第11章 見えない価値
その違和感は、ごく微かなものだった。
冒険者ギルドの倉庫で、最後の確認をしていたアキラは、
積み上げられた素材の一角で足を止める。
他と変わらない――むしろ、単なる金属に見える。
(……何だ?)
理由は説明できない。
だが直感が、アキラをその金属へと向かわせた。
一見すると、ただの鈍い灰色の金属片。
魔力反応も弱く、表面の加工も粗い。
「これは……?」
近くにいた職員が首を傾げる。
「ダンジョンの中で採掘されたそうなんですけど、
正直何かまったく分からない素材なんです、
とりあえず使えないか鍛冶ギルドに回そうと思ってます」
アキラは答えず、静かにスキルを発動した。
(鑑定)
――〈歪蝕鋼の欠片〉
状態:表層安定
内部:呪い浸食・進行中
危険度:高
影響:魔力暴走誘発
市場価値:通常は低
※加工・使用時、爆発的事故の恐れあり
背筋が、冷たくなる。
「……これは、危ない」
「え?」
アキラはすぐに金属片を布で包み、周囲に声を張った。
「この金属、誰も触らないでください。
魔力を流すと暴走します」
その瞬間、倉庫内の空気が凍りついた。
「ちょ、ちょっと待ってください!本当ですか?」
「ほおっておくと、事故が起きます」
アキラの声は低く、しかし迷いがなかった。
「加工中に爆発するか、
完成品が使用者の魔力に反応して暴走する。
死人が出てもおかしくない」
ざわめきが広がる。
やがて、奥から現れたのは冒険者ギルド長だった。
「……詳しく聞こう」
アキラは鑑定結果を説明し、呪いの性質と危険性を丁寧に伝える。
ギルド長の顔色は、話が進むごとに険しくなっていった。
「……もし鑑定されずに流通していたら?」
「確実に、大事故です」
短く、断言する。
沈黙の後、ギルド長は深く息を吐いた。
「……命拾いしたな」
それは職員だけでなく、
この素材を持ち帰った冒険者たち全員に向けられた言葉だった。
後日、正式な場でアキラは呼び出された。
「今回の件、ギルドとして重く受け止めている」
ギルド長は封筒を差し出す。
「特別報酬だ、100万リラ受け取ってくれ」
だが、アキラは首を横に振った。
「……いえ。お金ではなく、別の物をいただけませんか」
ギルド長が眉を上げる。
「ほう?」
「倉庫にあった、不要とされていた魔物の素材が欲しいのです」
それは、誰も見向きもしなかった魔物の素材。
鑑定すらされず、処分予定だった品だ。
ギルド長は一瞬考え、やがて豪快に笑った。
「そんな物でいいのかね?価値がない物だぞ」
「ええ、かまいません」
「いいだろう!命を救われたと思えば、安いものだ。
しかし、そのガラクタだけでは冒険者ギルドとして問題だ、
100万リラはきっちり受け取ってくれ」
「いや、しかし・・・」
そんな問答の末、100万リラと、3つ程の魔物素材を受け取る事になった。
鑑定ギルドへ戻り、魔物素材をを手にする。
どうゆう用途があるのかは知らないが、
Aランク以上の価値がある魔物素材ばかりをもらってきた、
いまだ知られていない成果があると思うとわくわくする。
(見えない価値は、まだ山ほどある)
アキラの微笑みは深くなった。




