第16話 Sariraの神殿探索
星砂の蠍の頭の上に揺られながら、ラーイラことSariraは神殿の薄暗い回廊を進む。
蠍の節くれだった脚が石畳を叩く音が、静寂に反響し、神殿の古びた空気が肌にまとわりつく。
彼女のエメラルド色の瞳が暗闇で微かに光り、《精神汚染(星の囁き)》を通じて囁きが心の奥に響く。
「この神殿…ただの石と砂の遺構。だけど、攻略には奥へ進む必要がある」
Sariraの胸に、微かな疼きが走る。
月上がりの陰にポツンと影人のようなNPCが時折立ってこちらを見つめているような気配を醸し出しているが話しかけても反応せず、近づいても消えるのみ。
探索を続行する傍らたまにPOPする星砂の蠍を倒しつつデメリットの一つ《運命の束縛者》が、まるで目に見えない糸に操られるように、進むべき道を半ば強制されている気配を感じている。
更に神殿の探索を進めていくと崩れた壁の隙間があり、そこから外に出ると、砂塵が舞う荒涼とした大地が広がっていた。
ただ一人、佇む人影があった。
白仮面の少女――その仮面は感情を隠し、静止した姿はまるで神殿の一部のように溶け込んでいる。
Sariraの《運命の束縛者》が再び反応、この出会いが彼女のデメリットによって強制的に引き寄せられたエピソードであることを示す。
単なる障害か、それとも別の何かを導く存在か? 《星の囁き》が反応し、頭の中に断片的なヒントが流れ込むが、目の前の白仮面の少女の意図はまだ定かではない。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:12以上/白仮面の少女との初接触:友好度補正判定(《運命の束縛者》による契約補正+2)》
《結果:15(成功)》
Sariraは蠍の背から降り、少女に一歩近づく。
《運命の束縛者》の影響で、足取りには微かな強制感がある――まるでこの対話が、避けられない筋書きの一部であるかのように。
白仮面の少女はゆっくりと首を傾げ、仮面の奥から鈴のような声が響く。
「――汝は、星の音を聴いてきたのだな。」
Sariraの眉が微かに動く。
感情を揺らしたのではない。声が、彼女の精神汚染デメリットの“囁き”と同調したのだ。
仮面の奥の目は見えない。しかし確かに“見られている”感覚がある。
「汝は道を選んだのではない。選ばされた。だが……それを受け入れることもまた、強さなのか」
白仮面の少女の周囲に漂っていた空気が、わずかに“密度”を増す。
空気が揺らぎ、背後の蠍が警戒音のように脚を鳴らした。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:15以上/対NPC交渉・第一問答における耐性判定(星の囁きによる精神揺らぎ)》
《結果:18(成功)》
Sariraは静かに目を閉じ、胸の奥で響いた囁きの波を受け流す。
「私は選んだ。縛られているようで、縛られてなどいない」
その言葉に、白仮面の少女がほんのわずかに身じろぎする。
仮面の下から、再び声が紡がれる。
「ならば、試すといい。汝の選択が“契り”に値するか。」
少女の手が、胸元で緩やかに動く。
砂塵の中から、青白い蝶のような光が舞い、Sariraの頭上へと浮かび上がる。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:14以上/異界存在との契約儀式・前段階:心象共有》
《結果:12(失敗)》
蝶の光は彼女の眉間で儚く弾け、煙のように消えた。
「……まだ、響かぬか。汝の中の“自己”は、囁きに混ざってしまっている。」
Sariraはかすかに唇を引き結ぶ。
しかし、拒絶ではなかった。これは、“完全な失敗”ではない。
白仮面の少女は再び言葉を紡ぐ。
「焦ることはない。星の律は、急がぬ。だが、忘れるな――この出会いは一度きりではない。次に会う時、汝が“囁き”を制し、自らの意志で歩んでいれば――私は、汝を認めよう」
そう言うと、白仮面の少女の姿は淡い光の粒子となり、風に融けるように消えていった。
静寂が戻る。
神殿の回廊に再び、星砂の蠍の脚音が響き始める。
Sariraは再び騎乗し、誰もいない大地に向けて静かにつぶやいた。
「次、ね。これは本当に偽りの世界なのかな?本当に信じられなほどリアル」
再び蠍の騎手首を翻して、神殿のダンジョンへと向かう。
星砂の蠍の背に揺られ、Sariraは神殿の奥深くへと進む。
プレイ開始から3日目、幾つもの回廊と罠を抜け、ついに神殿の中枢――紫水晶の間へとたどり着いた。
広大な円形の部屋の中央には、紫水晶の巨大な結晶体が浮かび、淡い光を放ちながら脈動している。
その光はまるで生き物の心臓のように、ゆっくりと、だが確実に鼓動を刻んでいる。部屋の壁には無数の星座を模した彫刻が刻まれ、Sariraの《星の囁き》が再び反応し、頭の中に断片的な囁きが響く。
「ここが神殿の中枢。異界の意志が息づく場所…」
彼女のエメラルド色の瞳が結晶を捉え、胸の奥で疼く感覚が強まる。《運命の束縛者》の影響か、まるでこの部屋に引き寄せられたかのように足が自然と進む。
だが、同時に、背筋に冷たい予感が走る。
部屋の空気が重く、どこか歪んだ気配が漂う。
紫水晶の光が強まるたび、空間そのものが微かに揺らいでいるようだ。
Sariraは紫水晶の結晶体に近づき、その表面にそっと手を伸ばす。
冷たく滑らかな感触が指先に伝わるが、期待していたような反応はない。
結晶はただ静かに脈動を続け、淡い光を放つばかりだ。彼女の《星の囁き》が微かにざわめくが、明確なメッセージや導きは得られない。
「反応がない…? ただの飾りじゃないはずなのに。」
Sariraは眉を寄せ、結晶の周囲をゆっくりと歩きながら、彫刻された星座の壁や床の模様に目を凝らす。
神殿の中枢ともなれば、何らかの仕掛けやイベントのトリガーがあるはずだ。
彼女は《運命の束縛者》の影響を感じながらも、自身の意志で次の行動を模索する。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:12以上/紫水晶の結晶体:隠された仕掛けの察知》
《結果:14(成功)》
視界の端で、壁の星座彫刻の一つが一瞬だけ強く光った。
Sariraは即座にその方向へ向き直る。光った彫刻は、まるで星の連なりが矢印のように結晶の基底部を指しているかのようだ。
彼女は膝をつき、結晶の台座部分を注意深く調べる。指先が触れた瞬間、微かな振動と共に、台座の表面に隠された紋様が浮かび上がる。
それは、星の軌跡を模した複雑な魔法陣だった。
「これか…でも、どうやって起動する?」
彼女は魔法陣の中心に手を置き、《星の囁き》を通じて外宇宙の意志と共鳴を試みる。
だがその瞬間、部屋全体の空気が一気に歪み、紫水晶の光が不規則に明滅し始める。
空間がまるで水面のように揺らぎ、彼女の足元の床に黒い亀裂のような穴が広がっていく。
《判定:ダイスロール(D20)/成功値:15以上/空間の歪みへの対応:即時回避》
《結果:9(失敗)》
「っ!?え?」
Sariraは咄嗟に後退しようとするが、足元の穴が急速に広がり、彼女と蠍の身体は一瞬にして暗闇に飲み込まれる。紫水晶の光が視界から消える。
落下の感覚が続く中、彼女の《精神汚染(星の囁き)》が再び疼き、頭の中に断片的な声が響く。
「――選ばれし者よ、深淵は汝を試す。星の律は、決して容易には屈しない。」
暗闇の中で、Sariraのエメラルド色の瞳が微かに光る。
彼女は唇を引き結び、迫りくる未知の試練に備える。穴の先に待つのは、新たなエピソードか、それとも彼女の意志を試す過酷な試練か――?