第28章 植物のエリア
4階に降りると、空気が変わった。
湿り気を帯びた空気が肌にまとわりつき、土と植物が混ざった独特の匂いが鼻を突く。
「……森、みたいだな」
アキラの視界に広がったのは、石壁ではなく、無数の植物が絡み合う空間だった。
天井や壁、そして床に至るまで、蔦と根が侵食するように伸び、ダンジョンというより地下に作られた巨大な温室のようにも見える。
「ワフ……」
ナイトが低く鳴き、歩みを止める。
その視線の先では、緑色の葉を持つ蔦が、まるで生き物のようにわずかに蠢いていた。
「なるほど……」
アキラはすぐに察した。
この場所は、単純に歩くだけでは危険だ。
「《鑑定》」
意識を集中させると、視界に情報が次々と浮かび上がる。
――《絡縛蔦》
接触すると拘束。魔力反応あり。
――《毒花モルティア》
花粉吸引で麻痺・軽度の毒。
――《眠り苔》
踏圧で胞子放出。睡眠効果。
「……罠だらけ、か」
見た目はただの植物だが、どれも魔力を帯びた危険物だ。
しかも厄介なことに、通路のほとんどがこれらの植物に覆われている。
足元には植物の根が張り巡らされていて、でこぼこで歩きにくい。
「よっと」
と声を上げながら、根っこを超えていく。
すると、いきなり前に蔦が迫ってきた。
「うおおおお・・ナイト!」
ナイトを見ると、俺より多い蔓に絡めとられていた。
絶対絶命か?
俺は大きな衝撃を受ける事を覚悟して目を閉じる。
しかし、衝撃はまったく来ず、蔦がどこかへ行ってしまった。
「は?」
しばらく呆然として、そして思い出す。
従魔がいると、その従魔の強さ以外の攻撃は受けないと……。
つまり、このエリアの植物の魔物より、ナイトの方がずっと強いから、ノーダメージという訳だ。
「分かっていても、心臓に悪いな」
ナイトは無邪気に蔦で遊んでいる。
「そろそろいくぞ」
俺が声をかけると、風魔法で一気に蔦を切った。
やっぱり遊んでいたんだな……その余裕さに苦笑する。
「それにしても歩きにくいな」
そう呟くと、ナイトが、
「グルルル」
大きく鳴いたかと思うと、口から大きな竜巻のような物を出す。
大きな音がして、植物が地面ごと抉られる。
「うおおおお」
俺は驚いて後ずさった。
ナイトが魔法らしき物を使った後には、
文字通り、草木一本も生えていず、道ができている。
「道が・・・できたね」
俺は呆れつつ、呟いた。
確かにこれなら安全に進めるだろう。
と思っていると、懲りずに魔物達も反撃してきた。
植物型の魔物、《捕食花》。
だが、ナイトにとっては何の脅威にもならない。
蔦が伸びるより早く、
牙が閃き、
魔物は根元から断ち切られる。
――瞬殺。
アキラは、倒れた魔物を鑑定し、使える部分を回収する。
毒袋、魔力を帯びた花弁、希少な根。
これらは薬や調合素材として高値がつく。
「……この階、宝の山だな」
危険は多いが、価値も高い。
ナイトがいれば、道は簡単にできる。
「……行けるな、俺たち」
ナイトは誇らしげに吠え、再び先を促す。
初心者冒険者が引き返す最初の難関を、いとも簡単に突破したのだった。




