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Outer Gods Online-多元侵話生存録-  作者: 無我
第一章 VRMMORPG
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第1話 ログイン

月が曇りに呑まれた夜。

綾城透真は、深く沈んでいく意識のなかで、奇妙な“軽さ”を感じていた。


ダウンロード画面――。

脳裏に浮かぶのは、あまりにシンプルなUIと容量表示。


《必要容量:1.38MB》


(……は? フルダイブVRMMOでこの数値?)


一瞬、目を疑う。誤記かとも思ったが、進行バーは確かにスムーズに流れていく。だが、インストール時の“熱”がどこか異常だった。容量の少なさとは裏腹に、処理中のNox Terminal本体からはほのかに軋むようなノイズ音が響いている。


《ダウンロード完了:全記録同期済み》


(記録同期……? 何の記録と……)


思考が霞むよりも先に、視界の“中心”が引き裂かれるような感覚が訪れる。映像ではなく――世界そのものが、展開される。


目が覚める感覚は、あまりに静かだった。

そこに“目”という器官があるのかさえ定かではないのに、意識は確かに「視界」と呼ぶべき何かに包まれていた。


色彩も、形も、音さえも存在しない空間。

ただ、“そこにいる”という確かな感覚だけが浮かんでいた。


《ようこそ、Outer Gods Onlineへ》


それは声というより、意識に直接染み込む“意味”だった。

理性がそれを音と解釈しただけで、本質はもっと違う……根源的な“言語未満の意志”のようだった。


《ログイン認証完了。ユーザー:綾城透真》

《次に、アバター作成を行います。作成方式をお選びください》


突如として、視界が色づきはじめる。

夜空のような漆黒を背景に、三つの選択肢が浮かび上がった。


【AVATAR CONFIG】


■ AUTO MODE - 自動生成(推奨)


→ プレイヤーの精神構造を解析し、最適なアバターを自動作成します。選択要素はありません。


■ SEMI-AUTO MODE - 半自動生成


→ アーキタイプと種族・体格・属性・デメリット等を選択し、その他を自動補完します。


■ MANUAL MODE - 手動生成(非推奨)


→ あらゆる項目を自ら設計する上級者向け。システムは「責任を負いません」。


透真は無言で項目を見つめる。


(“精神構造の解析”……このゲーム、どこまで読み込む気だ)


記録同期、という不可解な表現を思い出す。

本人が意識するより先に、情報が“抜き取られていた”感覚が否応なく蘇った。


手動はリスクが高すぎる。自分のような初プレイヤーが選ぶべきではない。自動は楽だが、すべてを委ねるには、このゲームは“信用”できない。


――セミオート、だな。


透真は中段を選択した。選択と同時に、周囲の虚空が一変する。銀色の霧が渦を巻き、目の前に半透明のヒューマノイドが浮かび上がる。まるで設計図のように細部が解体され、変化しながら変形し始める。


《種族を選択してください》


◦ ヒューマン

◦ 獣人系

◦ エルフ/ドワーフ/ホビット

◦ モンスター型(スライム、ゴーレム、アンデッド等)

◦ 異形体(クトゥルフ型、神性接触体、生物的情報集合体など)


(ここで“異形体”を選ぶプレイヤーが、どれだけいるだろうか?)


明確なリスクが記載されていないのも逆に不気味だ。

けれど、最初から透真にはこれ以外の選択肢はなかった。


「……異形体」


選んだ瞬間、霧がざらついたノイズとなって空間全体に広がった。世界が“彼の選択を嫌がっている”かのような微細な抵抗感。


次に、詳細なアーキタイプの選択に移る。


異形タイプを選択してください》


黒曜石のように艶めく空間に、無音のまま浮かび上がる選択肢群。そのどれもが、人間の想像力の外側に踏み出したような輪郭をしていた。


 ◦ 骸骨群体スケルトナル・ネクローズ

 ◦ 感覚器過剰体オーバーセンサー

 ◦ 自己喰性肉塊オートカニバル

 ◦ 境界崩壊者ブレイカー・オブ・バウンダリーズ

 ◦ 名無き空洞ホロウ・ウィズアウト・ネーム

 ◦ 墓所媒体トゥーム・コンダクター

 ◦ 時層棲息者テンポラル・ドリフター

 ◦ 黒声受信機ブラック・ヴォイス・レセプター

etc、、、


どれを選んでも、プレイヤー同士でのまともな“会話”は成り立たなさそうだ。そしてそれぞれの名称に添えられた説明文は、どれも詩的で意味が曖昧すぎる。説明というより暗示だった。


(不親切言うか、ふざけすぎじゃないか……)


それでも、透真の内心は奇妙な“確信”を帯びていた。


――これは、選ばされている。


スクロールしていく指が、ある一点で止まった。


《選択:墓所媒体トゥーム・コンダクター


“生の終わりを起点とする者。すでに崩壊した存在において、再定義される意味。その身は肉も神経も持たず、記録だけがかすかに宿る媒体。『骨の記憶』に触れし者は、他者の終焉と共鳴する。”


「……“終わったものから始まる”、か」


呟きは、どこか満足げだった。


【選択を確定しますか?】

透真は迷いなく、「YES」に指を伸ばした。


《デメリット選択を開始します》


※本項目は能力補正を強く左右しますが、選択は任意です。


選択した異形タイプにより、初期デメリット枠が3つ解放されています。

任意で追加することで、さらなる恩恵が得られます。(最大5つ)


表示された候補一覧には、凶兆めいた単語がずらりと並んでいた。


 ◦ 呪詛:言語腐食(会話不能)

 ◦ 呪詛:自己非認識(鏡・映像に映らない)

 ◦ 呪詛:時間錯乱(行動クールタイムが不規則化)

 ◦ 汚染:知覚共有(他者の痛覚・恐怖を取得)

 ◦ 汚染:霊的吸引(敵・味方問わず死者を引き寄せる)

 ◦ 汚染:存在浸蝕(稀に自己の存在情報“経験値”が失われる)

 ◦ 制限:五感欠損(触覚と味覚を失う)

 ◦ 制限:言語制限(一部固有名詞の使用不能)

 ◦ 制限:情動抑制(感情が閾値を上回ると一時的に行動不能)

etc、、、


「……これは、もはやペナルティではなく、選択そのものが一種の“試練”だな」


 透真は冷静に、しかし慎重に選び取っていく。


 ◼ 汚染:霊的吸引

 ◼ 汚染:知覚共有

 ◼ 制限:五感欠損


 そして、さらにニつ――


 ◼ 呪詛:存在浸蝕

 ◼ 制限:情動抑制


 5つ目は明らかに“推奨数”を超えていた。警告文が点滅する。


警告は点滅し、選択画面の背景がざわつくように揺らめいた。


《デメリット選択数:5/最大想定枠:3》


《これ以上の選択は非推奨です。本当に確定しますか?》


その問いに対して、透真の返答は短いものだった。


「……ああ、確定でいい」


指が最後の“YES”に触れた瞬間、空間が崩れ落ちるように音を失った。


闇が裂け、風もないのに“墓土”の匂いが立ち込める。

次の瞬間、彼の意識は重い“肉体のない身体”に沈んだ。


■ アーキタイプ:異形体(墓所媒体/トゥーム・コンダクター)


■ デメリット取得数:5

☑ 汚染:霊的吸引

☑ 汚染:知覚共有

☑ 制限:五感欠損

☑ 呪詛:存在浸蝕

☑ 制限:情動抑制


《高負荷選択を確認。報酬処理中……》


■初期メリット(自動付与)


【1】《骨律操作アスト・オスティウム


分類:アバター改造型スキル

内容:

骨格を“想念”と“記憶”に従って変形・強化・再構築する能力。墓所媒体特有の“骨の記憶”から武具や器官を形成可能。骨を通じて魂の残滓を吸収・再構築することもある。

大きな変形を行うには相応の熟練値と時間が必要。


▶使用例:

•自分の手をナイフに再構成

•他者の遺骨から剣を生成(その記憶を刃に込める)



【2】《終焉同調サナトス・リンク


分類:パッシブ/対NPCおよび環境イベント補正

内容:

周囲で死が発生すると、死者の“終焉の情報”が自動で流れ込む。これにより、死に関わるイベント発生率が上昇し、特定の死霊・邪神系NPCとの友好度が補正される。

また、他者の“死の記憶”に触れることで疑似的な経験値取得が可能。


▶特殊効果:

•戦闘後の死体から技能の“断片”を獲得することがある

•一部の死にまつわるスキルやアイテムを正規手段なしで解禁できる



【3】《名無き祭壇アラタ・シュライン


分類:インスタントイベント生成スキル

内容:

使用者の“感情の残滓”と死霊的エネルギーを用いて、仮想空間内に一時的な“異界空間”を生成。空間内では周囲のNPC・Mobの挙動や行動AIが変質し、一定条件で特殊な“儀式”イベントが始まる。


▶用途例:

•デバフ地帯や儀式空間の創出(他プレイヤーも影響を受ける)

•異界の声を招き寄せ、特殊アイテム出現や契約チャンスが発生

•祭壇を軸に一時的な“自己拠点”化も可能



■その他の初期ボーナス:

•成長補正:知覚系・霊感系スキルの発現確率 +20%

•イベント出現率:上位Tierの超位存在系干渉イベント出現率 +12%

•ステータス影響:HP・防御極端に低下、精神耐性・存在耐性 +大


《アバター作成完了。ユーザーネームを入力してください》


視界の中心に、黒曜の霧のようなキーボードが浮かび上がる。透真はわずかに逡巡し、指が、ゆっくりと名前を打ち込んでいく。


 《TŌRMAトーマ


その名はまるで“透真”という人間の輪郭を曖昧にしながらも、確かに彼であることを示していた。アバター制作を完了すると世界が音を取り戻す。


深く、低く、まるで地の底から響くような起動音。


黒い霧の海が引き裂かれ、その奥に、彼の新たな“始まり”が広がっていた。


選択が確定された瞬間、世界が――“展開”した。


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