第15章 素材集めと調合
集まった400万リラは、重かった。
金袋を前にして、アキラは深く息を吐く。
これは自分の金ではない。
商人ギルドに集う350人の善意と、信頼の結晶だ。
(……失敗は、絶対に許されない)
自分判断が正しかったかどうかは、
これからの行動でしか証明できない。
アキラは、鑑定士としての全てを賭ける覚悟で、街へ出た。
最初に向かったのは、薬草店だった。
整然と並ぶ束。
似たような色、似たような匂い。
だが――
同じものなど、一つもない。
(鑑定)
意識を集中させた瞬間、情報が洪水のように流れ込む。
採取地、天候、乾燥工程、保存年数。
有効成分の含有率、副作用のリスク、相性。
「……これじゃない」
アキラは、何度も首を振る。
店主が不安そうに声をかけてくる。
「ど、どうです? 高品質ですよ?」
「品質はいい。でも“今回の目的”には足りない」
必要なのは、一般的な回復力ではない。
**病の根を断つ“特性”**だ。
何軒も回り、ようやく条件を満たす薬草を見つけた。
「これを、1束だけ」
店主が笑顔で答える。
「はい、ルリナール草1束だね、まいど!」
店主がルリナール草を紙に包んでいるのを見ながら思う。
鑑定が示している。
この一束は、他の三束分に匹敵する。
(効率よく買っていかないと、資金が足りなくなったら大変だからな)
一切気を抜く事なく、次の店へと向かった。
次は、魔物素材。
ここが、最大の難関だった。
魔物素材は、鮮度と処理で価値が激変する。
討伐後の扱いが雑なら、表面は綺麗でも中身は死んでいる。
(……あった)
売れ残っていた素材。
表面は劣化し、誰も手を出さない。
「それ、安くするよ」
店主が言う。
「見た目が悪いからな」
「じゃあ、もう少しおまけしてくれ」
「お兄さん上手だね、じゃあ後200リラ安くするよ」
思わず心の中でほほ笑む。
鑑定結果では内部は、最高品質。
こんなに安く買えるとは、本当についている。
アキラは必要な分だけを買い付け、
一切の無駄を出さずに素材を揃えていった。
結果として、
想定よりも資金に余裕が残る。
(……いける)
だが、気を抜くことはなかった。
素材を抱え、アキラは商人ギルド奥の調合室へ向かう。
迎えたのは、ギルドお抱えの調合師だった。
「……君が、今回の依頼人か」
年配の男。
落ち着いた声だが、目は鋭い。
「鑑定は、私が担当しました」
調合師は、素材を一つひとつ手に取り、無言で確認する。
そして、低く唸った。
「……よく、ここまで揃えたな」
30種類以上の素材、それこそ『世界樹の葉』など、
高級でなかなか手に入らない素材も、全てが揃っている。
それは、最大級の評価だった。
「通常、エリクサーを作るなら、もっと量が必要になる所なんだが・・・」
「鑑定で、必要な部分だけ選別しました」
素材一つ一つの成分や効果を書いた紙を渡す。
「……無駄がない」
調合師は、静かに頷いた。
「いいだろう。この仕事、引き受ける」
「調合の料金は?」
「1万リラだ」
「1万?」
エリクサーの調合なら50万リラぐらいしてもおかしくはない、
素材は寄付で集め、調合の代金は自分で払うつもりだった。
「寄付は1人1万リラなんだろう?」
調合師がおちゃらけた調子で言う。
肩の力が抜けた。
お金の問題だけではない、”人の為に”
そう思ってくれる人がこんなにもいる事が嬉しかった。
俺は1万リラを渡す。
「お願いします」
「任せとけ」
調合は、長時間に及んだ。
火を弱め、強め、
魔力の流し込みを微調整し、
投入の順番を一瞬でも誤らない。
アキラは、口を挟まない。
ただ、横で見守る。
(信じる……それも責任だ)
夜が更け、
調合室に、静寂が落ちる。
やがて、調合師が深く息を吐いた。
「……完成だ」
小瓶に収められた薬は、
淡く、穏やかな光を放っていた。
調合師は、はっきりと言う。
「成功だ、完璧だよ。
病の根を断ち、呪いを解き、身体を回復軌道に戻す力は十分にある」
その言葉を聞いた瞬間、
アキラの膝から、力が抜けそうになった。
「……ありがとうございます」
「礼を言うのは、私の方だ」
調合師は、小さく笑った。
「鑑定が正確でなければ、この薬は完成しなかった」
アキラは、小瓶を握る。
軽い。
だがそこに込められた重みは、400万リラよりも、遥かに重い。
(……間に合え)
祈るような気持ちで、ミーナに連絡を取った。




