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Act.11

 料金を払い領収書を貰いタクシーを降りた先は加賀見家だった。庭には照明が灯り、松永が言うように鑑識班は庭で発掘作業をしているらしく、門をくぐり庭へと回れば見慣れた顔がちらほらいる。その中でも古株の鑑識を見つけると芝浦は声を掛けた。

「お疲れさん、差し入れだ」

 途中で寄ったコンビニで簡単に食べられるおにぎりやサンドウィッチ、そして飲み物の袋を渡せば途端に破顔する。

「シバさん、サンキュー。おらー、差し入れだぞー」

 男が周りに声を掛ければあちらこちらからお礼の声が上がる。正直、芝浦が予想していたよりも指揮が下がっているようには見えない。

「どうだ?」

「凄いなんてもんじゃないな。一応、あっちのシートに並べてあるが、今の段階で百匹以上の頭蓋骨が見つかってる。でも、まだあるみたいで先は長そうだ」

 溜息をつくそいつの肩を慰めるように叩くと、さっそくとばかりに芝浦は問い掛けた。

「ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」

「シバさんの頼みじゃ断れないよ。なんだ?」

 お互いに作業場所から少し離れたところまで移動してから、芝浦は他の人間には聞こえないようにいつもより声を潜めて話し出した。

「見つかった毒物だが、あれは水に溶けるものか?」

「水溶性は高いな。普通に水にも溶けるし、無色無臭だから水の色が変わることもない」

「人に対しての致死量は?」

「まぁ、百ミリグラムもあれば死ぬな」

「ならスプーン半分程度の水に今回の毒物を入れて人を殺せるか?」

 さすがにその言葉に答えはすぐに返ってくることなく、しばらく悩んでいる様子を見せたが、最初に確証がある訳じゃない、という前置きをしてから答えてくれた。

「子どもであれば殺せる可能性は高い。特に今回の神田のように小柄なタイプであれば」

「スプーンから毒物や唾液は検出されたのか?」

「いや、カレーからは検出できたが、スプーンからはされていない」

 とにかく芝浦が聞きたかったのはそのことだった。

「後で詳しいことをもう一度聞くかもしれない。助かった」

 それだけ言うと芝浦はすぐさま踵を返し、加賀見家を後にすると通りでタクシーを拾い、今度は捜査本部のある署の名前を上げればタクシーは確認することなく走り出した。すぐに関根へ携帯から連絡を入れると、また本部にいるということで今から行くことを伝えて電話を切った。

 夜の病室でただ、ぼんやりと手帳を見ていた時、あの瞬間、子ども相手とうい認識が全て消え去っていた。だからこそ見えたことがある。子どもだからしない、という常識を考えなければトリックめいたものではあったけれども、実行する可能性は残されている。教室の中にいたのは教師という大人が一人と、子どもが二十九人。一時的に教師も容疑者として上がったものの、誰もが子どものやったことではないだろうか、という考えが頭にあった。

 子どもは確かに可愛い。けれども、中には狡猾な奴もいる。十二歳という年齢を考えれば、こういう奇策も充分あり得ることだった。少なくとも、大人相手に捜査している時であれば芝浦が考えなくても、誰か他の人間が考えたに違いにない。

 署の前でタクシーを降りると、芝浦が足早に捜査本部へ向かえば、数人残る捜査員に驚いた顔で迎えられる。既に帰宅した筈の芝浦が現れたら確かにそんな反応があってもおかしいものではない。

「シバさん、こっちだ」

 すぐさま関根に声を掛けられて再び廊下に出ると、そのまま休憩室へと促される。既に深夜になろうという時間もあって、その空間は無人だった。

「帰ったんじゃなかったのか?」

「あぁ、帰った。ただ、一つの仮説が思いついて、お前さんに話したくなった」

 途端に椅子へ腰掛けた関根は腕を組んで目を瞑ると「聞こう」という一言でそのまま黙り込む。

「先に言っておく。これは俺の想像でしかないし、トリックの種明かしであって犯人を伝えるものじゃない」

 芝浦の言葉にも関根は黙ったままだったが、きちんと耳を傾けていることだけは分かる。だから、芝浦はそこで言葉を止めることもなく、そのまま自分の想像を伝えるべく言葉を続ける。

「俺はつい先まで、単純に毒はカレーに入っているものだとばかり思っていた。だが、もしかしたら、毒は予めスプーンにつけらえていたんじゃないかと考えてみた。そこで鑑識に確認すれば、スプーンについていたカレーから神田の唾液は採取できたけれども、スプーンからは採取できなかったと聞いた。毒物に関しても同じ結果だったと」

「カレーを食べていたんだから、そういうこともあるだろ。第一、毒物が検出されなかったなら何もおかしなことはないだろ」

 そこで初めて関根は口を開いたが、余り興味は無さそうに見える。確かに、芝浦たちの仕事はトリックを曝くことではなく被疑者確保が最優先なのだから、関根にとっては余り楽しいものではないのかもしれない。

「いや、自分が食べる時を想像してくれ。味見するならともかく、普通にカレーを食べようとすれば、一口目はどうやってもスプーンに直接触れる部分があるんじゃないか?」

「子どもがやることだぞ? そんなこと分かるか。第一、スプーンに毒を塗ったとしてもだ、実際検出されていないのだからどうしようもない」

「確かに検出はされていない。だが、俺たちは直接カレーに毒物を入れたと思い込んではいなかったか? スプーンに塗られていたとしたら、そこからまた容疑者が広がる、もしくは狭まる可能性は無いか?」

「シバさん……言ってることが矛盾してる。それなら毒の塗られたスプーンはどこへ消えた。……いや、待てよ」

 ここにきてようやく芝浦の気づいたことに関根も気づいたらしい。

「怖い冗談はやめてくれ……相手は子どもだ」

「あぁ、子どもだからそんな奇策を使う真似をするとは思わなかった。そう思うのは大人の勝手だ。第一、神田の食器類については全て調べたが、教室内にある全ての食器を調べた訳じゃない。だから、そのことについてもう一度聞き込みに回りたい。何か変わったことは無かったのか、そして食器に触れたのは誰か」

 静かな空間に沈黙が落ちると空調の機械音しか聞こえなくなる。ただ、お互いに黙ったまま芝浦は見上げてくる関根を見つめていた。先に沈黙を破ったのは関根の方だった。

「止めても無駄って顔してますね」

「分かるか?」

「いいです、許可します。他の捜査員にも声を掛けて明日一日で片付けましょう。本当にシバさんが言うような子どもがいるのか……俺はいないと思いたい」

 確かに関根の子どもは十歳になると言っていた。二歳しか違わない子どもたちの中に、そこまで狡猾な子どもがいるとは考えたくないその気持ちも分からなくはない。

「学校に繋ぎをつけて、放課後一斉に個別聞き込みしてしまいましょう。俄に信じがたい話しではあるが、切り捨てるだけの確証も無い」

「助かる。いないならいないで俺もその方がいいと思っている。ただ、カレーにあの白い粉を入れたら、さすがに混ぜないと誰も食べようとはしないだろ。そう考えると使える手がそんな方法しか考えつかない」

「けれども、そのスプーンすら何らかのタイミングですり替えたのだとしたら……スプーンに毒物がついていたら疑われる人物ということだな」

「あぁ、そうだ。まぁ、どちらにしても夕方にならないと明日は動けない。俺は仮眠を取って朝は病院に行くぞ」

「そうして下さい。私もそろそろ一度自宅に帰ります。今日はこれ以上ここに残っても進展がないみたいですから」

 暗に先ほど帰ろうとしていたところ、芝浦が電話をしたことを揶揄しているのが分かり、芝浦としては苦笑するしかない。お互いに話しは終わりだとばかりに休憩室を出ると、芝浦はその場で関根と別れて仮眠室に向かおうとした。けれども、結局、行き先変更をして少女のいる病院に向かうためにタクシーに乗り込んだ。

 仮眠を取るのであれば仮眠室でも病院のソファでも同じようなものだ。それなら、起きた時に芝浦が傍にいた方が少女も安心するに違いない。そう思えるくらいには少女から信頼されているらしいことは芝浦にも分かっていた。病院に到着した時には既に深夜〇時を回っていて、足音を立てないように病室前に立つと小さくノックした。それから扉を開ければ、どうやら黒澤は起きていたらしく、芝浦を目にした途端、驚いた顔を向けてきた。

「シバさん、どうかしたの?」

「ちょっとヤボ用があって飯だけ食って出てきた。寝るだけならここでもいいかと思ってな」

「まさか……奥様と喧嘩したとか?」

「喧嘩?」

「真利亜ちゃんのことで」

 余りにも充子が諸手を挙げて賛成したものだから、芝浦の中では重大事項だった筈の出来事は、事件についての思いつきで完全に霧散していた。そんな自分に苦笑しながら首を横に振って否定する。

「明日には先生に話しを聞きに来るって言ってた。あいつのことだ来ると思うぞ。ぜひ引き取りたいそうだ」

「嘘でしょ?」

「おいおい、嘘言ってどうすうる」

 笑いながら、それでも声を潜めつつ答えれば黒澤は驚きの表情を隠せないまま、マジマジといった様子で芝浦を見ていて、その視線が居心地悪い。

「あいつなぁ、元々子どもが欲しかったんだよ。でも、俺がこんなヤクザな仕事してるもんだから、言いたくても言えなかったみたいでな。子ども好きだし、不思議には思っていたんだよ。あと三十年は生きるそうだ」

「シバさんの奥様に俄然興味が湧いたわ」

「俺からも一応色々あるとは言ったんだが、先生からもあいつにどういう問題があるのか説明してやってくれ」

「分かった。それはきちんとリスク含めお伝えするけど……そっか刑事の妻なんてある程度肝っ玉座ってないとできないものよね」

「まぁ、そういうこった。悪いがソファ借りるぞ」

 それから黒澤にソファを借りることを伝えてから、芝浦はソファに横になる。挨拶を交わし目を瞑れば思っていたよりもあっさりと眠りにつくことができた。だから、翌朝、少女に起こされた時には熟睡していた自分に酷く驚いたものだった。それでもすっきりした気分になりたくて、備え付けの洗面台で顔を洗えば、少女がタオルを用意してくれてお礼を言って自分よりも下にある頭を撫でてやる。

 そして黒澤が芝浦の分の食事を買い出しに行ったところで、芝浦は少女にも聞いてみることにした。

「そういえば、君が覚えている範囲でいい。給食の時間になってから神田の様子、全て教えて貰えないか」

「給食の時間になってから、私は配膳当番だったから余り見てた訳じゃないんです」

「あぁ、分かる範囲でいい」

 少しためらう様子を見せた少女だったが、それでも、きちんと思い出そうとしているのか、視線は天井を見上げて思案しているように見える。

「私は当番で給食の時間になると、すぐに配膳室に行って班の子たちと台車でショッカンを運んで教室に戻った時には、もう神田くんは列に並んでいたと思います」

「ショッカン?」

「食缶はみんなの給食が入ってる鍋みたいなものです」

「あぁ、あれか。それで?」

 そういえば現場写真に鍋みたいな物が写されていたことを思い出す。そこにカレーが入っていたと聞いているので、あれが食缶なのかと当たりをつける。それから先に促せば、少女はさらに説明を続ける。

「順番がきて私が神田くんの食器にカレーを入れました。その後、神田くんは席に戻ろうとして……あ、そういえば渋谷くんとぶつかってスプーンを落としていたかも」

「神田が渋谷と接触? 落としたスプーンはどうした?」

「多分、いつもみたいに渋谷くんが洗って返したと思う」

「いつもみたいにって、そんなによくぶつかるものか?」

「渋谷くん、この数ヶ月で急激に目が悪くなったこともあって、よく人にぶつかってるんです。特に体育の時間とか、給食の時間はいつものことだったんです」

 全てが繋がった気がした。芝浦は椅子から立ち上がると、ちょっと電話しないといけないから廊下に出ることを少女に伝えると、逸る気持ちを抑えながら廊下に出た。すぐそこで黒澤に会ったけれども、携帯を耳にあてた芝浦は黒澤に軽く手を上げるだけに止めた。すぐに本部へと電話は繋がり、関根へと繋いで貰う。朝八時だというのに、関根は既に本部に詰めていたらしく数秒もすれば関根に電話は繋がった。

「もしもし、芝浦だ。昨日言っていたこと、シャレじゃなくなってきたぞ」

「どういうことだ?」

「給食を食べる前、神田と渋谷が接触してスプーンを落としていて、ぶつかった渋谷はスプーンを洗って神田に渡したらしい。まだあの子から聞いただけだから他の子どもたちにも確認してみないと分からないが」

「何故、そんな事情が今になって」

「それがな、渋谷は急激に目が悪くなって、ここ数ヶ月ずっとそんな状態だったもんだから、それが日常になっていたらしい」

「担任に確認してみよう」

「そうしてくれ」

 芝浦が切るよりも電話は先に切れてしまい、関根がいかに急いで確認したかったのかが分かる。これでもし、担任からも確認が取れたら芝浦としては例え現時点で証拠が無くても渋谷に一度会うつもりでいた。けれども、念のため、立川にも会っておくべきかと考えていれば、再び手にしたままの携帯から着信音が鳴り出す。画面を見れば松永からのもので、芝浦は携帯を耳にあてた。

「芝浦だ」

「シバさーん、一体、今どこにいるんですかぁ?」

「病院にいる」

「病院? 病院って真利亜ちゃんのいる病院ですか?」

「あぁ、昨日色々とあって結局ここに泊まり込んだんだ。マツこそどこにいるんだ」

「シバさんの自宅前ですよー! 迎えに来たのに家には誰もいないみたいだし、もしかしてシバさん、家の中で倒れてたりしたらどうしようかと思って電話したんですよ」

「だから、お前は人を年寄り扱いするなって言ってるだろ!」

「す、すみません。とにかく今から病院に向かいます」

 慌てて謝罪した松永は、なおも文句を言おうとする芝浦の声を遮ってそのまま電話を切ってしまう。全く、こういうところは本当に腹立たしい奴ではあったものの、それでも頼んでもいないのに脚がない芝浦のために自宅まで迎えに来るところが憎めない。携帯をスーツにしまって小さく笑いを零してから、改めて少女のいる病室に入ると、少女と黒澤の三人で朝食を取った。

 食事を終えたタイミングで松永も病室へ到着し、すぐさま芝浦は松永に廊下へと引っ張り出されて説明を促される。一緒に動いている以上、昨日からの行動、関根に対しての説明、そして今日聞いた情報を全て松永に教えたけれども、どうにも松永は腑に落ちない顔をしている。

「でも、子どもがそこまで考えてやりますかね。しかも、そうすると渋谷の動機が分からなくなります」

「確かにそうだな。だが、それを聞き出すのも俺たちの仕事だろ。せめて物証があればまだしも、物証が一つもない状態だからなぁ。だから逮捕状が現時点で取れない。渋谷への聞き込みも一度限りのものだ。あくまで事情聴取の延長線上で聞き出さないとならない」

「もし、そこまで狡猾な子どもであれば、多少の揺さぶりでどうこうなるとは思えないんですけど」

「だなぁ……あと一歩、何かがあればいいんだが。いや、待てよ。逆を考えるんだ。何故、渋谷はあの家に毒があったと知っていたんだ?」

「えー、そこからですか? っていうか、知らなかったと考えるのが普通ですけど。シバさん、自分の考えに固執気味になってませんか?」

 そこまで言われてしまうと、芝浦としても我を通すことはできない。考えついた妙案だからこそ、もしかしたら、という気持ちになっているのは確かだった。だが、それなら逆に考えついてしまった案を潰していく作業をしてもいいのではないかと思える。

 普通、自宅に毒がある家なんてものは少ない。ああして犬猫が大量にいたからこそ毒が加賀見家にあった訳で、そうなると加賀見夫妻から犬や猫を売買した顧客であれば、その可能性を考えつく可能性もある。その可能性を子どもに話していたとしたら、近所の子どもたちに話していたとしたら、可能性は全て潰していかないといけない。

「本部で売買した人間の顧客リストを作ってたな」

「えぇ、ありました。多分、今頃あの二人に確認中じゃないですかね」

「一度本部に戻るぞ。それから他の捜査員と共に立川の事情聴取に立ち合う」

「分かりました」

 一応、病室にいる黒澤と少女に声を掛け、また夜には一度戻って来ることを伝えてから芝浦は松永の運転する車で本部へと戻る。そして、既に作成されて放置されている顧客リストを二人で広げると片っ端からクラスメイトの名字や住所と照らし合わせていく。そんな中で引っ掛かったのはまたしても渋谷の名前だった。どうやら母親の名前だったからこそ見落としていたのか、住所を見れば容疑者として上がっている渋谷と同じものであった。

 取り調べをしている最中なのは分かっていたけれども、芝浦はすぐさま落ち着いた様子を見せる父親側の取調室に入ると、捜査員に一言断ってから芝浦は父親の前に顧客リストを差し出した。

「ここにある渋谷ってのはどういう人物だ?」

「あぁ、顧客の一人ですよ。近所だから時折挨拶させて貰いますけど……そういえば、金曜日にスピッツの子犬が欲しいと電話が掛かってきたな」

 金曜日の夜、それは立川や渋谷が加賀見家に来た日でもあり嫌な符号でもあった。何故新たに子犬を欲しがるのか。大抵の場合、もう一匹飼いたくなったからか、前に飼っていた犬が死んでしまったからか、そのどちらかが当てはまるに違いない。

「どうして新しい犬が欲しいと言っていた」

「何でもちょっとした事故で前に買った犬が死んだとかどうとか言ってたな」

「前は何を飼ったんだ?」

「確か二年ほど前にやっぱり犬を、ほら、ここに書いてありますよ」

 男の手が指さした先には確かにポメラニアンと書かれていて、日付は二年半ほど前になる。犬を加賀見家から買ったのだとすれば、加賀見家がブリーダーをしていることは知っていた可能性が高い。果たして渋谷家にいる二年半前に飼ったという犬は一体どうなったのか。

 取調室内に奇妙なざわめきが走る。けれども、芝浦はそれを気にすることもなく捜査員の一人に礼を言うと、すぐさま関根の元へ駆けつけて、今見聞きしてきたことを全て話す。

「物証はない。ただ自白を引き出せれば家宅捜索して何かを拾える可能性はある」

「随分ギャンブルだな」

「もしかしたら、証拠あるかもしれません」

「何だ!」

 思わず食って掛かるような勢いで芝浦が問い掛ければ、松永はあっさりとそれを口にした。

「犬です。犬の死体です。今、前に飼っていた犬が死んだと聞いて、シバさん想像しませんでしたか? もしかしたら、飼い犬で薬が本当に毒であるのか確かめたんじゃないかって」

「あぁ、確かに考えた」

「火葬しないで埋めただけであれば、犬が死んでからまだ一週間経ってないですから、その犬を司法解剖に掛ければ」

「毒が検出される」

「そういうことです。ただ、前提条件は火葬にしてなければ、という条件付きですが」

 条件付きだと強く言う松永の言葉に意見を上乗せしたのは関根だった。

「とりあえず渋谷の家に行って確認だ。動物虐待で加賀見が逮捕された件で、飼い犬について事情聴取をしているとでも言えばいい。それから給食時間にスプーンを落とした件、あれは担任も見ていたそうだ。とにかく頼んだ」

「分かった、行ってくる」

 それだけ伝えて芝浦は松永と共に署を飛び出した。車で渋谷家に到着するまで、お互いに口を開くこともなくただ無言のまま時間が過ぎる。署から十分もしない場所に渋谷家はあった。普通の一般住宅であり、呼び鈴を鳴らせば中から出てきたのはどうやら渋谷の母親のようだった。

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