ここで死ね
ある日のことだった。
あれから、強鷲号はケイセイ諸島海域の担当になっていた。
「そもそも何でこんなにこの一帯の区域だけ、軍の数が多いんですか?」
戦況図を見ながら、九条が聞いた。
それは監査官見習い全員が思っていた疑問だった。
しかし、どうやらこの質問はまずかったらしい。
兵士全員が見習いたちを睨みつけた。
流石に給仕官と医務官は睨んではいなかったが、目を合わせたくないのか下を向いていた。
異様な雰囲気に包まれた船内でようやく口を開いたのは桜木だった。
「話にならない。
船、降りてください」
「な、なんですか?」
慌てる九条。
「海に居るものにとって常識中の常識もわからん奴らが居ると迷惑だ」
「常識?」
「…」
「リジューム島からケイセイ諸島までは海賊が集まる危険区域」
呆れて言葉も出ない桜木の代わりに薪が答えた。
「それが常識なのはわかった。
だが、なぜ船を降りなきゃいけない?」
石本が文句有りげに聞いた。
バカにされたような気がしていて、血が登っていたのだ。
「常識は他にもある。
それを知らない人間が乗ってると、迷惑だ。
あんたらはいい。
私たちが守らなきゃいけないから…
でも、私たちのことは誰が守ってくれる?」
この桜木の言葉には声が出なくなった。
「わかったら、船を降りろ」
「だ、だが、監査業務が…」
「指宿、銃貸せ」
桜木がそう言うと指宿はあっさりと貸し、桜木はそれを石本の手の上に置いた。
「な、なんだ?」
「降りるのが嫌ならここで死ね。
ちょうど6発入ってる」
桜木の口調は更に冷たくなっていた。
銃をしばらく見つめたあと、石本は慌てて落とした。
「無理なら降りろ。
一華、きーき(桐生元帥のこと)に連絡しろ」
「はい」
植村はあっさり返事をした。
それ以上、6人が口を開くことはできなかった。