この世界で生きるということ
人間の本性も建前も何もかもが意味のなくなったあの日。僕の心はスッと軽くなったと同時にむなしさが押し寄せた。
誰もいないのに街はあの時のままで、未だ誰かの面影を残している。もう来ない電車を待ち続けて、生い茂った草を踏み均しながらホームに立つ。
何をしてるんだろうな。
誰もいないのは分かりきっている。なのにどうしてか、僕は駅のホームの向かい側にいる筈の君を待っている。
寂れた線路に足を伸ばして、最後の保存食を頬張る。
最後に告白くらいしておけば良かったな。
味のない乾パンに噎せそうになる。
駄目だ。
僕は溢れそうになりながら、パンを吐き出さないように上を向いた。
「……くっそなんで、空こんなに青いんだよ」
ぼやけて見えたこの世界はどこまでも、どこまでも綺麗で君の横顔を思い出しては飲み込んで僕はまた、歩き出した。