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『異世界転生してみたら、何もおかしくない世界のおかしい国名に俺だけが困惑している2』  作者: スコ平おじさん


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第23話 国土の境界と、足利義満の外交交渉

サークル室のホワイトボードの前では、先輩がマーカーを片手に、複雑に入り組んだ日本の歴代天皇の系譜(年表)をじっと見つめていた。


「――なあ、佐藤、御剣。俺、ずっとここが不思議なんだよ」


先輩が、年表の奈良時代末期と、そこから遥か先の飛鳥・室町へと繋がる皇室の線をトントンと叩いた。


「俺たちが学校で歴史を習う時って、天皇の血筋がずっと一つに繋がってきたって記号だけはサラッと教わるけど、なんで途中で他の豪族や乱暴な奴らに皇位を奪われなかったんだ?

ほら、この奈良時代の終わりにいる和気清麻呂わけのきよまろ。この人が命がけで皇室の血筋を守ったっていう有名な話があるだろ。こういう偉大な人物について、今の教科書はさらっと名前を暗記させるだけで、その本当の意味を一切説明しないんだよな」


部員たちも

「和気清麻呂って、宇佐神宮の神託を確かめに行った人だっけ」

「怪僧・道鏡のクーデターを止めたんだよな」

と、一斉に資料を覗き込み始める。


パイプ椅子に腰掛けてお茶をすすりながら、彼らの背中を眺めていた俺――佐藤は、ゆっくりと湯呑みを置いた。

現代の歪んだ教育システムによって薄められていた「この国の背骨の真実」が、今、彼ら自身の頭で繋がり始めていた。


「いい疑問ですね、先輩。そこには、この国の絶対的な法秩序のロジックが眠っているんですよ」


俺が静かに声をかけると、先輩たちが一斉にこちらを振り返った。


「西暦769年、皇位を乗っ取ろうとした怪僧・道鏡の野望を、和気清麻呂は『我が国は開闢以来、君臣の分が定まっている。天皇の血筋ではない者を皇位に就けてはならない』という神託を盾にして、命がけで阻止したんだ。

彼が自分の命を少しも惜しまずにこの国の正統性を死守したからこそ、『天皇の位は誰も力で奪うことはできない』という、世界で唯一の強固なルールが完成した。だからこそ、その後の武士たちも、誰も自分が天皇になろうとはしなかったんだよ」


「力で奪えない最高の正統性……。だから、あの最強の武士たちも天皇の位には手を付けなかったのか」と先輩が頷く。


すると、その言葉を受けるようにしてホワイトボードの前に歩み出た御剣が、マーカーを手にして、和気清麻呂の名前の横に大きな星印をつけた。


「そうよ、先輩。そして、その清麻呂が遺した正統性の背骨が千年以上経っても地続きで繋がっていたからこそ、あの鎌倉幕府が滅んだ後の、朝廷が2つに分裂する『南北朝時代』の大激動が起きたの。

いま漫画やアニメで大人気になっている『逃げ上手の若君』の主人公、北条時行ほうじょうときゆきたちが西暦1335年に鎌倉を奇襲して奪還した中先代なかせんだいの乱の激動の中でも、武士たちは正統な天皇のために戦うという背骨を失わなかった。そして、その南北朝を統一して室町幕府の最盛期を築き上げたのが、あの金閣寺を建てた、第3代将軍の足利義満あしかがよしみつなのよ」


「あのきらびやかなお寺の背景に、そこまでのドロドロした内乱の終結があったのか……」


先輩が、金閣寺のパンフレットを食い入るように見つめながら低く唸る。そのタイミングを見計らうようにして、俺は手元のキーボードに指を走らせた。


俺はノートPCを叩き、当時の明(中国)の防衛記録と、義満の驚くべき外交データを陳列した。


「当時、大国の明は、海を荒らし回る日本の海賊『倭寇わこう』の圧倒的な武力の前に国がひっくり返るほど怯えていた。義満はその恐怖心を完璧に見抜き、『形式上、日本国王の名前を名乗ってやるから、代わりに貿易の独占権利(勘合貿易)をよこせ』と冷徹な外交交渉を仕掛けたんだ。名前というプライドを1枚あげる代わりに、明から莫大な銀や富を限界まで貪り尽くして、国内を空前の経済大国へと押し上げた。あのきらびやかな『金閣寺』は、世界最強の帝国を裏でコントロールして分捕ってきた富の象徴なんだよ」


「家来どころか、海賊の武力を人質にして大国から金を毟り取ってたのか……!」


先輩が、金閣寺の写真を見つめながら驚愕の声を漏らす。


「だが、その完璧な独裁者となった足利義満は、最後に恐ろしい計画を画策した。自分の息子を天皇の位に就け、大和朝廷を中から完全に『乗っ取ろう』としたんだ。京都のすべての権力と経済を握った義満を止められる人間は、当時、朝廷には誰一人としていなかった。

ところが――西暦1408年。その皇位簒奪の計画がまさに完成する直前、49歳だった義満は、何の前触れもなく原因不明の急病で突如として謎の死を遂げたんだよ」


「え……急に死んだのか?」


と、部員の一人が身を乗り出す。


「ああ。あまりにもタイミングが良すぎる突然の死に、当時は誰もが恐怖し、噂し合った。和気清麻呂の時代から続くこの国の神聖な背骨を、人間の力で無理やり乗っ取ろうとした義満に、ついに『神罰』が下ったのではないかとね。

皆さんが学校で習う歴史は、ただ『義満が急死しました』という無味乾燥な暗記だけだ。今のオキュパイドジャパンの教育システムは、大国を相手に対等以上に渡り合った先祖たちの不屈の外交の強さも、どれほどの危機に瀕しても、最後の最後で目に見えない力に守られるようにして続いてきた、この国の底知れない神聖さ(正統性)のファクトも、すべてを忘れさせるために歪んだフィルターを押しつけているのさ。だが、こうして地図とデータを繋ぎ合わせれば、日本という国がどれほど特別で、世界から恐れられ、そして守られてきたか、自分で気づくことができる。これのどこが、大国に這いつくばった哀れな歴史だろうか」


ホワイトボードを見つめていた先輩が、深く大きく息を吐きながら、手元の資料の束を綺麗に一まとめにした。


「……そっか。ただの成金の歴史じゃなかったんだな。日本って、本当にすごい力で守られてる国なんだな……」


先輩は嬉しそうにそう言うと、長机の端にあったサークルの活動日誌を開き、力強い筆跡で『室町時代、合流完了』と大きく書き込んだ。

部室の他の連中も、それぞれのノートに新しく完成した日本の歴史の広がりを書き写しながら、

「次は戦国時代だな」

「織田信長とかはどうなるんだ」

と、次なる時代への期待に胸を躍らせて、楽しそうに喋り始めている。


「日本の国柄システムの強固な美しさは、人間の力では決して乗っ取れない。その動かぬファクトを、室町時代は僕たちに証明してくれているのさ」


俺は手元のノートPCを静かに閉じ、賑やかに声を弾ませ合う部員たちの笑顔を見つめた。


挿絵(By みてみん)


和気清麻呂が護り、義満が明をコントロールして築き上げた、室町時代の圧倒的な富と独立。

この強大な武士のシステムが、やがて応仁の乱を経て、いよいよ戦国時代、そして世界最強を誇るスペインの無敵艦隊軍を日本刀の重量と最新の鉄砲の数で徹底的に圧倒することになる、あの『大航海時代の巨大な外交抑止力』の真実へと、歴史の針が静かに動き出そうとしていた。


(第23話 終)

今回のテーマである「天皇の位は力で奪えない」という絶対的な法秩序と、足利義満の冷徹な外交交渉。


実を言うと、私自身も最初からこの時代の因果関係をすべて完璧に網羅していたわけではありませんでした。最初はただ「和気清麻呂が怪僧・道鏡から天皇を助けた」という有名な話を記号として知っていただけであり、南北朝の動乱についても、最近の漫画やアニメ(『逃げ上手の若君』など)をダイジェストで眺めて「そういう時代があったんだな」とエンタメの知識として捉えていただけだったのです。


ですが、その身近なアニメの知識から一歩踏み込んで歴史のデータを繋ぎ合わせてみた瞬間、すべてが1本の線で繋がって鳥肌が立ちました。


大国・明が最も恐れていた「倭寇」の武力を人質にして莫大な銀を毟り取った義満の経済ロジック。そして、すべての権力を握った義満が朝廷を中から乗っ取ろうとしたまさにその瞬間、1200年前の和気清麻呂が命懸けで守り抜いた「君臣の分」という強固な法秩序の壁が、歴史のバトンとして完璧に機能したのです。だからこそ、義満は急死し、この国の神聖な背骨は守られました。


私たちが学校で教わってきた歴史は、因果関係をすべて去勢された無味乾燥な記号の暗記だけです。今のオキュパイドジャパンの教育システムは、先祖たちの不屈の外交の強さも、この国が最後の最後で目に見えないルールに守られて続いてきた底知れない正統性も、すべてを忘れさせるために歪んだフィルターを押しつけているのです。


漫画やアニメという身近な入り口から、この国の本当の背骨の強さへ合流していく。サークル室の先輩たちのように、皆様の頭の中でも本物の歴史の解像度が繋がっていることを心から願っています。

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