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小説を書こう!  作者: 小説家の集まり
第二回 テーマ:春
7/25

テーマ:春 ”少年の一日” 作者:舞月

あらすじ

 十五回目の春を迎えた月影リクヤはすることもなかった。高校受験に無事合格し、彼はするべきことは終わったとばかりに高校入学までの十数日を何もせずに終わった。自室から一度も出なかった彼は、入学式の日に家を出て、学校へ向かう。

 そんな彼の目に飛び込んだのは、人が轢き殺される事件だった。


 月影リクヤは暇を持て余していた。志望した高校に入学し、彼はするべきことを終えたとばかりに、中学校を卒業してからの十数日を自室で過ごした。勿論両親には事情を話しているため心配されることはない。

 リクヤは虚ろな瞳で机とにらめっこしていた。木製の椅子に腰掛け、寝間着のまま、閉められたカーテンの隙間から差し込む光に照らされていても、彼は微動だにしなかった。まるでバッテリーが切れた機械人形のように。ピタリ、……と。

 そのとき、彼から数メートル離れたところに(たたず)む扉が数度叩かれた。勿論、リクヤは返事をしない。ただ、眉をピクリと動かしただけだった。

――リク、今日は入学式の日だぞ。

 “入学式”という単語に反応して、リクヤは顔を上げた。

「行くよ。約束だからね」

 時は、動き始めた。



 今まで一ミリも動かなかった人物とは思えないほど機敏に彼は着替え、食事を済ませた。彼の両親はその様子を怪訝そうに見ていたが何も言わなかった。彼はそんな視線も気にせず顔を洗い、伸びていた髭を剃って、それから出かけた。

 既に彼の頭髪は肩まで伸びている。整った顔立ちは薄い影に隠れていて一種の神秘性を持っていた。通りすがる人々は彼を見て、それから笑いながら彼について話す。話す内容は様々だが、「格好良い」などのことが大半だった。

 それでも、彼は歩き続ける。それはどこか機械じみていた。

 横断歩道に差し掛かった時だった。赤信号だということで彼はピタリと脚を止めた。だが、先程から彼の近くを歩いていたカップルは赤信号だということに気づかず、談笑しながら赤信号を無視する。

「危ないっ!」

 誰かの声が響いた。そして、横断歩道に出た彼らは飛び出してきたトラックに撥ねられた。赤い血が辺りへと撒き散らされる。

 見れば、トラックが飛び出してきた方向はまだ赤色だった。ゆっくりと黄色へと変わり、それが青信号へと変わる。

 その間に、悲鳴が上がった。

「え、この時ってどこに電話すればいいの?」「警察じゃね?」

 ざわざわと騒ぎ始める。騒ぎを聞きつけた野次馬が集まってきた。

 とても近いところで事故の様子を見ていたリクヤは、漸く興味を惹かれたようで事故の被害者のもとへと歩み寄った。

「大丈夫ですか?」

 (しゃが)れた声で言う。久しぶりに口を開いた彼の声は、それでも不思議と透き通った水のようだった。だがその声は車輪の下に血溜まりを作っている二人には聞こえていないようだった。

「リコ……生きてる?」

「う、んっ。私、は、生きて――」

 男の上に被さるようにしていた女は、それを最後に息絶えた。間もなく救急車が到着したが、その時には男も倒れていた。

 それを見届けてから、彼は小さく呟いた。

「幸せと絶望はいつ訪れ、いつ終わるか解らないものなんだな」

 彼の目は、どこか輝いていた。


五枚会の時をイメージして書いたのですが、やっぱりこういうもののほうが書きいいですね。個人的にはしっかりと終わらない話が好きです。

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