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普通のおじさんの異世界鑑定譚  作者: あいら


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第9章 受付の女性ミーナ

外出をしていて、その帰り、商人ギルドの玄関に入る。


職員用の裏口もあるが、いくつか打合せもあって、

玄関から入る事にした。


カウンターの向こう、受付に立つ一人の女性の姿が目に留まる。

肩までの黄色い髪を軽くまとめ、背筋を伸ばして立つその姿には、

ただの事務職とは思えない凛々しさがあった。


「いらっしゃいませ」


その声には、穏やかさと同時に、鋭い芯の強さが宿っていた。


(確か彼女の名前はミーナ、元冒険者だったな)


商人ギルドの人全てを覚えている訳ではないが、

受付の中でも、困った時対応してくれると聞いて覚えている。


その時、ギルドの重厚な扉が大きく開き、

腕に派手な装飾の剣を下げた男性冒険者が乱暴に中に入ってきた。


周囲の女性受付たちは、思わず小さく息を呑む。


「ちょっと! ここの手続きをすぐにやってくれ!」


大声で迫る冒険者に、他の受付は口ごもるしかなかった。

しかしミーナは動じない。

軽く眉を上げ、柔らかく笑みを浮かべながらも、その目は鋭く冒険者を射抜く。


「こちらで順番に手続きはしています。落ち着いてください」


冒険者は苛立ち、腰の剣に手をかけた。


ミーナは護身用に商業ギルドで置かれている剣を手にする。


冒険者は大柄な男、それに対してミーナはすっとした細身の体だ、

大丈夫かと不安になる。


体を低く沈め、相手の腕をかすめるように踏み込み、瞬時に相手の剣を地面へ落とした。


一瞬の出来事だった。


「……うっ」


冒険者は驚きと屈辱で言葉を失う。彼女の剣術は、

単なる護身の域を超え、戦場で鍛え抜かれた元冒険者の証そのものだった。


「ギルドの受付には、いろんな人が出入りします。

 だから、必要なら戦える人もいるのですよ」


周囲にいた他の受付たちも、安堵の息を漏らした。

ミーナは冒険者に背を向けることなく、冷静に手続きを続ける。


他の受付の女性にも、笑顔が戻った。






そんな出来事があって、ミーナの事が気になっていたのだが、

休憩所でミーナと隣り合わせになって、話す機会があった。


俺が食べていたパンがどこの店なのかが、

気になったらしく、どの辺りの露店の店か紹介した。


 警戒と配慮が同時に存在する距離感。

 危険を知っている人間特有の、適切な線引き。


「前は大変でしたね」


「前?」


「ほら、受付で剣を振り回した冒険者ですよ」


「冒険者って、順番守らない人も多いから」


ミーナはなんて事ないと言った風に言う。


「お疲れさま。水、飲みますか?」


 差し出された水袋。


「ありがとうございます」


 礼を言い、受け取る。


 何気ない仕草。

 だが、心が少し和らぐ。


(……不思議だな)


 特別なことをされたわけじゃない。


 だが、

 自然体で、気遣いがある。


 それが、心地いい。


気安さと明るさに惹かれる。


「アキラさん、鑑定、優秀と評判ですよ」


「仕事ですから」


「そういう言い方する人、意外と少ないのよ」


 ミーナは笑った。


 その笑顔を見て、

 アキラは自分の胸の内を、はっきり自覚する。


(……好意、か)


 恋愛感情――と呼ぶほど激しくはない。


 だが。


 一緒に仕事をしていたい。

 話をしていたい。


 それだけで、十分だった。


(押し付けない)


 それが、彼の流儀だ。


 仕事終わり。


「また、お願いしますね。鑑定士さん」


「こちらこそ」


 別れ際、

 軽く手を振るミーナ。


 その背中を見送りながら、

 アキラは静かに息を吐いた。


 異世界アルセリオンで。

 初めて芽生えた、個人的な感情。

 それは、穏やかな好意だった。

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