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小説を書こう!  作者: 小説家の集まり
第四回 テーマ:殺戮
18/25

テーマ:殺戮 『戦争』  作者:月影舞月(旧名舞月)

テーマ:殺戮

指定:戦闘シーンを入れる


禁則事項:近距離武器の使用禁止(ナイフ、ダガー以外)


禁則事項2:視点移動は(使うとすれば)一回限り。二人の視点しか使わないこと。


※この企画は誰でも参加出来ます。

 参加したい方は、『月影舞月』へメッセージをください。お願いします。

 これはとある戦場――

 無人戦闘機がその双翼を食いつぶす中、唯一、有人戦闘機が殺戮の空を舞っていた。その動きは無人戦闘機には追うことすら出来ず、パイロットは彼らを狩っていく。無機質な動きしかできない()に、いったいどうして人間が敗北しなければならないのか。

 パイロット――(ワン)()(イエ)はそう思う。太極暦0230年現在、人口でも、技術でも、全てにおいてトップに立つ中華帝国の一パイロットにして、人類最強の男は、愛機の牙を、思うがままに操る。

 四方八方から20.0mm機関砲の雨あられを浴びせる、機械的な動きしか(・・)できないF-00=贋<<ファントム・ゼロゼロ=フェイク>>の動きを当然のように読み、王は機関砲を動力部にぶち込む。

「Bingo!」

 ネイティブバリバリの発音で、彼はガッツポーズを取る。彼専用に作られたJH-01「(ワン)」はパイロットにかかるGを限り無くゼロに近づけ、また、その能力は無人戦闘機をはるかに凌駕する。 

 それを操ることができるのも、王だけ。人類でただ一つ、無人戦闘機に勝利する有人戦闘機である。黒光りするその体を挑発するように揺らし、彼――彼らは、“通常飛行で”秒速500mという数値を叩き出すエンジンをフルスロットルにし、群がるハエの中から脱出する。

 三百メートルくらい離れたところで急旋回し、エンジンを切り、滑空状態に入る。そのゆっくりとした飛行状態で、照準を敵数十機に合わせて、トリガーを引く。

 散弾型のミサイルポッドが射出される。大砲の弾のようにも見える、一昔前のミサイル型をした巨大な風船を割れ、無数の魔弾が打ち出される。それは極めて正確に、かつ鋭利に動力炉を抉り、内側から敵を粉々にする。よしんば躱せたとしても、躱した先には味方がおり、その鼻先でキスして自ら死を選ぶ。

 ただし、血は流れない。いくら鉄屑が地に墓標をたてたとしてもそれを見て憐れむものはなく、悲しむものもいない。いるとすれば製作者程度だろう。

 そんな戦場で、百獣の王として生きるのが王劉夜の生き様だった。


 

 人類が有人戦闘機を捨て、無人戦闘機を持ち始めたのはだいたい数世紀前の話だという。暦がまだ西暦だった頃だ。当時世界最強と謳われたアメリカ合衆国の製作した無人戦闘機F-00をキッカケとし、日本、韓国、E.U.連盟、大英帝国、そして中華帝国という順番で、それぞれ無人戦闘機の制作に取り掛かった。

 そして第三次世界大戦――のちに無人大戦と呼ばれる、“戦場で血を流さない”世界規模の戦争で勝利したのは中華帝国だった。理由は簡単、圧倒的な()(かい)戦術。無人戦闘機を始めとし、そのまたさらに数十年前ほどに日本にもたらされた大量の軍事技術をベースとした“人工生命(こうせいのうAI)”の搭載された戦車、潜水艦、兵士……と、圧倒的な物量で、英米を、日欧をたたきつぶした。そののちに中華帝国は各国と香港条約を結び、実質的な植民地化に成功した。

(それでも、我らに楯突く阿呆どももいるんだな)

 王は内心溜息をつく。中東諸国はさらなる軍事化を測り、中華帝国に対抗するために中東連合を生み出したのだ。

 ついこのあいだ勃発した、アラビア戦争に、世界最強と言われる唯一の有人戦闘機乗り、王は駆りだされていた。

 つい先程二十数機ほどの的を潰し、アラビア基地<<ベース・アラビア>>の個室にてセブンスターを吸っていた彼は、上官の劉黒夜の訪問を受けていた。階級が特佐の彼に命令することができるのは、自然、少将以上となるのだが、目の前にいる人物は中華帝国の元帥である。もともとはどこかで傭兵をやっていたらしいのだが、今では一元帥に収まっている。本人は、「オレは戦場に出なければ気が済まない」といつも愚痴をこぼしているが。

「そこ、口に出ているぞ」

「Really? それはすいません、閣下」

「劉で良い。オマエと飲む酒はいつも美味いからな」

 彼はポケットに入っている携帯灰皿を取り出し、まだ半分も吸っていないタバコの火を消す。そして、劉の言葉に顔を上げて、真顔で返答した。

「それよりも美人の妻と飲み明かしてはどうでしょうか」

「アイツに酒を飲ませると泥酔して話を聞かなくなる。オレとしては振り回されるのは嫌いなのでね」

 やれやれ、と頭を抱えた後に本題に入るぞ、と手振りで彼は伝える。王はそれで表情を引き締めた。談笑している場合ではない。

「敵陣が割り出された」

「本当ですか!?」

「……声が大きい」

 戦争が終わる。そう思うと彼は苛立ちでつい大きな声を出していた。あの、敵を墜とす時のトリガーの感触が長らく味わえないと思ったとたん、彼は顔を真赤にして俯いた。そんなことを赦してたまるか。演習では物足りない。

「オマエにくだされる任務は皇帝閣下直々の命令だ。『敵陣を爆撃し、要塞都市に残る生命の一切を排除しろ』だそうだ。尚、降服するものは撃つな。撃てば国際条約に違反する。オレでも庇いきらん」

「了解しました」

 必死に搾り出した声は、ちいさく、蚊の鳴くような声だった。


 その一時間後、整備の終っていない『王』のコクピットに乗り込み、機関砲の玉数がいつもより少し少ないことを確認してから、彼は長い発射シークエンスを暗闇のなかで待つ。戦場でなければ、これから大量殺人者となりえる二十代の青年を、太陽は待ち望むように、天高く輝いていた。

「発進」と小さく言って彼はフルスロットルで飛び出す。初速は秒速600mオーバー、なかなかのところだと彼は思う。天候によって初速にばらつきが出るため、その後の滑空で使う燃料が違ってくるのだ。

 今日は乾燥して、よく日が照っている。絶好の発進日和だった。

(そんなことは、少し前にはもう解ってたんだがな)

 やはり、敵との戦闘がないと思うと物足りないが、それだからこのようにゆったりと考え事をする暇があるのだろう。目的地までのこり20kmとなったところで彼はエンジンを切り、上空10000mで滑空を開始する。ジェット気流に乗って、グライダーの要領で加速し――すぐに、下降する。目指すのは、空気の厚いところに聳え立つ要塞都市。その中で一番高い建造物目がけて、彼はミサイルを撃ち込んだ。

 爆発。血の色をした花火を上げ、彼は虐殺を始めた。


 ところで、王劉夜は人を殺したことのない人間である。生まれて以来エリートコースを爆進してきた彼は人を傷つけることはあれど、軍人として人を殺したことのない、所謂「お坊ちゃん」であった。

 なので、今回が初めての殺人だった。

 初めは、彼は街に向かってアンチマテリアルミサイルを次々と撃ち出す。夕日を眼前で見ることのできた人々は、みな悲鳴を上げ、全身からトマト汁のような液を吐き出す。それを直視することなく、彼は生命活動を奪い始めた。

 そういえば、警告とかするんだっけ……それを思い出して、彼は戦闘機についているスピーカーで警告を発する。

「Strike your colors, you blooming cockroaches!」

 思い切り皮肉っていってやった。したり顔の彼は、しめしめこれで民間人も殺せると意気揚々としていたのだが、次々と白旗を上げて出てきた。軍人含めてだ。まるで白色の海が現れたかのような様子に、彼は一時唖然とする。

 仕方無しと思い、彼はさらに降下し呼びかけようとしたところで、敵は本性を表した。

「Die chink coolie!」

 いきなり高射砲を構え、射程内に入った『王』を狙い撃ちにする。慌てて王は急上昇し、白旗の海から弾丸の海へと変化した群衆の姿を見る。その表情に塗りたくられているのは憎悪一色。

「オレは、悪くねえッ!」

 逆ギレ気味に彼は叫び、対人ミサイルポッドを一発打ち込む。


 爆ぜた。内側から肉が、内蔵が飛び出し、用意されていた白旗が赤く染まる。そして、上空数千メートルまで響き渡る甲高い合唱。そこに向かってさらに、命を奪うためだけに用意された殺戮兵器が打ち込まれる。


「くそ、くそ、くそっ!」

 そこで、漸く彼は理解した。自分が行っていた行動は、裏でこのようなことを起こしていたのだと。気づけば涙が出ていた。子供のように嗚咽していた。自らの罪に気づき、彼は罪悪の気持ちでいっぱいになった。けれど、彼は機関砲の引き金を引くのに躊躇しない。


 彼は軍人だから。



 ☆


 『王』は後に、英雄の乗っていた機体として世界で最も有名な大英博物館に所蔵されることになった。国一つ買えるくらいの金を積んだ大英帝国も大英帝国だが。かつてそのパイロットの使っていた主要兵器も全て展示され、彼が行った英雄的な行動は賛美されると同時に、稀代の大量殺人者として歴史に新たに名を連ねる事になった。

 晩年の彼はアラビア戦線から離れた後の、統一政府が生まれるきっかけとなった太極戦争を勝利に導き、曙という照合を皇帝から頂戴した。

 そんな彼が、世界が統一された後に遺した唯一の言葉がある。

「人が殺されることは真に悲しいことだ。それを人が理解していないことは、それ以上に哀しいことだ」



 その真意を理解した人類は、まだ現れていない。

 統一された世界では、いまでも人が殺されている。


気づけば企画運営になっていた今日この頃。びっくりです。


今回は超特急で仕上げたので感銘を受ける人が少ないかなぁ、とか心配していたり。

でも頑張りました。


無人戦闘機、もう開発されたらしいです。いったいこのような世界になるのかなぁ。

ゲーム感覚で人を殺す人間も増えているからもう怖い怖い

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