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忘れ物

作者: 山谷麻也

 ◆ある日、突然

 あなたが歩いている道路に突然、穴が開いたら‥‥‥

 信じられないことが一月末、埼玉県八潮市の県道で起きた。ちょうどトラックが走行中であったため、不運にもドライバーが事故に巻き込まれてしまった。


 この事故を受け、日本中が

「明日は我が町でも大事故が!」

 という恐怖に襲われている。

「なに、あれは特異なケースさ」

 などと太平楽(たいへいらく)を決め込んでいる人は、この際、認識を改める必要がある。 


 ◆劣化しない素材はない

 何も、下水管だけのことを言っているのではない。下水管を含むコンクリート構造物全般を考えてのことである。


 コンクリは建物、道路や橋、ダム等々、建造物になくてはならないものとされてきた。当然ながら、寿命がある。劣化が避けられない。


 世界最古の木造建築物・法隆寺は、一三〇〇年以上前に建立された。片や、コンクリの耐用年数は長くてもせいぜい一〇〇年ほどに過ぎない。法隆寺から見れば、打ち上げ花火のようなものである。一瞬、輝いては消えていく。


 ◆歴史は繰り返す

 筆者の背筋が寒くなった事故が、一九九九年(平成一一)にも起きている。

 山陽新幹線福岡トンネルを走行中の「ひかり」を、剥落したコンクリート塊が直撃、人身事故には至らなかったが数十万人の乗客に影響を与えた。


 事故原因は種々指摘された。技術的なことは門外漢なのでさておき、トンネル建設当時、建設ラッシュだったことが挙げられた。業界は猫の手も借りたかったのだろう。


 この鉄道事故は、当然ながら、コンクリ建造物に対する社会的不安を広げた。二年後に筆者は教育問題に関連して、次のようなブログを書いた。


 ◆英才教育の行く末

(前略)新幹線がトンネルを通過するとき、壁が落ちてこないかと心配しなければならない「技術立国日本」。

 権力の中枢にいる人間の犯罪が起きても、それほどのニュースにならなくなった「先進国日本」。


 いくら英才教育をしても、事態は改善されないだろう。

 むしろ、ベクトルは逆だ。

 一人の天才を育てることに血眼(ちまなこ)になるより、千人の健全な職業人の育成に力を注ぐべきだ。(後略) 


 ◆ワァウ! 日本の技術

 健全な職業人は業界の暴走に歯止めをかけ、その連帯はひいては国をただす。


 仮に法隆寺の建立はもちろん点検・修復に、いい加減な宮大工が関わっていたとしたら、法隆寺はとっくに倒壊していたはずだ。

 二〇年ほど前の私の心配は杞憂(きゆう)ではなかったようだ。天こそ落ちてこないが、地が崩落した。


 国土交通省では二〇一七年度(平成二九)から「下水道技術海外実証事業」(WOW TO JAPANプロジェクト)を推進している。

 WOW TO JAPAN とは、Wonder Of Wastewater Technology Of JAPAN(驚くべき日本の下水道技術)の略らしい。数々の事故の教訓を十二分に生かすことなく、技術移転された途上国は、有難迷惑に違いない。

 どうやら、健全な職業人の不足は、民間だけの問題ではなさそうだ。

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