テーマ:不公平 『幸せの形』 作者:月影舞月
死にたい。今回ばかりは本気でそう思った。原因は単純明快で、失恋だ。ベタ中のベタかもしれないが、交際期間三年の相手とこっぴどく喧嘩別れしてしまったのだから。
愛していたというのに。それは、相手には伝わっていなかったようだった。「秀君なんてもう嫌い! この世から居なくなればいいのよ!!」という言葉は、かなり効いた。自分は、この世にいてはいけないのだと、その時ふと思った。それが、理由だ。
一人暮らしだから遺言を残しても見る相手がいない。せめて誰かに自分の死を覚えていてほしい。だから、無二の友人の和清にそれを伝えることにした。
電話を掛ける。コール数度目で電話がつながる。
「もしもし」
『おお、秀か。どうした?』
いつもと変わらぬおっとりとした声で、和清は答える。その声に安心して続ける。
「死のうと思うんだ」
『……は?』
困惑したようで、和清は『なんで?』とか『どうして?』とか聞いてくる。彼には交際相手が居ることを明かしていたので、そのことを告げた。
「悲しいんだ。華琳がいない生活なんて考えられないんだ。そんなんじゃ、これから先生きていけない」
『なにいってんだよ、まだオマエ二十もいってねえじゃんか。いいことあるだろ、絶対』
「いいことがあっても、なくても、もういい」
『……このバカヤロウ! オマエ、約束しただろ? 一緒の大学行くっつったじゃねえか!』
彼は、泣いてくれていたようだった。こんな自分の為に。自分が死ぬことを悲しんで、泣いてくれていた。そう思うと、とても嬉しかった。
本当の幸せとはこう言うことかも知れない。和清に、「すまんな、早まった」と言うと『ほんとだよ。今度から馬鹿な事言うなよな』と、涙ぐみながら言ってくれた。
雨上がりの空には、虹がかかっていた。
◆
「ね、いまの電話、誰から?」
「ああ、秀からだよ。自殺するとか言いやがって、焦るわぁ……」
和清は、忌々しげな表情で受話器を睨む。華琳は「キモッ」と口を押さえて、キャハハと下品に笑う。和清はそれに同意し、苛立ち紛れに華琳にキスした。舌を絡め、くちゃくちゃと音をたてて。
「でも、オマエも不公平だよな。俺が前の女にフられて『自殺する』っつったら真摯に慰めたのに、元カレはボロクソ言いやがる」
「当たり前じゃん。わたしは和清が好きだしぃ。秀と付き合ってたのも、和清の親友って聞いたからだもん」
そう言って、今度は華琳から秀にキスをした。
「世界で一番愛してる」
「私、も」
口を離して言葉を交わし、また唇を重ねる。その流れで彼らはベッドの上に移動し、お互いを貪りあった。
そうして夜は更けていく。真実を知らない者は幸せを感じ、一人の人間を弄んだ者たちは止め処ない欲望の中に幸せを感じていた。
きざなセリフ、個人的にはいれたつもりですが大丈夫ですかね。
心配です。