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はさまる

作者: ほんじじ
掲載日:2026/02/13

 ゆき江はよく挟まる子だった。


 幼稚園のころは自動ドア。

 小学校では教室の引き戸。

 中学では電車のドアにリュックを。

 高校ではアルバイト先の冷蔵庫に指を。


「また?」と周囲は笑う。


 本人は笑えない。地味に痛い。


 社会人になっても変わらなかった。

 会議室のドア、エレベーター、コピー機のトレイ、なぜか絶妙なタイミングで挟まる。


「人生いろいろ挟まってるよね」


 友人にそう言われたことがある。

 仕事と恋愛のあいだ。

 期待と現実のあいだ。

 やりたいこととできることのあいだ。


 たしかに、ゆき江はいつも何かの“あいだ”にいた。


 あるとき港で船を見た。

 博多と佐世保を結ぶ高速船――博佐丸。


 白い船体が光っている。


「はくさまる、かあ」


 違うよ、と港の職員が笑った。


「地元じゃ“はさ丸”って呼ぶんだ」


 ゆき江は一瞬固まった。


 はさ丸。


 なんだか運命みたいだと思った。


 それから十年。


 海技士の資格を取り、現場で揉まれ、嵐にも偏見にも何度も“挟まれ”ながらゆき江は立っている。


 博多港の朝。桟橋の向こうに白い船体。


 博佐丸。通称はさ丸。


「出港準備、完了しました」


 その声はよく通る。


 女性初の船長として紹介されるたび、ゆき江は少しだけ笑う。

 挟まるのは悪いことばかりじゃない。


 人と人のあいだに立つこと。

 街と街のあいだを結ぶこと。

 海と空のあいだを進むこと。


“はさまる”ことはつなぐことだったのだ。


 汽笛が鳴る。


 自動ドアにはもう挟まらない。

 でも人生にはこれからもきっと挟まるだろう。


 そのたびにゆき江は前を向く。

 なにしろ私は“はさ丸”の船長なのだから。




 終


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