自転車通学(雨)
三題噺もどき―にひゃくななじゅうご。
「起きなさいよー」
「……」
頭に響く大声が、突然部屋に響く。
寝ていたからノックをしてくれとは言わないが……何も言わずに扉を開けて、いきなり「起きろ」とだけ言って、開けっ放しのままどこか行くのは辞めて欲しい……。
「起きた―?」
「……ん……」
まだ、二階にはいたのか……。
こちらの起床が確認できて満足したのか、階段を下りていく足音が聞こえた。
いやだから…扉を閉めてくれ。
「……」
しかし、時間を確認する限り、これ以上ここでぐだっている時間はなさそうだ。
言われた通りに起きることにしよう……。
なんでこんなに寝不足気味なんだろうなぁ、毎日毎日。たいして遅寝をしているつもりもないんだが……毎朝毎朝、やけに頭が重いのだ。
―今日は一段と思い。というか、痛い。
「……」
なにかと思えば、どうやら雨が降っているようだ。
窓ガラスと叩く音が幽かに聞こえてくる…どうりで頭が痛いわけだ。
たいして大粒の雨というわけでもなさそうだが……雨降ってるのかぁ。
「起きたのー!?」
「んーー」
痺れを切らした母が、一階から大声で叫んできた。
はい、起きます起きます。すいませんすいません。
「……」
頭痛とけだるさで重い体を引きずりながら、一階へと降りる準備をしていく。
正確には登校の準備だな。
机の横に置いてある通学鞄を引っ張り、中身の確認をする。
今日は……あぁこのままでいいのか。そういえば、何を思ったか昨日の夜のうちに準備を済ませておいたのだ。いつもしないくせに。
念の為、再度確認しておくが。
「……」
鞄を肩にかけ、今度はクローゼットへと手を伸ばす。
白や黒(というかほとんど黒)が並ぶ、クローゼットの中から制服を取り出す。
シャツ……は下においたままだったな。あれにアイロンかければいいか…。
よし。
「……」
寝ぼけたまま、足を引っかけたりしないように、ゆっくりと降りていく。
こういう時に変に調子に乗ると、余裕で足を滑らせる。何度かやらかした。
朝からそれは勘弁なので、慎重に降りていく。
「……」
階段から落ちたときの最悪な気分て、ものすごいんだ……。
一気にありとあらゆることが嫌になる。
経験したことないなら、一度やってみるといい。
尾骶骨あたりに走る鈍い痛みと、全部を投げ出したくなる気分が味わえる。
おススメだ。
「……」
「おはよー」
鞄をとりあえず、リビングにある机の下に置き。
制服を脱衣所にあるポールにかける。
とりあえず朝食を……。
「雨降ってるけど送れないから、自分で行ってねぇ」
「…ぁーい」
雨の中の自転車通学って、ホントに最悪なんだよなぁ。
合羽は蒸れるし。鞄は濡れるし。どうあがいても靴はなぜか濡れるし。視界なんか最悪だ。眼鏡かけているから、水滴が邪魔で邪魔で仕方ない。
「いってきまーす」
「ってらっさー」
今日は母は早出のようだ。
こちらが朝食を半分ほど食べ終わったあたりで、出ていった。
だからなんだか今日はいつもよりバタバタしていたのか……と、1人納得しながら黙々と堕べ進める。
私も少々急がなくては…。
雨だからというわけでもないが、いつもより早めに出ないといけない。
「……ちそうそさまでした」
軽く手を合わせて、皿を下げる。
洗うのは…もういいか。
どうせ今日は午前授業で早く帰ってくる。その時にでもいいだろ。
「……」
皿をシンクに置き、一応水につけて置く。
そのままの脚で洗面台に向かい、歯ブラシを手に取る。
チューブを押し出し、口に突っ込み、適当に磨いていく。
ついでに、水筒を鞄の中にいれ、制服のシャツのアイロンがけをする。
「…し…」
その他諸々を全て済ませ、制服に着替える。
紙はたいして時間をかける必要もないので、軽く整えるぐらい。
まぁ、どうせ、合羽を着てしまえば意味はないが。
「……」
テレビの電源を消し。
窓の鍵がかかっていることを確認。
電気も消し。
鞄を肩にかける。
「……」
玄関に置かれているか合羽と、大きなゴミ袋を手に取り準備をしていく。
その中に鞄を入れ、適当に口を縛り、濡れないようにしておく。
ついで、自分の身も濡れないように合羽を着ていく。
動きにくいったらありゃしない。
「……」
最後に玄関の電気を消し。
家の鍵と自転車の鍵を手に取る。
カバ……おも……。
袋に入れているせいで滑るし。
「……」
外に出ると思っていたより降っていた。
おやまぁ……「行かない」というわけにもいかないので、この雨の中で自転車を漕いでいくのだが。
はぁ……。
面倒だ……。
「……」
玄関のカギを回し、しっかりとかかったことを確認。
自転車の元へと向かうため、後ろを振り向くと、視界の端に傘が現れた。
「……?」
よくよく見ると、近所に住んでるおばさんだった。
犬の散歩をしているようだ。
こんな中でも大変だなぁ。
犬の方は濡れないように合羽みたいなものを着ているらしい。ああいうのって嫌がる子もいるらしいが、本人(本犬?)はなんだか、楽しそうだ。
連れているおばさんも、念の為か合羽を着てる、その上に傘をさしている。
……そこまでするなら、散歩は諦めたらいいのに。
とは思うが、まぁ、色々と事情があるのだろう。
「……」
あーマジで……。こういう時ぐらい休ませてほしい。
頭も痛いしだるいし自転車は漕ぎたくないし。
これで電車が止まってて、電車通学勢が自宅待機とかだったら、マジ許さん。
お題:散歩・カバン・雨