第17話 霊骸の咆哮と砂と骨の邂逅
天井が崩れ、開いた大穴から落下してきたのは、鈍い黄金の輝きを放つ巨大な蠍と、その背に立つ金褐色の肌に漆黒の長髪、エメラルド色の瞳を持つアバターだった。
蠍の甲殻は星辰の光を反射し、尾の毒針が鋭い光を放つ。こちらから見える彼女のアバター名は「Sarira」。
今までTŌRMAを観察していた星の観測者はいつの間にか消えて初対面の存在に一瞬警戒を強める。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:12以上/回避判定》
《結果:17(成功)》
これ以上無駄に体力を削られるわけにはいかないTŌRMAは星砂の蠍の着地による衝撃波を回避する。
墓地の地面が砕け、砂塵が舞う中、眼窩の青白い光が蠍の輝きと共鳴する。彼は骨柄の逆刃シャムシールを握り直す。
「…何者だ?」
TŌRMAの骸骨アバターが低い声で問う。全身骸骨の異形な姿に、普通なら動揺するはずだが、Sariraは動じず、蠍の背から静かに降りる。
彼女は武器を持たず、両手を軽く広げ、静謐な微笑みを浮かべながら穏やかな声で答える。
「私、Sarira。星の導きがこの地に私を運んだ。…貴方は、この巨像に挑んでいる者か?」
彼女の声は墓地の闇に溶け込むように柔らかく、エメラルド色の瞳がTŌRMAを静かに見つめる。星の囁きに導かれたような穏やかな好奇心が、彼女の佇まいに宿る。
TŌRMAは《終焉同調》を通じて彼女の気配に死の匂いがないことを感じ、敵意がないと判断するが、なお警戒を解かない。
このゲームがPvPを禁止事項に指定していないので妥当な判断となる。
次の瞬間、霊骸の墓守(怨骨の巨像)が咆哮を上げ、新たな拳を振り下ろす。
Sariraは一瞥で巨像の動きを捉え、静かな口調で蠍に指示を出す。
星砂の蠍が反応し、昆虫らしい素早い軌道で巨像の側面に回り込み、両腕の鋏を振り上げて拳に強烈なカウンターの一撃を叩き込む。骨の表面に深い傷が刻まれ、巨像の動きが一瞬鈍る。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:14以上/攻撃連携判定》
《結果:16(成功)》
TŌRMAは隙を逃さず、骨柄の逆刃シャムシールを振り上げる。《骨律操作》で刃に死者の記憶を込め、巨像の傷ついた箇所に斬り込む。逆刃の鋭い一撃が青白い光を放ち、傷の亀裂をさらに広げるが、巨像の拳はなおも堅牢にそびえる。
Sariraは蠍に寄り添い、蠍の動きを導き、尾を高く振り上げて毒針を巨像の胴体に突き刺す。
毒針が骨に食い込むが、巨像は揺らがない。
「この巨像、想像以上に硬い。…だけど、共に戦えば、道は開けるかもしれない」
Sariraの声は静かだが、TŌRMAにとっては九死に一生ものの助力者の登場だ。
TŌRMAはシャムシールの柄を握り直し、短く返す。
「TŌRMAだ。…その蠍、役に立つな」
巨像の胴体から新たな腕が生え、怨念の光を帯びた衝撃波が二人を襲う。
TŌRMAは《終焉同調》で巨像の動きを予測し、シャムシールを構えて身を低くする。
Sariraは《星の囁き》を発動し、星辰の力を通じて巨像の怨念の流れを読み取る。
彼女の瞳が星光を宿し、蠍の感覚を研ぎ澄ます。
蠍は巨像の動きに反応し、鋏を素早く展開して衝撃波の一部を受け流す。
鋏が怨念の光を弾き、Sariraを護りながら砂埃を巻き上げる。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:16以上/連携回避判定》
《結果:10(失敗)》
衝撃波の残りが二人を飲み込む。TŌRMAのHPが8%減少し、骨柄の逆刃シャムシールが衝撃でわずかに揺れる。
Sariraは《光の拒絶》のデメリットで霊光の衝撃に体力を削られ、よろめく。
星砂の蠍が咆哮し、Sariraを守るように甲殻を構え、鋏を振って次の攻撃に備える。
巨像が新たな攻撃を仕掛ける中、TŌRMAはシャムシールを振り回して巨像の腕を狙う。
逆刃が傷に食い込み、骨の傷口を更に広げるが、巨像の動きは止まらない。
Sariraは《星の囁き》で巨像の怨念の揺らぎを捉え、蠍に素早い動きを指示。
蠍は昆虫らしい敏捷さで巨像の後背に回り込み、尻尾を振り上げて毒針を背骨に突き刺す。
毒針が巨像の骨に刺さり、巨像の纏う怨念の流れが一瞬乱れる。
連携が噛み合い、巨像の姿勢がわずかに崩れる。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:13以上/連携攻撃判定》
《結果:18(成功)》
TŌRMAのシャムシールが巨像の腕の傷口をさらに切り裂き、Sariraの蠍が両腕の鋏で巨像の側面を挟み込み、骨の表面に新たな亀裂を走らせる。
巨像の咆哮が墓地に響き、なおも立ち続けるが、その動きはわずかに鈍っている。
Sariraは蠍の動きを静かに見守り、TŌRMAに告げる。
「TŌRMA、この巨像を討つには決定打が足りない。私の蠍に合わせて」
TŌRMAは骨柄の逆刃シャムシールを構え直し、頭蓋骨の眼窩で青白い光を瞬かせる。
「…ああ、巨像を砕くなら、共にやろう。」
星砂の蠍が咆哮し、墓地の闇でTŌRMAのシャムシールが閃く中、二人と一匹は霊骸の墓守との決戦に挑む。
星砂の蠍が咆哮し、墓地の闇でTŌRMAの骨柄の逆刃シャムシールが閃く。
霊骸の墓守(怨骨の巨像)の怨念が墓地を震わせ、地面の骨が軋む音が響く中、TŌRMAとSariraは決戦の最終局面に覚悟を決める。
巨像が両腕を振り上げ、怨念の光を帯びた衝撃波を放つ。
TŌRMAは《終焉同調》で巨像の動きを読み、シャムシールを構えて踏み込む。
《骨律操作》で骨格を強化し、衝撃に備える。Sariraは《星の囁き》を発動、星辰の力で巨像の怨念の流れを捉える。
彼女の静かな呪詠が響き、星砂の蠍の感覚を研ぎ澄ます。
蠍は昆虫らしい敏捷さで跳躍、両腕の鋏を広げて衝撃波を受け流す。
鋏が怨念の光を弾き、砂塵が舞う。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:15以上/連携防御判定》
《結果:16(成功)》
衝撃波を凌いだ瞬間、巨像が咆哮と共に新たな攻撃を繰り出す。
巨大な腕がSariraを狙い、怨念の光が鋭い刃となって彼女を切り裂かんと迫る。
墓地の空気が凍りつき、死の気配がSariraを包む。
Sariraは蠍に指示を出すが、巨像の動きはあまりにも速く、蠍の鋏が間に合わない。
その刹那、TŌRMAの眼窩の青白い光が燃え上がる。
《骨律操作》で骨格を極限まで加速させ、Sariraの前に身を投げ出す。
シャムシールを盾のように構え、怨念の刃と正面から激突。
衝撃が墓地を揺らし、骨柄が悲鳴のような軋みを上げ、等身の逆刃が粉々に砕け散る。
清脆な破砕音が闇に響き、シャムシールの破片が墓地の地面に星屑のように散らばる。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:16以上/庇護判定》
《結果:18(成功)》
TŌRMAのHPが3%減少し、残り6%‼︎
骨格が震え、骸骨アバターの関節が一瞬軋むが、彼は倒れない。
Sariraは無傷で守られ、エメラルド色の瞳が大きく見開かれる。
彼女はここで致命傷に近い一撃を受ける予感を星の囁きによって知っていた。
彼女の手が一瞬震え、現実世界でも此処でも宿業のように宿る星の囁きに導かれて生きてきた彼女の魂が揺さぶられる。
TŌRMAの犠牲――自らの命と刃を投げ出した覚悟は、星の導きを超える人の意志の輝きだった。
彼女の声は静かだが、抑えきれぬ感情が震え、墓地の闇に響く。
「…TŌRMA、貴方の意思は星の導きすら超えると言うの?」
その言葉は自信なくTŌRMAにも届かない。
TŌRMAは折れたシャムシールの柄を握り、静かに息を整える。
「正攻法だけではやはり無理か…胸部の欠片を抜き、石櫃の制御盤に嵌める。それで終わるはず」
眼窩の青白い光が鋭く瞬き、巨像の胸部を睨む。
《骨律操作》で石櫃にある骨の残骸を集め、即座に骨の短剣を形成。
短剣はシャムシールより小さいが、死者の記憶を宿し、青白い光を放つ。
巨像が再び拳を振り上げる。
TŌRMAは機動力を活かし、骨の短剣を手に巨像の胸部に跳び込む。
短剣を星骸の欠片の縁に引っ掛け、抜き取る準備を整える。
Sariraは《星の囁き》で巨像の怨念の乱れを読み、蠍を最適の行動へ導く。
「私の刃よ!TŌRMAに導きを!」
蠍は素早く巨像の後背に回り込み、両腕の鋏で巨像の胸部の骨を挟み、動きを封じる。
毒針が星骸の欠片の周囲を突き、欠片を固定する骨を緩める。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:14以上/連携攻撃判定》
《結果:19(成功)》
更にTŌRMAの短剣が星骸の欠片の縁を確実に捉え、蠍の鋏が巨像の胸部を尚も固定。
Sariraの指揮が蠍の動きを加速、蠍が側面から跳び、毒針で足から欠片までの周囲を突き、巨像の抵抗を弱める。
巨像の纏う怨念の光が不安定に瞬く。
TŌRMAは低く呟く。
「Sarira、今だ。抜く!」
TŌRMAは《骨律操作》で骨格を強化、短剣を両手で握り、星骸の欠片に全力で力を込める。短剣が欠片をしっかりと捉え、青白い光が迸る。
蠍が鋏で巨像の両腕の動きを完全に封じ、TŌRMAが欠片を力ずくで引き抜く。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:16以上/決定的攻撃判定》
《結果:20(クリティカル成功)》
星骸の欠片が巨像の胸部から外れ、青黒い煙が噴き出す。
巨像の咆哮が途切れ、骨に無数の亀裂が走る。
怨念の光が消滅し、巨大な体が地面に倒れ込み、墓地に砂塵と骨の破片が舞う。静寂が訪れる。
Sariraは蠍に寄り添い、静かな微笑みを浮かべる。
「私達の…勝利だ。TŌRMA、貴方の意志と勇気に敬意を」
TŌRMAは骨の短剣を握り、頭蓋骨の眼窩で青白い光を静かに瞬かせる。
「…Sarira、君もお疲れ様だ。この欠片を制御盤に嵌める」
このあと二言三言雑談を交えて互いのアドレスを交換するとお互いの国籍と年齢に驚く小話を挟んで二人は倒れた巨像を背に、石櫃の制御盤を目指して歩を進めた。