Episode.44
もうすぐ春になる頃、王都の街並みは花に彩られ暖かなな風も吹くようになっていた。
アキラは少しだけ緊張した面持ちで、リリアーナを船でのランチに招待していた。
船のランチは高級を謳っているいるだけあって、
繊細で綺麗な盛り付けがされている。
味ももちろん一流で、満足がいくものだった。
「ちょっと話があるんだ」
アキラは心の中では言葉を慎重に選んでいた。
リリアーナは座ったまま、柔らかい笑みを浮かべてこちらを見つめる。
デザートのケーキを、軽く口に運ぶ仕草が可愛らしい。
「話って…何か大事なこと?」
リリアーナが軽く尋ねる。
「うん、そう…大事なこと」
アキラは小さく息を吸い込み、目をしっかりと彼女に向けた。
二人の間に、柔らかい光が差し込む。
街並みは静かで、遠くで鳴く小鳥の声だけが耳に届く。
アキラは言葉を探しながら言葉を紡いだ。
「リリアーナ、君と出会ってから、僕の世界は変わった。君となら、どんな困難も乗り越えられる。
君のことを、もっと大事にしたいと思っている」
リリアーナは静かに聞き入る。
その瞳はいつも通り強く、しかしどこか柔らかさを帯びている。
アキラはポケットから、小さな箱を取り出した。
「…だから、結婚してほしい。誠実に、君を守り続けたい。ずっと、隣にいてほしい」
指輪は古びていて、彫刻がされているようだがよく分からない、
しかも、中央には中ぐらいな石が、左右にはさらに小さな石がはめ込まれているだけだ。
指輪は変色し、石も輝きを失っており、ぱっと見ただけでは、
そんなに価値がある指輪には思えなかった。
「修復してみて」
リリアーナはくすりと笑って修復する。
「凄い」
古びた状態ではまったく分からなかったが、
”修復”をすると、イメージは一変して、その凄さに驚かされる。
この指輪がそこらの宝石店で売られている品とは、かけ離れた特別な品である事が、
その繊細な彫刻と輝きを取り戻した宝石で分かる。
「”鑑定”ではSSランクで、何代目か前の王が、王妃の為に作らせた物だそうだ、
新品はいつでも贈れるけど、これほどの品は、もうなかなか贈れないと思って」
リリアーナは少し息を呑み、微笑む。
「…アキラ、ありがとう」
言葉少なに、しかし確かな感情を込めて頷く。その目には涙が光る。
「私も…ずっと、あなたと一緒にいたい」
アキラは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる。
ゆっくりと指輪をリリアーナの指にはめる。
指先から伝わる温もりが、互いの心をさらに強く結びつける。
その瞬間、背後で柔らかい羽音が聞こえた。
振り返ると、ナイトが嬉しそうに尻尾を振りながら、二人の周りをくるくると回っている。まるで祝福しているかのように、白い毛並みが光を反射し、羽が柔らかく揺れる。
アキラは微笑み、リリアーナの手をしっかり握る。
「ナイトも、祝福してくれてるみたいだな」
リリアーナは笑い、ナイトの頭を撫でた。
「ええ、本当に…幸せな瞬間ね」
その日の王都は、外からの喧騒を忘れたかのように静かだった。
小鳥の声、遠くの鐘の音、そして窓から差し込む冬の柔らかな光。
それらすべてが、二人の新しい日々の始まりを優しく包み込む。
アキラとリリアーナは、互いの目を見つめながら、これから先の人生を共に歩むことを心に誓った。ナイトも二人のそばに寄り添い、まるでその誓いを守るかのように静かに座る。
――こうして、平凡でありながらも、心から誠実で、温かい一日が続いていくのだった。




