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 店はよくある普通のファミレスだった。とりあえずまだ夕飯といくまでにはかなりの時間があり、今はドリンクバーを頼み、灯さんの話を聞いている。

「で、これが私たちの行く遊園地のチケット」

 そして俺にチケットの現物が渡される。

「ああ、ここなら何度か行ったことがあります」

「まあ、この県に住んでればたいていの高校生は行ったことがあるでしょうけどね」

 最近は入場料が高くなっているので行っていないが、しかし浦安か・・・遠いな。

「予定としては今週の土日、つまり明日か明後日。急な話だったかもしれないけど、用事とか入ってる人、いる?」

「僕は特になにも」

「私も」

「それじゃ、日曜午前八時にここ集合で」

 これで休日のヒマは潰せそうだ。どうせクラスで作った友達といっても休み時間に話す程度のやつばかりで「明日遊ぼうぜ」的なノリは絶対にありえない。

 食事代は全員分おごってやってもいいかもな、と言っても二人分だが。

「さて、作戦を立てますか」

「は?」

 二人が目をダイヤモンド級に光らせている。そしてその目はこれから悪知恵を出そうという少年のそれに近い。

「あ・・・あの、そそれはどういった意味で?」

 たずねてみると二人はこっちをジト目で見てくる。

 灯さんは頭をかき、

「あんた、午後は藍と一緒にいたでしょ?何できいてないの?」

 とはいっても、書架整理は別々にやってたし、その後はその後だったし、そのときの俺にきけるほどの根性は残念ながらない。

ということで教えてもらった。


・坂本家はかなりの資産家で、遠出するときはほぼ絶対的にSPがついてくる。

・坂本藍の両親は相当に厳格であり、女友達でも一緒に外出する際は一度坂本家へ挨拶に行かなければならない。もしそれを破ろうものなら家訓により処分が下る。


 以上二点が彼女達を高揚させるものらしい。まあ、縛るものが興奮させるってのはわからなくもないが。

「まずはやっぱりどうやって出し抜くかよね、以前は藍の親が両方とも仕事で家にいなかったから割と簡単にいったけど今回はそういくとは限らないし」

「それなら委員会の会議があるってことにすればいいんですよ、わざわざ学校に連絡する親なんてそうそういませんし」

「へえ、あんたにしては名案じゃない」

 逃げることに関しての言い訳と策略は中学後半で山ほど味わっている。特に嫌々入らされた部活なんかは隙を見てよく逃げたものだった。

「ただ、それだと私服をどうやって持ち込むかが疑問になってくるし、会議なら休みにわざわざっていうのもあぶなそう」

 言われてみれば確かにそうだ。学校を経由していくのは少々危険を伴うだろう、しかしこれら問題はすぐに解決ができそうだ。なぜならすでに問題点と避けなければならないところがはっきりしているからだ。

だったらそれを一つずつ潰していけばいい。まずはどうやって外出するかを考える必要がある。坂本家の特殊な家庭環境を考えるのはそのあとだ。結末を作った後にそこまでのいきさつを考えるのはプレゼンなんかをするときによく使われる工程だ。とりあえず目的としては坂本の親に気付かれずに遊びに行くってことだ。

とすれば、方法は二つ

・親しくしている友人の家へ遊びに行く

・学校など普段使用している施設の名前を出す

 後者は一度はずれているところからして、あまりいい選択肢には見えない。ということで、前者の内容を使えるかどうか質問してみる。

「灯さんの家にはよく遊びに行ったりしてないんですか?」

「え、私の家だったら結構な頻度で来てるわよ。最近は一人で来ることも増えたし、ねえ?」

「うん」

「なるほど、それなら藍さんを灯さんの家に呼んで、そこからの外出ってことにしましょう。そうすれば違和感も極力抑えられます」

我ながら名案だ、と思っていると灯さんが身を乗り出して顔を見てくる。どうでもいいですけど、息がかかってますよ。

「灯台下暗しってところかしら、ってかこの千円カット美容師に練習させるためについてるとしか思えない頭のどこからそんな精巧な妙案が出てくるわけ? 信じられない」

 ・・・・・・最後の「信じられない」は結構深く刺さった。

「痛いです。心が」

「あんたの心なんざどうでもいいわよ、じゃあ明日金曜だし、藍は大まかな荷物を持ってきちゃいなさい。私が家に持って帰っておくから」

「いや、ちょっと待って下さい」

 そう、ここでカットしてはいけない。あとはルートにある危険因子を抜き取らなければならない。

「それはどうやって持っていくんですか? 見つかるかもしれませんよ」

「それもそうね、じゃあ買っちゃいましょ、明日の帰りにどこかよって買えばいいわ。お金は私が出すから、当日に返す分を遊ぶ分と一緒に持ってきて」

「うん」

「解決はや・・・でもそこの時間はどうやって取るんです? 寄り道なんてそうそうできそうに思えませんけど」

「あんたは今、その寄り道の一つに参加してるのよ」

「ああ、そうか・・・・・・」

 ってことで、決まってしまった。日曜日、午前八時にファミレス集合。それだけ確認を済ませると解散となった。

 店の前で坂本は家に迎えの電話を入れ、俺と灯さんは坂本の車が来たのを確認すると、帰路についた。

「なんか、面倒な事になりそうだな」

そう言うと隣を走る自転車から

「面倒な事になったら、全部あんたの責任にするから、問題はないわよ」

「なんですかそれ?」

「原点の発想はあんたがそう言ったところにあるんだから、責任は全てあんたに帰結するって言ってんの」

 面倒だな、やっぱりこんな感じになるか、日曜は息抜きには使えそうにない、出発の日はちょっと早く起きてコーヒーの一杯でも飲んでいくか、リラックスできない休日は大変そうだ。

日曜日、再び話し合いをしたファミレスに集まった、日曜の朝から使う客は少ないらしく、客寄せのためか窓側の席だけが埋まっている状態だった。

俺たちもそんな奴らの仲間入りを果たし、ドリンクバーを頼んでのんびりしていると、灯さんは店内を見回し、

「何なのこの客たちは? ほとんど全員一人できてるじゃない」

 そりゃそうだ、こんな日、こんな時間にやってくる客なんぞ輸送トラックのおっちゃんか一人暮らしで自炊が面倒なやつ、もしくは俺たちのように性格に癖のあるやつくらいのものだろう。聞こえるのも話し声ではなく道路を通る車の音のほうだ。

「生活環境が似ているとその時間に集中するのは当然なんですから、むしろ僕たちのほうが変わってるんですよ」

「なんかそのしったかぶりをする奴がよく使うような口調はやめて欲しいわね。それとお腹すいたし私はここで何か頼むけど、二人は何か食べなくていいの?」

 一つ毒を吐いたあと、そのように言われた。

「じゃあ、俺はピザでも」

「私は・・・いいや、何か食べたいって訳でもないし」

坂本以外、つまり俺と灯さんが注文して、そんなに混んでいないせいもあってか、すぐに注文した商品は届いた。

 しかし、一人食べないでいるのも少し気になる。

「藍さん、何か食べなくていいんですか? よかったら僕のピザ何切れか食べます?」

 なんて事を訊いたら「いい」と言葉だけで遠慮されてしまった。

「で、いつごろここを出るんですか?」

 なんとなく訊ねたはずの言葉に、二人の表情が暗くなっていく。俺はというと、何か悪い事でも訊いてしまったような、そんな感じだ。

 灯さんは短く息を吐き出し、

「まあ、最終的には言わなきゃいけない事なんだけどね」

「何なんですか?」

「私達の計画、失敗したの」

「・・・・・・は?」

 今、なんと?

「だから、失敗したのよ。何もかもがパーになっちゃったの。タイミング悪く見つかっちゃってね」

 という事は、俺の出した案がアウトだった、という事だろう。特に気にするでもなくちょろちょろと声をかけて変に計画を落ち着かせた俺の責任である。

「それは、すいませんでした。」

 灯さんは話し始めのときからずっと上を向いている。

「今日、曇ってる。行かないにはちょうどいいじゃない。どうせ行くなら晴れてるほうがいいしね」

 灯さんの目が、潤んでいた。

「僕に何かできる事は無いでしょうか? 罪滅ぼしさせてください」

 半分社交辞令のように出た言葉。灯さんはゆっくりテーブルに伏せていき、顔を腕の中に埋めた。

「その言い方、ちょっと鼻につくわね、罪滅ぼしなんていらないわよ。ただ・・・」

 鼻をすする音がする。

「ただ、なんでしょう?」

 伏せていた顔を上げ、コップを出す。

「できるなら、なんでもいいからジュース入れてきて、今日はここでゆっくりしましょ、それとあんたの名前は出してないから、その点は気にしなくていいから」

 灯さんは自分でいろいろ行動した事もあって落胆も俺たち以上なのだろう。二十歳ならアルコールでも頼んだほうがいいのかもしれないが、いかんせん俺達はまだ未成年、そんな事はできない。とりあえずの処置として灯さんのはコーラを入れてきた。酔うことは無いと思うが、

「何でコーラなの? 私炭酸系苦手なのに・・・・・・。あんたのはブラックコーヒー、いいや、そのままちょうだい」

 俺の手から取り上げ、自分の前に置く。しかしその造作は味気なく、すぐに記憶の外へ出ていく。砂糖とミルクは必要ないのか、そのままゆっくり、コーヒーを冷ますためか間を大きく開けて飲む、飲み干す。

 それまで、誰も口を開ける事はなかった。俺も何かを話すような気にはならなかったため、延々と外を眺めた。時折手元のコーラの事を思い出し、チビチビと飲んでいった。

コップが空になり、空気を混ぜながら口に入ってくる。

「・・・・・・間接キス」と灯さん

「今さらですよ」と俺

まあ、そんな事は灯さん自体もわかっているだろう。ただこのなんとなく無駄に流れ続ける時間に対してどうしたらいいのか迷っているのだろう。

「これからどうするの? 私達」

 何もできない。


こうして俺たちの物語は無くなった。

 いやぁ、これ僕が書いた始めての小説みたいなものだったんですけどね、これを書いてて思ったのが「小説書くのって読む事の一万倍は難しいな・・・」って事です。

 いろいろな方法論とか小説の書き方の本を読みましたけど、そういう執筆に関する苦労はほとんど全く触れてくれないんですよね。

 文字という一次元の世界に、三次元またはそれ以外の世界を築き上げる。ましてやそれを楽しいものにする。その活動に必要なエネルギーや持久力、そして語彙や感性といったいろいろな人間的活動力を今回はひしひしと身をもって感じました。

 そう考えると長編をたくさん出してる人なんて絶対人間じゃねえ・・・ とか思ってますがそれは別のお話。

 でも、書いてる間はとっても楽しかったです。自分の中で出来上がっていく世界や物語と関連して思い出される過去はとっても深かったし、今まで一度も思い出した事もないような事もあったりしました。

 私はこれを書くまでは読む人限定でいようと思っていました。で、私はいま高一なのですが、『部活も中学でやる気無くなったし、どうしようかな~』とか思ってネットサーフィンしてたらこんなサイトがあったんです。そんで今までに百冊くらい読んでるし、一つくらい余裕だろ、とか思って書きはじめてました。

 いや、実際余裕もクソもあったもんじゃなかったのですが。

 でもおかげで今まで以上に文章が楽しくなりました。サイト様にもこれからお世話になると思います。

 この小説にわざわざコメントを下さった方々、並びに目を通してくださった利用者様、ありがとうございました。

 結局やっつけで終わってしまいましたが、色んな勉強になりました。いつかお金を出して買ってもらえる作品を出していけるようになりたいです。


ありがとうございました。


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