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推しの元アイドルといつも一緒にいるようになった件  作者: ときたま@黒聖女様


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第27話 クラスの美少女が家に来た②

「ちょっと待ちなさい」


 カバンから鍵を取り出して玄関を開けようとした時だ。鍵を手にしている方の手を掴まれ、止められた。


「どうかしたの?」

「浮安に確認してほしいことがあるのよ」

「確認?」

「私に変なところない?」


 両腕を広げた流奈に浮安はドキッとする。

 そんなつもりはあるはずもなく、絶対にないことだというのに流奈が胸に飛び込んでくるのを待っているように見えてしまった。

 すぐに我ながら気持ち悪いと煩悩を消し去ってから流奈を見る。どこも着崩されていないまだ真新しい制服を身に纏う流奈に変なところなど、どこにも見当たらない。


「うん、大丈夫だよ」

「可愛い?」

「えっ!?」


 思ってもいない質問が飛んできて驚いてしまう。


「何よ。そんなに変なこと聞いた?」

「う、ううん。そんなことはないよ……ないんだけど」

「なら、答えてくれたっていいじゃない」


 流奈が可愛いかどうかなど聞かれるまでもない。可愛いに決まっている。それは、推しの「るーなちゃん」という視覚補正を抜きにしても答えは変わらない。流石に、世界一可愛い「るーなちゃん」と比べると極めて僅かに劣ってしまうが藍土流奈という少女は可愛いのだ。

 ただ、それを改めて口にするのは抵抗がある。

 推しの「るーなちゃん」を前にファンが興奮して可愛いと連呼するのはオタクの性のようなもの。息をするように言葉が口を飛び出していく。

 しかし、クラスメイトの女の子に対して可愛いと伝えるのは恥ずかしさの方が勝ってしまう。言葉も尻込みしている。


「か、可愛い、よ……」


 顔を逸らしてどうにかそれだけを絞り出す。

 すると、両頬に手を添えられ引っ張るように顔を動かされた。目の前には流奈の顔がある。それも、めちゃくちゃ至近距離で。全身の血が沸騰したみたいに熱くなるのが分かった。


「ちゃんと私を見て」


 離れられもしない状況でそんなことを言われてしまっては見るしかない。雪のように白い肌の中で存在を主張する透き通った紅色の瞳に吸い込まれるように惹きつけられる。


「どうよ」

「……可愛い……あ」


 気が付けば無意識の内に言葉が口を出ていた。

 求められている内容とはいえ、さっきと一言一句変わらない答え。それなのに、流奈は満足したように口角を上げた。にっこり、という表現が似合うほど笑っている。


「それなら大丈夫ね。さ、入りましょう」

「……可愛いかどうか聞いて急にどうしたの?」


 納得して離れていった流奈に聞いてみた。

 自分の容姿が整っていることは流奈自身も理解していたはず。どうして、今になって気になったのかが浮安は気になった。


「これから会うのは浮安のお母さんなんだから気になるでしょ」

「そうなの?」

「そうよ」


 いまいちよく分からなかったが女の子というのはそういう生き物なのかもしれない。


「そういうことなら心配無用だよ。藍土さんはいつだって可愛いから」


 何をしていたって流奈が可愛いことに変わりはないのだ。浮安一人だけの意見なら浮安になるかもしれないが、百人に聞いても同じ答えが返ってくるだろう。


「そ、そういうところよくないわよ」

「え?」


 頬を赤くした流奈に言われてしまう。

 また何か余計なことでも言ってしまったのだろうかと考えてみても心当たりがない。


「な、何でもない!」


 赤くなった頬を隠すようにそっぽを向いた流奈に浮安は不安になる。これから、家の中に流奈を招くのだ。それなのに、流奈の機嫌を損ねていては陽花里から何かしたのかと疑われるかもしれない。


「えっと……ごめん」


 理由が分からないからとりあえず頭を下げた。


「何で謝ってるのよ」

「……藍土さんに何か嫌なことしたから」

「は? 何よ、嫌なことって」

「だって、よくないって」


 よくない、というのは流奈にとって嫌だったということだ。嫌がらせしてやろうと企んでいた訳じゃないが傷付けてしまったのなら弁明して誤解を解いておきたい。

 それで、許してもらえるかどうかは別として人として人を傷付けたままではいたくないのだ。


「ああ、そういう……私の方こそ、謝らないといけないわね。別に、嫌なことされてないから謝らないで」

「……そうなの? よくないことしたのに?」

「そ、それは、私の問題だから。浮安は別に気にしなくていいわ」

「ほんとに? 無理してない? 大丈夫?」

「ああ、もう。大丈夫だって言ってるでしょ」

「そっか……よかった〜」


 流奈が怒っていたり、傷付いていたりしていないと分かり浮安は胸を撫で下ろした。


「ったく……浮安は心配し過ぎなのよ」

「あ、そうだ。何が藍土さんにとってよくないことだったのか教えてくれる?」

「……な、何でよ!」

「や、同じことを繰り返さないように」


 怒っていたり傷付いていなかったとはいえ、流奈にとって問題はあったのだ。流奈にとって問題がある行動は極力避けておきたい。


「嫌よ! 絶対に嫌!」


 だからこそ、原因を知りたいというのに流奈に嫌がられてしまう。口にするのも憚られるほど非常識なことをしてしまったのだろうか。


「そこを何とか! お願い!」

「うっ……な、何でそこまで気になるのよ」

「藍土さんにとって問題になることはしたくないんだ。だから、教えて」

「ううっ」


 ばつが悪そうに流奈が顔をしかめるがここは引けない。


「嫌よ」

「そこを何とか」

「嫌ったら嫌!」

「お願いします!」


 断られては頼み込む。それを、何度も繰り返す。後半は根比べに近かった。顔を背ける流奈に両手を合わせたままじっと動かない。教えてくれることを願って。

 チラッと見てきた流奈と目が合った。

 逸らさずに流奈のことを見続ける。 

 すると、諦めて観念したように流奈が項垂れた。


「……分かったわよ」

「ありがとう」

「そのかわり、笑ったりしないでよ」


 上目遣いのような形で言われ、首を縦に振る。

 どんな問題だろうと流奈を笑ったりしない。というか、問題になるようなことをしてしまったのは自分なのだ。どんなことを言われようと重く受け止める。


「……その、びっくりしたのよ。浮安に可愛いって言われて」

「……え?」


 言いたくなさそうに白状した流奈に対して出た第一声がそれだった。

 どういうことなのかさっぱり分からない。

 可愛いかどうか聞いてきたのは流奈の方だ。

 それに対して正直に答えた。

 結果として、流奈を驚かせることになった。

 頭の中で整理してもなるほど、となる結論に至れない。


「藍土さんに聞かれたから答えたんだけど……それが、まずかった?」

「違うわよ。その後に言ったでしょ。不意打ちみたいに」

「不意打ちみたいには言ってないと思うけど……」

「言った。油断してるところに言ってきた」


 小さな子どもが駄々をこねるように流奈が言ってくる。流奈のこんな一面を見るのは初めてだ。普段から大人っぽいと思っていたがこういう一面も可愛らしい。

 なんてことを考えたところで本題も考えた。流奈がここまで言うのだから不意打ちみたいになってしまったのだろう。

 だからといって、可愛いなんて言われ慣れているであろう流奈が口から溢れるように出たワードにそんなに驚くものなのだろうか。


「どう言えばいいのか分からないけど……次から気を付けるよ。もう言わないようにするね」


 疑問は尽きないが流奈を驚かせたことは事実だ。もう起こらないように気を付けよう。


「言わないでなんて言ってない」

「でも、藍土さんを驚かせるようなことはしたくないし」

「びっくりしたけど、その……う、嬉しかったし」


 ますます混乱してきた。

 可愛いと言ったら言ったで驚くからよくないと言われ、言わないようにすれば嬉しかったとも言われる。流奈が何を考えているのかさっぱりだ。

 ちょっとめんどくさいかも……と、流奈を「るーなちゃん」として見ていた時には抱かなかった気持ちが芽生えた。


「……コイツめんどくせえなって思ったでしょ」

「こ、コイツとは思ってないよ」

「めんどくさいとは思ったんでしょ」


 顔に出てしまっていたのだろうか。不服そうに流奈が唇を尖らせて言ってくる。愛想笑いでも浮かべて誤魔化しておこう。


「この際だから教えといてあげる。私ってばめんどくさいの。嬉しいことも嬉しいと言えないし、ありがとうとも素直に言えない。そういう女の子なの。そのことを頭に入れておいてちょうだい」

「わ、分かった」


 ずっと「るーなちゃん」として流奈を見ていたから気付かなかっただけで、本来の流奈はちょっと面倒な女の子なのかもしれない。本人が言うくらいなのだから。


「それで、もう開けても大丈夫?」

「いいわよ」


 許可も得たことで浮安は玄関の扉を開けて流奈を招く。

 すると、音を聞いた陽花里が迎えにやって来た。


「いらっしゃ――可愛いっ!」


 そして、流奈を一目見て固まった。

 やっぱり、何も心配はいらなかったと浮安は少しだけ得意気になった。

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