第21話 パーティ戦闘
星屑の神殿内部は、砂の粒子が微かに舞う薄暗い回廊が続いていた。
壁に散りばめられた結晶が、淡い光を放ち、まるで夜空を切り取ったような幻想的な雰囲気を醸し出していた。
TŌRMAの骸骨アバターは、触覚のない骨格で砂を踏む感触を想像だけで再現し、背後の半幽体である骨の天使タナティエルが、無音で浮遊しながら周囲を警戒している。
一方、Sariraは星の蠍の頭上に座り、蠍の巨体が砂を滑るように進む。
彼女の金褐色の肌と漆黒の長髪が、光の粒子に照らされ、神秘的に輝いていた。
彼女のデメリットの《星の囁き》が、時折耳元で響くが、ここではそれが神殿の遺産と共鳴し、むしろ導きのように感じられた。
二人はすでに既に幾つかの戦闘を潜り抜け、神殿奥のホールと思われる場所に到着していた。
戦闘の余韻が残る中、TŌRMAは周囲の彫刻を調べながら声を掛けた。
骨格から発せられる声は、低く乾いた響きだ。
「この彫刻、多分だが星座を模してるな。Sarira、君は確か星に詳しかったんじゃ無いか? 前に話してくれた碑文って、こんな感じ?」
このゲームではフレーバーテキスト的な舞台装置にも意味が出てくるかもしれない。それを抜いてもビジュアル的に一見の価値がある芸術性のある風景だ。
Sariraは蠍の頭を軽く撫で、エメラルド色の瞳を細めて頷いた。
「はい、TŌRMAさん。叔父様が研究しているメソポタミアの星図に、よく似ています。古代の民が星を神として崇めていたんですよ。エジプトの影響も混ざっていて、面白いんです。でも、私自身はまだ本格的に勉強していなくて……叔父様の話を聞くのが主です」
軽い世間話が、自然と始まった。
探索の合間に、こうした会話が二人の緊張を和らげ、パーティの絆を深めていた。
TŌRMAは感情抑制の制限で、声に抑揚が少ないが、内心ではSariraの落ち着いた雰囲気に好感を持っていた。施設育ちの自分とは違い、彼女には家族の温かみが感じられる。
「叔父さん、教授なんだっけ? トルコの大学で。君はマルディンに住んでるって言ってたけど、大学進学はどうするんだ? 」
Sariraは蠍の動きを調整しながら、微笑んだ。
表情は控えめだが、見る人が見れば多彩で、ふとした瞬間に神秘的な魅力が溢れる。
「ええ、イスタンブール大学の教授を務めている叔父様です。来月、叔父様のところに移住する予定なんですよ。マルディンは素敵な街ですが、大学はイスタンブールで言語学を専攻しようかと。叔父様が勧めてくれて、このゲームも『異文化比較の教材』だって渡してくれました。私。星の物語を多言語で検証するのが、楽しみなんです。本でしか色々な文化に触れ合うことができなかったから」
彼女は叔父の真の目的——ゲームを未知の実験場と疑い、情報を集めさせる意図——を知らない。
表向きはただの教育的支援だと思っている。
TŌRMAは会話を続けた。
世間話として、現実の生活を共有するのは、ゲーム内の孤独を紛らわせるのにちょうどいい。
「イスタンブールか。トルコの都市部だな。俺は東京の会社員で、情報戦略室と言う所に所属している。技術のトレンドを追う仕事だけど、最近はVRの脳負荷とか、面白いトピックが多いよ。このゲームのダウンロードが3.2GBと低すぎるのが気になって、調べてみたんだ。君の移住の新生活は楽しみだろうな。新しい街で、新しい生活……俺は施設育ちだから、家族の話は羨ましいよ」
Sariraの瞳が少し柔らかくなった。
彼女も血筋の秘密を抱え、家族以外に「星の囁き」を話さないが、TŌRMAの言葉に共感を覚えた。
「施設育ち……それは、寂しかったでしょう? マルディンは古い街で、星空が綺麗なんですよ。夜に屋根の上から見るのが好きです。TŌRMAさん、東京の星空はどうですか? 都会だと、星が見えにくいって聞きますけど」
「そうだな。東京は光が多すぎて、星はほとんど見えない。中央線で通勤してるけど、窓から見えるのはビルばかり。時々、屋上でぼんやりするけど……自分はこの世界に意味があるのか、なんて考えてたよ。でも、このゲームに入ってから、そんな疑問が少し薄れた。君の蠍、夜闇で強化されるんだっけ? 現実の星空みたいだ。だから星の蠍と言うのかもな」
会話が弾む中、神殿の回廊で異変が起きた。
砂の床が震え、砂を薄く纏った砂蜥蜴が三匹、壁から飛び出してきた。
続いて、大蛇が砂中から姿を現し、毒の牙を剥く。敵の襲撃だ。
「またか! Sarira、援護を!」
TŌRMAが腰に備えた剣を抜刀。タナティエルが霊気の弾をチャージした。Sariraは蠍の尻尾を構える。
まず、砂蜥蜴がTŌRMAに飛びかかり、砂の粒子を撒き散らす。
《判定:ダイスロール(D20)/回避判定 10以上》
《結果:12(成功)》
骨格が素早く動き、攻撃をかわした。知覚共有の汚染が敵の恐怖を捉え、予測を助ける。
自身の熟練地がダイスロールに加味されるとはいえこのゲームシステムは心臓に悪い。
反撃にナイフ腕を振り下ろす。
《判定:ダイスロール(D20)/攻撃命中 12以上》
《結果:14(成功)》
蜥蜴の一匹を斬り、体力を減らす。
終焉同調が発動し、蜥蜴の死の恐怖が情報として流れ込み、疑似経験値を得た。自然と相手の次の動作が予測できるようになる感覚を得る。
Sariraの蠍がもう一匹を毒針で貫き、残る一匹をその大型の鋏で牽制する。
《判定:ダイスロール(D20)/牽制による行動制限成功 10以上》
《結果:15(成功)》
そのまま蜥蜴に突撃して尻尾の一撃で粉砕。大蛇はSariraを狙い、尾を振り回す。
《判定:ダイスロール(D20)/防御耐性 11以上》
《結果:13(成功)》
蠍の巨体が耐える。
タナティエルが霊気弾を放つ。
《判定:ダイスロール(D20)/命中 13以上》
《結果:10(失敗)》
外れたが、TŌRMAの骨剣が大蛇の胴を斬る。
《判定:ダイスロール(D20)/クリティカル攻撃 15以上》
《結果:17(成功)》
大蛇を討伐し、戦闘終了。HPの微減を無視し、二人は進んだ。
戦いの後、Sariraが息を整えながら会話を再開。世間話として、現実の趣味を共有した。
「TŌRMAさん、ゲーム以外で趣味は? 私は本を読むのが好きで、多言語の物語を比較したりします。その潮流に流れる思想とかが読み解ければとても面白いんです。叔父様の影響で、神話関係の本が多いんですけど……トルコの民話とか、エジプトの神話。移住したら、イスタンブールの図書館でたくさん借りるつもりです」
TŌRMAは骨格を歩ませ、軽く答えた。
「趣味か……仕事が忙しくて、読書くらいだな。経済書も読むが趣味とはちょっとと違うか。後はSF小説が好きで、宇宙の探索話とか。宇宙の構造についての考察など。君の移住、来月か。イスタンブールは観光地が多いだろ? ボスポラス海峡とか、楽しみだな」
Sariraはくすりと笑い、蠍の頭を撫でた。少女らしい無邪気さが覗く。
「ええ、海峡の景色は綺麗だって聞きます。マルディンは丘の街で、古代の遺跡が近くにあって、叔父様と散歩するのが好きでした。叔父様はいつも『知識は過去と未来をつなぐ架け橋』って言うんです。ゲームのこの神殿も、そんな感じですね。TŌRMAさん、東京の食べ物でおすすめは? トルコ料理はケバブが有名だけど、日本食に興味があるんです」
「日本食か。寿司やラーメンが定番だけど、俺は施設育ちで、シンプルなものが好きだな。社内の弁当とか……近所の大学生が、たまに弁当をくれるよ。ちょっとした出来事で縁ができてね。君の所はトルコのデザート、バックラヴァとかか? どの国でも甘味は別腹っぽいしな」
会話が深まる中、回廊の奥で地下階段を発見。砂の粒子が落ちる暗い穴だ。
「地下だな。Sarira、気をつけて進もう」
「はい、行きましょう」
階段を降りると、洞窟が広がった。星の結晶が輝き、気配が濃くなる。敵の砂蜥蜴群れが襲い、戦闘再開。
《判定:ダイスロール(D20)/集団回避 11以上》
《結果:9(失敗)》
TŌRMAが被弾、HP11%減。
名無き祭壇を発動。
《判定:ダイスロール(D20)/空間生成成功 13以上》
《結果:16(成功)》
異界空間で敵を幻惑し混乱させ、Sariraの援護で勝利。
地下を進みながら、Sariraが続けた。
「叔父様は発掘調査で、エジプトに行ったりするんです。私もいつか同行したいけど……移住したら、忙しくなるかも。TŌRMAさん、仕事で海外行ったりします?」
「いや、国内中心だ。そう言えば君は星の囁きとか言うが現実に聞こえたりしているのか?」
Sariraは少し躊躇し、家族以外に話さない秘密をぼかした。
「時々、夢で深い夜のような闇の世界で自分一人じゃ無いのかと思うような場所で、ここではゲームの設定として簡単なアドバイスや誘惑程度ですけど囁いてくるんです。……でも、ゲームで仲間がいると、心強いです。TŌRMAさん、ありがとう」
さらに奥で、大蛇の亜種が登場。砂を操る強敵だったが、連携で倒し、最深部へ。
会話と探索が続き、二人の関係が深まった気がする。
地下洞窟の奥は、結晶の光が乱反射し、まるで星雲の中にいるようだった。Sariraの蠍が道を切り開き、TŌRMAのタナティエルが偵察。
「TŌRMAさん、もし現実で超能力があったら、何をします? 」
「俺か……きっとその力の意味と理由を探すよ。施設の頃、孤独だったけど、今は仕事がある。君の移住、うまくいくといいな」
新たな敵襲を退け、二人はさらなる奥へと歩みを進めた。




