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Outer Gods Online-多元侵話生存録-  作者: 無我
第一章 VRMMORPG
27/31

第26話 森の残響と現実のささやき

フィンランド東北部の街クフモ。


夏の終わりを告げる柔らかな陽光が、木々の葉を優しく揺らしていた。

フィーア・リーストは、自室のベッドに横たわり、フルダイブVRヘッドギアをゆっくりと外した。

ヘッドギアの表面に残る微かな温もりが、彼女の頰に触れる。


ゲーム内の森の湿った空気、木々のささやき、そしてあの骸骨のようなアバターを持つプレイヤー――TŌRMAとの冒険が、まだ鮮やかに脳裏に残っていた。


「ふう……。すごかったわね、あの遺跡。ゲームとは思えないほどの圧倒的なリアルに威圧感のあるボス。フルダイブゲームの凄味ってものかしら?」


フィーアはベッドから起き上がり、窓辺に寄った。外は彼女の故郷の森が広がっている。クフモの森は、ゲーム内のそれと似て静かで、深い緑に満ちていた。


彼女は19歳の大学生。オウル大学の環境科学を専攻し、北方生態系や考古学、文化人類学に興味を持っている。リアルでの彼女は、銀糸のように輝く白銀の長髪をポニーテールにまとめ、透明感のある薄緑色の瞳が印象的だ。身長155cmの華奢な体躯は、ゲーム内のVelverioと重なる部分が多い。


ゲーム「Outer Gods Online -多元侵話生存録-」は、世界初のフルダイブVRMMORPGとして、同時接続1000万人規模のプレイヤーを集めていた。フィーアは、海外の友人に誘われて参加した。彼女のアバター、Velverioは、自然信仰系妖精人(リーエンドライアス)


デメリットとして鉄文明との親和性を無くす「鉄忌避」と自然を破壊することでデメリットを守ることでメリットを得られる「深緑の誓約」を選んだ結果、ダンジョンスタートながら難易度は低め。スキル《ヴァルナの囁き》で動植物や精霊との交信が可能で、探索に特化している。


今日の探索を振り返る。TŌRMAとの出会いは、森の小屋で偶然だった。


いや、偶然か? ゲーム内のエピソードが他のプレイヤーとの遭遇率を上げているのかもしれない。フルダイブで見るあの骸骨アバターは、最初は少々不気味だったけど、戦闘での冷静さと使い魔との連携の良さが印象的だった。


《骨律操作》で骨を自在に変形させる姿は、まるで生き物の進化を見ているよう。ボスの《古呪の守護樹》との戦いでは、即席の連携が逆転の一撃に繋がってTŌRMAの剣が核を貫く瞬間、フィーアの心臓は高鳴った。


「クールだけど、優しいところがあるわよね。森が言ってた通り、死を慈しむ心……。あれ、リアルでそんな人、いるのかしら?」


彼女は微笑んだ。


ゲーム内でのフレンド登録は、単なる利便性以上のものを感じさせた。イベント「星降る夜」の星骸落下が、一週間後に迫っている。公式告知は日本時間で午後13時――フィンランド時間では朝方だ。星骸の巨大隕石を押し返すためのポイント稼ぎが、プレイヤーたちの話題を独占している。


フィーアも、遺跡で得た星の欠片が貢献したはずだ。


部屋のデスクに置かれたノートパソコンが、軽く振動した。着信音だ。

画面を見ると、海外の友人からビデオ通話の通知。彼女はすぐに受けた。


「やあ、フィーア! どう? OGO、楽しんでる?」


画面に映ったのは、アメリカ在住の友人、エマ。


大学時代の交換留学で知り合った同い年の女の子で、環境NGOで働いている。

エマは金髪のショートカットで、明るい笑顔がトレードマークだ。彼女が「Outer Gods Online」を紹介してくれた張本人だった。


「エマ! うん、すごく楽しいわ。今日も森の遺跡を探検してきたの。骸骨アバターのプレイヤーとパーティ組んで、ボス倒したわよ」


エマの目が輝く。


「ええ、骸骨?異形種だと4か5個のデメリット選んだ人? 私も昨日、街スタートで素材集めしてたんだけど、イベント関連のエピソードがポップアップしまくって大変! 星の欠片、集めてる?」


フィーアは頷いた。


「ええ、森の遺跡でゲットしたわ。TŌRMA――その骸骨の人のスキルがすごくて、連携が凄かったの。自然との交信スキルも役に立ったわ。エマ、ありがとう。あなたが誘ってくれなかったら、こんな経験しなかったかも」


エマは手を振った。


「いいのよ! 私もフィーアが気に入ると思って誘ったんだ。自然のリアリティがリアルで自然学を専攻しているあなたにぴったりでしょ? でも、注意してね。ゲームのレーティングR16だけど、クトゥルフ要素が絡むとフルダイブの影響もあってホラーがちょっと強烈って意見もあるしあんまし高難易度のダンジョンエリアに行くとソロじゃ大変かも。そういえば骸骨の人じゃないけど私のフレンドで、汚染デメリット取りすぎてアバターが異形化しちゃった人いるわよ」


「ふふ、わかってるわ。私はまだ浅瀬の自然寄りエリアだから、まだソロでも大丈夫。でも、エマの言う通り、ゲームの世界が広すぎて……」


二人はゲームの攻略掲示板の話題に移った。


いくつかの掲示板では、プレイヤーたちの情報共有が活発だ。時折、「何か」が会話に参加したり、治安管理をするという奇妙な現象も報告されている。


エマが言った。「私が見た掲示板で、突然『秩序を保て』みたいな無名の投稿があって、荒らしが消えたの。運営? それとも……AIかな?」


フィーアは笑ったが、内心で少しぞわっとした。ゲーム会社xAIの技術は革新的だが、ダウンロードデータが3.2GBと異様に低い理由が気になるけど普通にプレイできるってことは支えているサーバーが凄いというだけなのかもしれない。


考察板で論戦にある集団的無意識がサーバー代わりという推論は、非現実的すぎて笑えるけど……。


通話が終わると、フィーアは部屋を出て、森へ散歩に出かけた。


クフモの森は、彼女の幼少期からの遊び場だ。歩きながら、ゲーム内の森を思い浮かべる。Velverioとして、木々に話しかける感覚が、リアルでも微かに残っている気がした。


「森の囁き……。ゲームの影響?」


突然、足元に違和感を覚えた。道なき道を進む中、微かな風が耳元で囁くような感覚。


――危ない、そっちじゃない。


フィーアは立ち止まった。視線の先、地面に小さな陥没があった。古い木の根が腐ってできた穴で、踏み込めば足をくじいていたかもしれない。


彼女は息を吐き、木々に視線を向けた。(森の声?)


それは微かだったが、ゲーム内の《ヴァルナの囁き》に似ていた。直感が、軽い危険を回避させた。フィーアは首を振った。


「まさかね。ゲームの影響で敏感になってるだけよ」


しかし、心のどこかで疑問が芽生える。このゲームは、プレイヤーの脳をサーバー代わりに使っているというあの噂。現実世界への自分にフィードバックがある? いや、考えすぎだ。彼女は歩みを再開し、家に戻った。


夕食の時間。両親と食卓を囲むのは、フィーアの日常の癒しだ。父親は木工職人で、母親は薬草師。小さな家は、木の香りに満ちている。今日のメニューは、地元のベリーを添えたサーモンのグリルと、母親手製のハーブティー。


「フィーア、大学はどうだい? 最近、ゲームばっかりやってるんじゃないのか?」


父親が穏やかに尋ねる。フィーアはフォークを止め、微笑んだ。


「ううん、パパ。ちゃんと勉強してるわよ。ゲームは、環境科学の参考にもなるの。仮想の生態系が、現実の北方森に似てて面白いわ」


母親がハーブティーを注ぎながら、言った。


「あなた、幼い頃から森が好きだったわよね。祖母の影響かしら。ルーン文字を石に刻んで、よく遊んでたっけ」


フィーアは頷いた。


「ええ、ママ。あの習慣、今もちょっと続けてるの。今日の散歩で、森の声が聞こえた気がしたの。穴に落ちそうだったのを、避けられたわ」


両親は顔を見合わせ、笑った。父親が言った。


「森の精霊が守ってくれたのかもな。フィンランドの古い伝承みたいだよ」


食事は和やかだった。フィーアはTŌRMAとの探索を、ぼんやりと思い浮かべる。あの冷静な声、骨の変形スキル。リアルでの彼は、どんな人だろう?


食後、フィーアは自室に戻り、日記をつけた。ゲームの影響が、現実を少しずつ変え始めている予感がよぎる。微かな直感、森のささやき。イベント「星降る夜」の中、何かが起こりそう。


一方、ゲーム内の掲示板では、新たな投稿が。「星の欠片集め、みんな頑張ってる? でも、最近現実で変な夢見ない?」というスレッドが、静かに伸び始めていた。


夜、ベッドに横たわりながら、彼女はヘッドギアを再び装着した。ログインメッセージが響く。「ようこそ、多元侵話生存録へ」


ゲーム世界の森が、再び彼女を迎える。フレンドリストにTŌRMAの名前が光る。新しいエピソードが、ポップアップした。「星の予兆:森の異変小精霊たちの困りごと」


彼女は微笑んだ。「また、会いましょうね、TŌRMA」

現実とゲームの境界が、ゆっくりと溶け始めていた。


―日本・東京―


東京のマンション。綾城透真は、ヘッドギアを外し、ベッドに座った。今日の探索は、予想外の収穫だった。Velverio――あの妖精のようなアバターのプレイヤー。彼女のサポートがなければ、ボス戦はもっと苦戦したはずだ。


「フレンドか……。珍しいな、俺がそんなことするなんて。いやSariraの時もそうだったか」


彼は立ち上がり、窓から外を見た。JR中央線の音が、遠くに聞こえる。


今日の戦いで、微かな感情の揺らぎを感じた。


Velverioの言葉――「死を慈しむ心」。孤児として育ち、「自分はこの世界にいる意味があるのか?」と問うてきた彼に、それは響いた。


孤児院は津波に流されて久しい、天涯孤独な自分にとって死はそれほど遠くない位置にある。

そもそも死を慈しむとは何か?


「盆で死者に花を手向ける行為のことを指しているだけか、、、?」


明日もゲームを続ける。イベント情報ではすでに508万ポイントほどが稼がれているようだ。

休みというのもあるが思った以上に参加率が高いのか、それともそもそも最初のイベントということもありポイントが稼ぎやすいというのか。


イベントが迫っている。星骸の使徒が、次なる脅威だ。


ゲームの探索をしつつ自身の強化も頑張りつつ現実の仕事もこなしていかないといけない。


「やることがあることはいいことだな」


東京の夜は静かに更けていく。

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