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Outer Gods Online-多元侵話生存録-  作者: 無我
第一章 VRMMORPG
21/31

第20話 公式初イベント開幕

透真は、朝の陽光がカーテンの隙間から差し込むマンションの一室で、ゆっくりと目を覚ました。ベッドサイドの時計を確認し、いつものルーチンを開始する。まずはコーヒーを淹れ、ノートPCを開いてニュースサイトをチェックする。情報戦略室の主任として、先端技術動向を追うのは仕事の一部だが、個人的な習慣としても欠かせない。


大手企業の情報戦略室で働く彼はデスクに座り、まずは時事ニュースをチェック。欧米の情勢から目を通す。


アメリカではAI規制法案が議会で激論を呼んでおり、xAI社のフルダイブVRMMORPG『Outer Gods Online』がその文脈で言及されている。


世界初の没入型ゲームとして、同時接続1000万人規模のブームを巻き起こしているはずなのに、関連ニュースは意外に少ない。


トルコ南東部マルディン近辺で古代遺跡の発掘が進み、地元住民と国際チームの間で緊張が高まっている。エジプト上流域でも同様の動き。


欧米経済ニュースでは、仮想通貨の変動が激しい。主要仮想通貨のBコインの急騰が続き、投資家たちの注目を集めている。


そんな中、透真の視線を捉えたのは一つの経済記事だった。


『ゲーム内通貨が現実市場に波及?Outer Gods Onlineの仮想資産、ブラックマーケットで活発取引』


記事によると、ゲーム内の通貨「エーテル・シェル(ES)」が、現実の暗号通貨市場で交換され始めている。


まだ初期段階だが、プレイヤー間取引が活発化し、一部の投資家がゲーム内アイテムを投機対象にしているらしい。この1000万人規模の同接がもたらす経済循環が、現実の株式市場に微妙な影響を及ぼし始めている。


透真はコーヒーを啜りながら眉をひそめた。静かなブームとして始まったはずのゲームなのに、ニュースの少なさが不自然だ。


まるで、何者かが情報をコントロールしているかのように……。彼はタブレットを操作し、公式サイトにアクセスした。


ふと、公式サイトのタブを開く。


Outer Gods Onlineのページは相変わらずシンプルで、黒基調のデザインに宇宙的なモチーフが散りばめられている。


ログイン画面の横に、新着情報がポップアップしていた。「公式初イベント『星降る夜』開催告知」


透真はクリックした。


『公式イベント:星降る夜』


イベント期間は本日より7日間(日本時間基準)。滅びた星の意志「星骸」が、惑星クラスの巨大隕石として全エリアに迫る脅威。


プレイヤーたちは「星の欠片」を集め、合計1000万ポイント以上を達成して星骸を押し返す。


失敗すれば全エリアに壊滅的被害が発生し、最悪ワールドリセットの可能性あり。


一人あたり最大取得ポイントは20ポイント。ポイント取得方法はイベント関連エピソードクリア、素材採取、NPC交渉など多彩。


注意点としては1000万ポイントを大幅に超過すると、超過分が次フェーズのワールドボス「星骸の使徒」を強化するとのことだ。


既に関連エピソードがPOPしやすくなっているようだ。


透真は報酬欄をスクロール。成功で能力強化や特殊スキル解禁のチャンス。リスクは大きいが、魅力も大きい。xAI社の設計意図が透けて見える──プレイヤーを本気度を試すようなゲームだ。彼はタブレットを置き、フルダイブヘッドギアを装着。脳にログイン信号が響く。


「ようこそ、TŌRMA。忘却の墓所へ」


視界が一変。


全身が骨格だけの骸骨アバター。触覚と味覚を失ったデメリットが、身体を軽やかにする。


開始地点のダンジョン「忘却の墓所」は、彼が支配した領域。


まずは現状確認。

石櫃の周囲を巡回する。

敵のPOPはなし。


支配したダンジョンは、拠点化が進んでいるようだ。


以前の戦闘で倒したモンスターの残骸が散らばっているが、新たな脅威は感じられない。


石櫃の周辺も静寂に包まれている。以前の戦いで倒した巨像の残骸が、散らばったままの光景に、TŌRMAは満足げに骨の指を鳴らした。


「支配完了。拠点化に成功したな」


透真は掲示板を思い出した。


ログイン前にチェックした攻略掲示板で、ダンジョンスタート勢のスレッドにそんな情報があった。


「ダンジョンの一部を拠点化すると生産活動が可能になるよ。街スタート勢より不便だけど、独自のメリットあり」


確かに、石室の祭壇が使えるようになっている。

《名無き祭壇》のスキルで生成した空間も、異界的な雰囲気を帯び、セーブポイントとしても機能する。


街スタート勢とは異なり、孤独だが柔軟性が高い。


TŌRMAは《名無き祭壇》を発動。感情の残滓と死霊的エネルギーが渦を巻き、異界の祭壇を生成。石櫃前に灰色の石壇が浮かび上がり、幽かな光が灯る。


「これで装備作成ができるはずだ」


試しに素材を集める。落ちている骨と漂う霊素を掬い取る。《骨律操作》で骨を加工し、祭壇に載せて祈祷を行う。想念で死者の記憶を注ぎ込むと、骨の記憶が蘇り、形を成す。完成したのは骨製の短剣。刃に死者の残滓が宿り、毒効果のようなものが付与されたようだ。


「上出来だ。生産効率も悪くない」


TŌRMAはダンジョン内で集めた素材を更に加工し始めた。


ボロ布の切れ端を数枚、手元に集める。

骨律操作で自分の指先を針状に変形させ、粗い縫製を行う。


祭壇に載せ、祈祷を捧げる。


感情の残滓を注ぎ込み、死霊的エネルギーを流す。

祭壇が淡く光り、ボロ布が変質した。


完成したのは、粗末だが機能的なローブ。HP低下のデメリットを少しカバーできるだろう。


次に、投擲用の骨の短剣。


周辺の骨片を数個集め、骨律操作で成形。

祭壇に並べ、祈祷。短剣が5本完成した。

軽く投げてみるが軌道は安定している。


最後に、骨の剣を2本。大きめの骨材を使い、再構築。祭壇の力で強化され、刃に死者の記憶が込められたような輝きを放つ。


「これで武装は最低限揃ったな」


満足げに頷く。


生産活動が可能になったのは大きい。


街スタート勢はショップ頼みと専用の工房を借りたりする必要があるそうだが、ここでは独自のアイテムを生み出せる。


次に、Sariraの星の蠍を思い浮かべた。あのワンボックスカーより一回りほど大きい巨大蠍は、テイムしたモンスターのようで、移動や戦闘に便利な印象だった。


自分も似たものを──以前手に入れて気になっていた天屍の尺骨を基に祭壇を使って周囲の霊素を注入し、骨の天使を作成するアイデアが閃く。


翼を持つ骨の守護者で、偵察や支援に使えるかも。


《骨律操作》で再構築を始め、祭壇で祈祷を施すが、流石にそこまでの複雑な機構となると完成には相応の熟練値と時間が要るようだ。


その時、メッセージが届いた。


【Sarira:今、ログインしたところです。TŌRMAさんの墓所に向かっています】


骨の天使を作成しながらTŌRMAは骨の頭を軽く傾け、待機する。


熟練値の不足か慣れてない作業だったせいか、霊素を取り込み過ぎて意図せず非物質寄りの半幽霊体となった。


実体は薄く、透けて見える。自意識はなく、ただ使役されるだけのモンスター。


「名前は、死(Thanatos)と天使名接尾辞 (iel)を足してタナティエル(Thanatiel)とするか」


取り敢えず偵察や補助に使えそうだ。


墓所の入口が微かに揺れ、巨大な蠍のシルエットが現れる。星の蠍──甲殻に星模様がきらめくボスクラスの異様を秘めているおそらくはユニーククラスのモンスターなのだろう。


Sariraがその背から優雅に降り、半透明の衣を翻す。アバターの体が微かに光り、神秘的なオーラを放つ。


「TŌRMAさん、お待たせしました。この子が道を教えてくれました。……この子、今日は機嫌がいいみたいです」


彼女の声は柔らかく、柔らかな響きが心地よい。


TŌRMAは骨の顎を動かし、想念で応じる。


感情抑制のデメリットがあるが、言葉に少しユーモアを交える。


「Sarira、丁度いいタイミングだ。君の蠍を見て、俺も骨の天使を作成したところだ。君の蠍みたいに、便利な相棒が欲しくてね。……まあ、俺のやつはまだ骨と言うか幽霊だけだけど」


Sariraのエメラルドの瞳が細くなり、くすっと笑う。表情が多彩で、17歳らしい可愛らしさが覗く。


「骨の天使ですの? 面白そうですね。私の蠍はこの子との契約で得たものですが、星の欠片を集めるのにきっと役立つはず。イベントの『星降る夜』、関連エピソードの気配を感じていらっしゃいますか? 私のデメリットの星の囁きが導いてくれるのですよ」


TŌRMAは祭壇を指し示す。骨の指がカチッと音を立てる。


「そうなのか。色々アドバイスを頼むかもな。こっちはダンジョンを拠点化したおかげで、生産が捗る。君も使ってみるか? 短剣を作ってみたが意外と使えるよ」


最初に作った毒属性のボーンナイフを護身用にと渡す。


Sariraは蠍を軽く撫で、興味深げに祭壇に近づく。蠍が後ろで大人しく待機する。


「ありがとうございます。イベント期間は7日間……合計1000万ポイント、一人20ポイントまで。私たちダンジョン勢は、協力しないと厳しいかも。でも、TŌRMAさんとなら、楽しめそうです。私の叔父様が、このゲームのシナリオに古代神話のモチーフがあるって言ってましたわ。現実と繋がってるのかしら……いえ単にゲーム会社が参考にしてるだけって言ったらロマンも無いですね」


外の空気が変わり始めていた。


忘却の墓所の上空に、微かな星の光がちらつく。


イベントの予兆だろう。二人と二体のモンスターは、ダンジョンを出発する準備を整える。


「面白そうだな。まずは関連エピソードを探そうか。星の欠片を集めて、星骸を押し返す。失敗したらワールドリセット──中々運営もハードな設定にしたものだ」


Sariraは微笑み、蠍の頭に再び乗った。


「ええ、一緒にいきましょう。星の声が、道を教えてくれていますわ」


石櫃を出て墓所のダンジョンから、まだ未踏破の彼女のダンジョンへと繋がるゲートに入る。


TŌRMAとSariraは視線を交わしイベントに挑む。


イベントの幕が開いた。7日間の冒険が始まる。

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