ、スパイスの色が着き飴色から赤に変わる。

 その中にトマトを潰して作ったトマトピューレを入れ更に炒めて、

 水を入れてしばらく煮込みます。


 煮込んでいる間に、塩を振りショウガで揉み込んでおいた鶏肉を炒めて、火を通します。


 煮込み終わったのを確認して、炒めた肉と荒くみじん切りしたトマトを加えてさらに炒め。

 鳥のスープを加え、自分の世界から持ってきた紙パックに入った生クリームを加えて軽く煮込み完成です。


 いつの間にか一家が揃って自分を見ていました。

 少し照れくさいですね。

 アムちゃんと視線が合いましたが、少し慌てた後また視線を逸らしました。

 一瞬ですが今日始めて顔を見た気がします。


 皆の分を皿に盛り、アムちゃんの分だけ少し手を加え。

 皆さんに配ります。


 「皆さんに始めて食べて頂いたのがチキンカレーだったので、最後のメニューはやっぱりチキンカレーがいいと思い作りました、自分の思いを込めて作ったので口に合えば嬉しいです」


 自分が手を合わせると、バルさんとアニスさんも同じようにし、アムちゃんは後ろを向いてます。


 「「「いただきます」」」


 自分が毎回していたのが、いつの間にかみんなの食事の時の習慣になっていました。

 

 懐かしい香りを楽しみ口に運びます。

 口の中にスパイスの複雑な香りや辛味、タマネギの甘味やトマトの酸味が口の中で爆発する。

 生クリームの出すコクがあり辛味や香りに中和を与える。

 鶏肉も適度な噛み応えと噛んだ時に出る肉汁とスパイスが加わると何ともいえない味わいになる。

 額からはショウガやスパイスの効果で汗が出ているが匙を動かす手が止まらない。

 やっぱりカレーは最高だ。

 

 皆さんを見るといつもと違い無言で食べている。

 口に合わなかったかと思ったら、表情を見るとすごく幸せそうだ。


 「お口に合いましたか?」

 「ああ、喋るより口の中に運んだものを味わうのに忙しくてな」

 「ええ、初めての体験でどういったら言いかわからなくて」

  「前回はカレールーで今回はスパイスで一から作りました」

 「どう違うんだ?」

 「カレールーは野菜と肉と水があれば誰でも同じ物を作れるんですが、今日のはスパイスの特性や配合、分量、調理法を知っていないと作れないんです」

 「じゃあ、この香りもスパイスじゃないと無理なのか」

 「はい、スパイスで一から作るカレーは香りが違います」 

 「これで食い収めと思うと、しっかり味合わないとな」

 「そうね、しっかり味合わないと、ほらアムも食べなさい」

 

 見るとアムは皿に手に取らないで後ろを向いたままだ、

 

 「やっ、これたべたら、ばいばいしないといけないもん」

 「アムちゃん」


 これが皆で食べれる最後の夕飯で、自分が作る最後のカレーだと知っているんだ。

 だったら泣き顔じゃなく笑顔でバイバイしないとな。


 「アムちゃんこのお皿見て、一番アムちゃんに伝えたい事が詰まってるんだ」


 ゆっくりお皿を見て、目を見開くアムちゃん、

 

 「わらってる」


 アムちゃんのカレーの上に生クリームで笑っている顔を描いていた。

 自分がアムちゃんの表情で一番好きな表情を。


 「バイバイは寂しいけどお別れの時は笑っていて欲しいんだ。出来たら次に会う時も」

 「つぎ?またあえるの?」

 「うん、明日の街で降りるけどそこで、このカレーを作って待ってるから」

 「ほんとう」

 「うん、約束しようか。小指出して」


 アムちゃんが右手の小指を出し自分の小指と絡めて、

 

 「嘘付いたらキャロライナ・リーパー食べる」

 「アムちゃんも一緒に」

 「うん」

 「「うそついたらきゃろないと・りーぱーたべる」」


 ちなみに世界一辛い唐辛子の事である。

 トウガラシの辛さを測る単位スコヴィル値が約300万スコヴィルあり、

 2位のトリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラーのスコヴィル値146万3700。

 倍以上の辛さ誇り口に入れた瞬間気絶するレベルの辛さを持つ。


 「じゃあ食べようか」

 「うん」


 今日始めていつもの笑顔を向けてくれる。

 後ろで夫婦揃ってこちらを優しそうな笑顔で見ている。

 アムちゃんが「いただきます」をして汗をかきながら美味しそうに食べているのを見て、

 バルさんとアニスさんにお替りはいるかと聞くと即答で返事があり。

 隣の方から、「アムもいる」といわれ。

 みんなの皿にチキンカレーを盛っていく。


 今日も鍋の中は綺麗に空になった。



次でお別れです

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