新たな船出
「…あの〜…やっぱり…私の船だけこんな豪華でいいんでしょうか?」
戸惑ってる植村大佐の目の前で桜木中将と薪少将が楽しげにチェスをしていた。
「元々、俺はこの船の副船長で、嬢ちゃん(桜木のこと)も副船長なんだから、別に変なことじゃないだろう?
それとも不満か?」
薪がニヤッと笑う。
「いえいえいえいえ!」
植村は慌てた。
「まあ、年の途中で人事を編成し直すのも面倒だろうからな」
薪はまたチャス盤に目をやった。
「それよりも問題なことがあるんだよね」
いつも不真面目な桜木らしくない真面目な様子で間に入ってきた。
「なんですか?」
植村が聞く。
「なんで監査官・み・な・ら・い・がこんなに乗船してるわけ?」
桜木はチャス盤に目をやったままだったが、明らかに『見習い』という言葉を強調していた。
長年敵視されてきたカイル国とのことが落ち着いたここリアン国。
カイルは今、王の座を巡り現王とその王に捨てられた伊竜が戦っている。
言わば、今は国内のことで精一杯で敵国に目をやってる場合ではないのがカイルの実情だった。
そしてカイル国との戦いが終わるのを見届けた監査官の代わりに、来年の監査官候補6人が乗船していた。
「監査官を育成するなら監査対象のいる桜木中将が乗った船が一番と志摩主任が結論付けたんです」
ムッとした様子で石本監査官見習いが答えた。
桜木は服装も言動も海軍には相応しくないのに中将をしている。
それどころか大将候補だ。
ちなみにリアンの海軍は中将5人と大将は3人しか枠がない。
「ふーん」
『見習い』と強調したわりには興味無さそうな桜木。
「とにかく、監査本部としてはあなたが大将になる前に大将に相応しい人間になってもらう必要があります。
見習いと言えど容赦はしませんからね!」
九条監査官見習いの勢いは良かった。
「あっそ」
そう答えた桜木の今日の服装は白の半袖シャツとデニムの短パンだった。
おそらくこの状況で一番頭を抱えていたのは船長の植村であろう…