カレー王爆誕
調理回のはずが、いきおいって怖いですね
カレーを食べた翌日、昼前に初めての村に到着です
2百人位の村で、周辺の森で採れる果物やキノコが名産だそうです。
村について馬車を決められた場所に止めたら、バルさんとアニスさんは必要な物を買いに行くと、
腕を組んで買い物もといデートに行きました。
自分は子守を任されたので、アムちゃんと手を繋いで市場を見て歩いていたら、
全部で20店ほどの露店が並ぶ市場で、
村の名物の果物やキノコを扱っている店が半分以上で、残り日常雑貨や、果実酒や野菜、お肉を扱う店などで、
アムちゃんが嬉しそうにしているので、
自分も色々な店屋、種族の方々もいて楽しいんでいる。
獣人以外にも、リザードマン、2メートル以上あるオーガーもいたんですが、エルフはいなかったです。
おのぼりさんの様にきょろきょろ見て回っていたら、
市場の端っこで絵本に出てくる魔女の様な雰囲気をだす、お婆さんの店がひっそりとやっており、
一瞬嗅ぎなれた匂いがした気がしたので、つい立ち止まりました。
真っ黒の布の上に多くの薬の材料を売っている怪しい露店で、自分たち以外は誰も見向きもせずに通り過ぎてます。
売られているのが、どぎつい色の蛙の干物や、見たことの無い虫の瓶詰め、人の形に似ている花の球根、ボコボコした血のように赤い木の根っこ、などが商品のようで、
アムちゃんも自分の後ろでびびってます。
「ひひっ、なにかお探しで」
「えっ、はい」
思った以上に魔女ぽい声と雰囲気です。
「すいません、どういう物を売っているんですか?」
「みんな、薬の材料だよっ」
お婆さんも、他にお客がいないので丁寧に説明をしてくれます。
「・・・・、これはね。風邪を引いたら磨り潰した汁を飲み物に混ぜて飲むんだよ、体が温めて汗と一緒に悪いのを出してくれるんだけど、辛いから人気は無いね」
自分が欲しくてたまらない材料を発見したかもしれません。
「お婆さん、これお幾らですか?」
「ひとつ銅貨で4枚」
買おうと思い財布を出したら気が付きました。
・・・お金が無いと。 正確にいうとこちらの世界のお金を持っていないですが、
「おにいちゃん、どうしたの?」
アムちゃんが首を傾げてこちらを見てきます。
情けないお兄ちゃんを、そんな純粋な目で見ないで下さい。
「ケイタ、アムどうした?」
「あっ、おとうさん!!」
バルが買出しの荷物を入れた木箱を肩に乗せたまま声をかけてくる。
「おにいちゃんが、このあかいのがね」
「ケイタこの血の根が欲しいのか?」
「バルさん、はいこれがあればカレーがさらに旨くなっ」
「婆さん全部くれ!!」
バルさん男らしいです。
「全部で大銅貨10枚だよ、こんなにたくさん買ってどうするんかね」
「旨い飯になるんだよ」
代金を渡して木箱に血の根を入れてるバルさんを、不思議そうな目で見ている。
「アニスも待ってるし、帰るぞ」
片側に木箱を肩に持ち、もう片側にアムちゃんを乗せて歩いていくバルさん、
すごくパワフルです。
馬車に戻ると生活必需品やパンなどを馬車に載せているアニスさんがいます。
「おかえりなさい、あら血の根なんか買って風邪でもひいたの?」
「ケイタが料理に使いたいんだと」
やっぱり薬扱いなんですね。
「夕飯で使うので楽しみにしていて下さい。お肉と相性いいので」
「あなた」
「おう、近くに猪の匂いがするな」
荷物を馬車に入れ、弓と矢を持って夫婦が森に消えていきます。
「アムちゃんオセロしながら待ちますか」
「うん」
30分程で軽自動車ほどある猪を担いで、バルさんとアニスさんが帰ってきました。
額に矢が根元まで刺さっておりそれが致命傷みたいです。
首筋に血抜き処理の後も有るので、食肉にしても問題なさそうです。
「待たせた」
「待たせてごめんね。大きくて時間掛かっちゃた」
待ち合わせに少し遅れたノリで猛獣ハントしてくる夫婦素敵です。
さすがに全部は消費出来ないので美味しそうなロースとバラ、ヒレを取ったら、
残りを村の人たちに譲ったら大喜びでした。
村で見かけたオーガーの方も驚いていたので、どうやらこの夫婦を基準に考えない方がいいですね。
タダでは悪いと昼食をご馳走になり、名物の果物、果実酒やキノコも大量に頂きました。
昼食の味付けは、やはり薄味でした。
昼過ぎに村を出発してあとは、次のキャンプ地まで移動です。
昼飯を食べて眠くなったアムちゃんはアニスさんの膝枕でお昼寝中です。
自分は夕飯などに使うスパイスの準備です。
オロシ金を借りて皮を剥いた血の根をすりおろします。
おろした物を鍋に入れてさらに果実酒を入れます。後は塩を入れてお肉を漬け込めば大丈夫。
後はスパイスを砕くのに使う乳鉢を取り出し、持っているスパイスの中なら一つ取り出す。
砕き始めたらスパイスを砕く音なのか匂いに気付いたのかアムちゃんが目を覚ます。
「あまいにおい」
「夕飯の時のお楽しみだよ、だからお休み」
「うん、おやすみ」
寝直したアムちゃんの髪を撫でながらアニスさんがこちらの作業を見ながら、
「ケイタさんは不思議ですね、会ったばかりなのに主人も私も、この子もあなたを気に入ってますよ」
「ありがとうございます。お金の無い自分をこうして乗せていただいて感謝しています」
「昨日アムにくれた干し葡萄、結構高級品ですよ」
「本当ですか?でもアムちゃんも気に入ったみたいでそれでいいかなと」
「主人の様な犬の獣人が相手を信用するのに一番重要なのは匂いだそうです。プロポーズの言葉もお前の匂いが好きだ、ですよ」
少し頬を赤く染めるアニスさん、外を見ると耳をピクピク動かしてるバルさん、これは聞こえてるな。
「アムもあなたには懐いているので助かっています。料理も手伝って頂いてますし」
「いえ、ただ一緒に遊んで好きな事させてもらっているだけです」
「私たちは商人なので大陸の色々な料理は食べてきたんですが、昨日のカレーは衝撃的でしたよ。先ほどの料理の味付けも初めて見ました」
「自分の故郷の人気料理をアレンジしただけです」
「夕飯も楽しみにしています」
自分のような怪しい人間の料理を美味しいといい、気に入ったという一家。
この人たちに自分がどこから来たかを説明するべきなんじゃないかと思う。すると、
「無理に言わなくていいですよ」
「えっ」
「私たちはケイタさんを信用していますし、美味しい物も食べられてみんなが幸せで」
適わないな、会ったばかりの人間にこんな事を言われたら。
この人たちが詐欺師なら騙されても満足だな。
「聞いてもらっていいですか?」
「あら、いいの」
「はい聞いて貰いたんです、でもバルさんが」
「主人は鼻だけじゃなくて耳もいいの、だから大丈夫よ」
馬車を操るバルさんを見ると頷いたのが見えて、深呼吸して自分がどこから来たか話し始める。
一時間以上掛けなるべく分かりやすいように説明をした。
自分の持っている携帯電話や教科書や文房具など見せて説明したらあっけなく、
「異世界からね、ケイタさんは帰れるの?」
「あの、信じるんですか?」
「だってさっき言ったじゃない、信用しているって」
バルさんを見ると頷いてるのが見える、やばい涙が出そう。
「帰る方法は分からないで、帰る方法が分かるまでどうしようかと」
バルさんやアニスさん達みたいな戦闘技術があるわけじゃないし、こちらの常識や文字も分からない。
正直どうしたらいいか分からないでいる。
「なら、分かるまでカレー屋やればいいじゃない」
天啓を得た。
悩んでいたのが馬鹿らしく思える。自分にはカレーしかないじゃないか!!
バイト先もカレー屋、バイト代もスパイスや材料費、カレーの食べ歩きで消えるんだ。
学校でのあだ名もカレー馬鹿、カレージャンキー、上等じゃないか。
こちとら365日カレー食べてるんだ。
異世界をカレーで染めてしまえ!!
「ありがとうございます」
勢いを付けすぎて完全な土下座スタイルだが気にしない。
「街に着いたらカレー屋します」
「おにいちゃん、おみせするの?」
いつの間にか目を覚ました、アムちゃんが目を擦りながら聞いてくる。
「おう、カレーを食べさせる。この世界初のカレー屋だ!!」
「わーーーい!!」
「決まったみたいね」
バルさんがうなずくのが見える。
今日この瞬間に異世界を巻き込むカレー伝説が始まった瞬間である。
次回は血の根の正体と今後の話