教わったこと
次の日、船は穏やかな朝を迎えたはずだった。
「あなたは訓練兵時代、何を教わってきたんですか?」
監査官見習いたちが桜木に詰め寄る。
また、服装がすごかったのだ。
下は茶色の短パンに上は迷彩柄のタンクトップ。
非常に露出度が高く、中将としてはあるまじきだった。
「教わったことなんてありませんよ」
桜木は監査官見習いたちの方を見ずに平然と話し始めた。
「知ってます?
私が入った頃の女海兵の人数?」
「い、いえ…」
「4人。
しかも全員支部で佐官以上(少佐以上)はいなかった。
そして、全員いつの間にか辞めってたった。
つまり女が海軍で生き抜く方法を誰も教えてくれなかったんですよ。
私に」
桜木は立ち去ろうとしたが「ああ!」と言って立ち止まった。
「教わったことが2つだけありました。
私の同期は私をいじめてきました。
そして、教官たちはそれを黙認し、訓練では度を越してしごいてきました。
つまり、私が教わったのはいじめはしていいということと、兵士はしごいていいということ。
以上です」
また立ち去ろうとした時だった。
平木愛上等兵が監査官見習いに立ち向かったのだ。
「なんで桜木中将のこと攻めることしかしないんですか?
確かに、服装や態度が間違いなのはわかります。
でも、知識も戦闘能力もあるし、航海士としては国内1・2位を争う」
「平木」
桜木が声で間に入ろうとする。
それでも止まらない平木
「それに人を見る目だって!」
「やめろ!平木!」
桜木が怒鳴った。
「…申し訳ございませんでした」
平木は監査官見習いたちに頭を下げ、出ていった。
「申し訳ございません」
桜木も後を追うように頭を下げ出ていった。
何も言い出す言葉が見つからない監査官見習いたちを追い詰めるように薪が口を開いた。
「俺も平木に賛成だけどな。
嬢ちゃんは訳わからんところはあるが、正しいこと言ってることの方が多いし、礼儀が無いわけじゃない。
何より平木が言った通り優秀だ。
責められてるところもあるが褒めるとこも大いにある。
お前さんら、貶すばかりで褒めんだろ?」
「それは…」
「それに二度もこの国を救った英雄だ」
薪の言葉に「そうだよな」「そうだ、そうだ」と他の兵士たちから声が飛び交った。
「褒めるのも監査官の仕事の1つじゃないんですか?」
最後は植村がきっぱり言ってしまい、監査官見習いたちは本当に何も言えなくなってしまったのだった。