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蛇の恋


私の幼馴染は、綺麗な人だった。でも成長していく内に、2つ年上の幼馴染は別の意味で注目を浴びるようになった。昔は私の方が高かった背丈は、私よりもずっと大きくなり、細かった腕は程よく筋肉がついていた。私よりもずっと女の子みたいだった彼の容姿は、いつしか男の人のものになっていて、そのことに気付いた私は、酷く驚いた。


それでも、彼の優しげな笑顔は変わらなかった。

私は彼の事を傍で見てきたけど、彼が笑っていないところを見たことがない。16歳になった今でもだ。彼はいつだって、柔らかい笑みを浮かべていた。困っているときも、怒っているときも、表情は崩れない、そんな人なのだ。


だから私は、彼が好きになる人は彼の笑っていない表情を引き出せる人だといいなって思ってた。笑いながら、どこか寂しそうにする彼は、とても痛々しく見えたから。











…で、だ。

いい加減現実逃避はやめようと思う。やめないとまずい気がする。首に添えられた幼馴染の両手に、わずかに力が入り始めている。



風呂につかったままの私と、浴槽の縁に座って私の首に手をかける文哉ふみや。いつもの笑顔は消え去り、真顔で私を見ている。確かに笑顔じゃない表情が見たいとは思ったけど、それは今のような状況ではない。



璃子りこ?俺の話、聞いてる?」


ゆるく絡んだ手に、また少しだけ力が加えられた。でもそれは、私を傷つけるほどの力ではない。…まだ、の話ではあるけど。


その証拠にこくりと小さく頷くと、力が緩まる。表情を消した文哉の顔は怖いが、首に絡んだ両手に恐怖は感じない。それどころか、素肌を撫でるようにゆるゆると動くその手の感触に、どこか安心している私がいた。



「璃子はどうしてそうも、無防備なの?ここは怒るとこだと思うよ」



少し疲れがたまっていて、お風呂中に寝てしまった私を起こしたのは彼だ。文哉は自由に自宅に出入りしているし、いつもの優しい笑顔で起こしてもらって、怒る事なんてない。だからただお礼を言うと、文哉は一瞬固まった後、笑みを消して首に手を伸ばした。


と、いう経緯なのだけど。正直言われた言葉も、今の状況も、理解出来てはいないのだ。



「怒る?」



素直に首を傾げると、大きなため息が返ってくる。



「いくら寝てたとはいえ、風呂場に了承もなく入り込んでるんだよ?逆になんで怒んないの」



なんで、と言われても。

湯船は入浴剤で白く濁り、肌の色さえも隠している。文哉に見られている範囲はせいぜい肩から上くらい。

しかも相手は文哉だ。兄妹のように接してきた彼に肩から上を見られても、今更なんだっていうのだろうか。



「だって、文哉だし」


「…ふぅん、そんなこと言うんだ」



まっすぐに見ていた目が、睨むようなものに変わる。

あ、なんかまずいこと言ったと自覚した時には、目の前に文哉の整った顔が迫っていた。



唇が重ね合わされ、呆然としている間にぬるりと舌が入り込んでくる。小さく身体を震わせると、仄暗く文哉が笑った。こんな顔も、初めて見る。


両手は首に絡みついたままで、口づけを与えられる。そのせいで、愛情表現というよりも呼吸を止めようとしているようにも思えた。絡みついた長い指と舌が、私の思考を白く塗りつくしていく。


上顎を舐められ、舌を引っ張り出されて甘噛みされる。文哉の行動に身体が震える度、浴槽のお湯がちゃぷんと音を立てた。



「ふぁ…」


「好きなんだ、璃子」



ここまでされれば、文哉が私をどう思っているのかも、無防備だと言われた理由もわかる。



「璃子は俺のだ。ずっと一緒だっただろ?今更、手離すはずがないだろう。

俺はずっと、璃子の事が好きだった」



明確な言葉にされた独占欲と恋情が、怖い。それなのに、首にかけられた両手には恐怖心を抱けない。

怖いはずの手は、まるで縋られているように感じる。



「なぁ、答えてよ」



…答えは一つしか、認めないくせに。


徐々に力を加えられても、やっぱり怖いとは思えない。


今までの関係を壊そうとする恋情と、独占欲は怖い。でも、すぐにでも私を壊せる彼の手は怖くない。



そのことがもう、答えを示している。



「…良いよ」



返事をすると、文哉がようやく、笑ってくれた。


嬉しそうなのに、泣いてしまいそうな笑顔を彼は浮かべた。


うん、なんだが、ようやく。

彼の表情を見れた気がした。





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