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小説を書こう!  作者: 小説家の集まり
第一回 テーマ:観察
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テーマ:観察 ”考え方” 作者:舞月

作者:舞月

 間違い探しというものを知らない人はいないと思う。ぼくが最初にそれを知ったのは義務教育の過程だったが、他の生徒は幼稚園か小学校低学年の頃にはその遊びを知っていたであろう。そっくりの絵が二つあって、それを見比べてどこが違うのかを探す。実にシンプルなゲームだ。

 だが観察力を鍛えるのにはちょうどいいのではないだろうか。

 幼少期には間違い探しに夢中になり、観察力だけは人一倍になった。ぼくはそれにとどまらず本の中ではなく、現実での間違い探しを始めた。

 例えば、AさんとBさんの違う点を探す。これは単純に男と女から、服装や性格、行動という些細なところまでだ。それを行うことが、いつからだかぼくの癖になっていた。それは消えることなくいまでも脈々と引き継がれている。だが、ぼくはその行動を、その癖を誇らしげに思っている。それもいつ頃からかは解らない。

 ヒトを、モノを観察するときに感じるあの感覚。解るだろうか。

 ヒトとヒトとを見比べるときにはその『ヒト』の良さが引き立たされ、その分だけ“影”も濃くなる。ヒトはどのような行動にも無意識な『醜さ』が尻尾を出すのだが、その影が強いぶんだけそのヒトのしていることの『光』の面……綺麗事というものが大きいのだ。

 それを選択したときのその人物の表情、行動、仕草。それを見ているだけでも僕は恍惚とする。まして、それが自らに向けられた場合は絶頂すら覚えるほどだ。

 瞳の奥に隠れている邪悪。それの大きさは瞳によってちがう。濁りきった瞳もあれば透き通った瞳もある。前者が邪悪を多く持ち、後者が邪悪をほとんど持っていない。だがぼくはそのどちらにも属さない、奥の見える濁った瞳が大好きである。

 中途半端な悪、中途半端な善。未発達の肉体を求める者がいるのならば、ぼくは未発達の精神を最も好んでいる。

 殊にぼくはニンゲンの肉体ではなく精神を好んでいるのだ。肉体の仕草なども好きだが、それはあくまでも精神から生まれるものなのだ。先ほどいった未発達の精神とは、その仕草や行動が本人にもつかめず、自分の真意を暗中模索している最中のことだ。それがどのようなベクトルに向かうかによって、その後欺瞞(ぎまん)に満ちた行動をとり始めるのか、それとも純真無垢のまま、最後は騙され、欺かれ、それでも人を信じ続ける(みち)を歩み続けるのか、

 それとも、ヒトを騙し、自らをも騙し、ヒトを信じ、自らをも信じる。そういった『中途半端な』途を歩むのか。すべて未発達な頃に決定される。

 まれに例外も存在するが、人生というものは基本、ぼくの知っている限り三点のうちどれかに集結されている。いくらヒトが否定したところで、見方によって物語(じんせい)は様々な捉え方がある。

 それをどのように観察し、どのように解釈するかは人それぞれだ。ダ・ヴィンチの絵画でさえ、観察した後にくだらないと一蹴する者もいれば、素晴らしいと感激する者も居る。これも光と影であろう。

 けれど。


 ぼくはこの日、この考えの全てを否定された。


 父と会話していたときだった。

 ぼくはぼくの考え方の全てを打ち明けた。

 父は黙ってそれを聞いていたが、ぼくが話し終えた後、小さく告げた。

「お前の考え方は、おかしい」

 父はそのまま続ける。

「人間が三種類しか分類できないだと? 笑わせる。オマエはその三種類の外にあるではないか。その時点でニンゲンは三種類以上いるものだと気付き給え。

 貴様の言うような中途半端な精神というものは確かに発展途上であるだろう。だが、大人だって精神の面では常に成長し続けている。一度真実だと思ったことが偽りだと気づいたら真実を求めるのがヒトだ。ニンゲンだ。

 解るか?」


 その言葉だけで、ぼくは完膚なきまでに打ちのめされた。確かに、そんな単純なことに何故気がつかなかったのだろうか。やはり経験が足りないのだろうか。

「そうだ。おまえは経験が圧倒的に足りない。……だが、その年でそれだけ考えられるのならば上々ではないか?」

 父は、自分の息子を自慢気に見た。

 ぼくは、感涙しそうになった。


 ニンゲンが精神の面で成長し続けているというのは、どうやら間違いではないようだった。


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