才能
地球では決してあり得ない魔法と言う不思議な現象を自分で発動した。
そのことにノアは暫く放心するが、魔法発動に伴いごっそりと魔力が抜けた感覚が襲ってきたこともあり、これは夢でも何でもなく、現実で起こったことだと認識する。
「これが……魔法!俺にも出来た!」
正しく認識出来たおかげで意識が正常に戻る。
魔法が使えたことで嬉しいのかノアの顔は勝手にニヤニヤとした表情を浮べていた。
更には、頭の中では自分の思い描いた魔法で敵をバタバタと打ち倒していく妄想を始めた。
(今は風魔法を使ったけど、やっぱり派手な火魔法とか使いたいな。それで邪魔な奴を焼き尽くしてみたり、可愛い女の子を助けたりして有名人になってみたり……)
中身は元日本人で厨二病を拗らせていた人なので、ノアに転生し3年の時が経っていたとしても、妄想癖は全く治っていなかった。
未だ自分で妄想の中にいるノアは傍からみれば、危ない人だろう。
外でしていたら、すぐに通報されてしまう位、緩み切った顔をしている。
しかし、そんな夢のように幸せな時間は1人の怒号によって現実に戻された。
「何の音だあぁぁぁああ!?」
その声を発した人物は場所が既に分かっているのか、何の迷いもなくノアの部屋に向かい、そしてドアを勢いよく開けた。
「ノア!無事か⁈」
出てきたのは腰に剣を帯びている男だった。
この男の名前はギアと言い、ノアのもう1人の親、父親だ。
歳はミラと同じく27歳で、茶色い髪と青色の目をしており、シワなどもなく若々しい顔をしている。
「何かあったのか?」
そんなギアは真剣な表情をしてノアに何が起こったのかを聞く。
「えっ、」
しかし、聞かれたノアはギアの勢いに驚き固まってしまっていた。
そんなノアを見てギアは何にかあったのかと周りを見る。
「むっ!凹んでる。これの音だったのか」
ギアの目の先には魔法で傷ついたドアに向いていた。
「っ!!」
そこでようやくノアは自分が何をしてしまったのかをはっきりと認識する。
(やばい、やばい、やばい!ドアを傷つけたこと言ったらめっちゃ怒るだろうな。それにこれを魔法でやった、なんて言ったら使うの禁止になるかもしれない)
一気に不安が押し寄せて自然と顔が俯いていく。
しかしギアはドアを見た時に一瞬驚いたが、同時にホッとした顔になった。
「ノア、身体は大丈夫か?何処か怪我をしてないか?」
「えっ!」
ノアはギアの言葉を聞いて驚いた。
ドアを壊した事を怒ると思っていたからだ。
しかし、ギアは怒るどころかノアに対して心配している。
その事に戸惑うが、ギアの言葉は更に続く。
「いや〜、ノアの部屋に泥棒が入ってきたのかと思ってビックリしたよ」
ギアはさっきまでの真剣な顔からにっこりとした笑顔で陽気に話す。
「大方、転んでドアにぶつかったんだろう?見たところ怪我も無いみたいだし、良かったよ」
ギアは安心しているが、ノアは内心ずっと驚いていた。
(えっ!あれ?怒ってない?もしかして魔法でやった事バレてないのか?……いや、そうだよ。冷静に考えてみると魔法はもう消えてるし、確認のしようがないよな)
その事にノアは気付き、一安心する。
(はぁ、何だよ。びびる必要無かったのかよ。じゃあ後は、話合わせとけば良いか)
「うん、あそんでたら、ころんでぶつかった」
「やっぱり、そうか。何処か痛いところとかあるか?」
「ううん、どこもいたくないよ。へいき」
ノアは子供の演技でその場を乗り切ろうとしていた。
そんな時、ドアからミラが部屋に入ってきてギアに事の結末を尋ねる。
「あなた、どうだったの?ノアは無事かしら?」
「あぁ、無事だよ。ただ単にぶつかって、ちょっと傷つけてしまっただけだよ」
「えぇ?!ノア、怪我したの?何処、打ったの?」
ミラは驚き、ノアの身体を隅々までチェックする。
しかし、何処と怪我らしきものは見当たらず、困惑する。
「うん?何処にも傷は無いわよ?」
「あ〜、すまん。言葉が足りなかったな。ノアじゃなくてドアが傷ついたんだ」
そうギアが訂正するとミラはさっきまでの焦った顔から安心した表情になる。
「あら、そうだったのね。無事で良かったわ」
そう言い、傷ついたと言うドアに視線を向けた。
そしてミラは何故か、眉間に皺を寄せて何かを考え込む。
そしてギアに質問した。
「あなた、ノアはドアにぶつかったって言ったのかしら?」
「えっ、あぁ。そう聞いたらうん、って言ってたよ」
ミラの唐突な質問に驚き、遅れて答える。
ギアは何故そんな事を聞くのか尋ねようとするが、ミラはそれよりも早く今度はノアに矛先を向ける。
「ノア、本当にドアにぶつかったの?転んで?」
「えっ……う、うん。そうだ――」
「嘘ね。じゃあ、何でドアに僅かな魔力が付いてるのかしら?」
ノアは演技しながら話を合わせようとするが、ミラの言葉に遮られ、その上嘘だと見破られる。
「「えっ?!」」
ノアとギアの疑問の声が重なる。
「本当なのか?」
ギアが思ったことをそのまま発言する。
「あなたは魔法使いじゃ無いから分からないだろうけど、確かにドアには魔法が使われた、もしくは魔法に当てられた形跡があるの。」
再度、ノアに身体を向け問い詰める。
「ノア、もしかしてあなたが魔法使ったのかしら?」
「は?何を言ってるんだよミラ。ノアはまだ3歳じゃないか。どう考えたらその結論になるんだ?」
ギアがすかさず反論する。
しかしミラは何も、適当に言ってる訳ではなかった。
「えぇ、そうね。確かにおかしい事言ってるわ。でもじゃあ、何でそこに魔法の本があるかしら?」
そう言ってミラは、床に置いてある一冊の本を人差し指で指す。
「っ!気が付かなかった。いやでも、ただ読んでただけかもしれんだろう」
「えぇその通りだわ」
一方、ギアとミラが話し合っている間、ノアは気が気ではなかった。
(魔力が付いてる?どう言う事だ?ミラは魔力が見えるのか?だとすると、言い訳が使えない。やばいぞ)
焦りながら、何かいい案がないか考える。
(う〜ん、もういっその事話すか?一か八か賭けて、いやでも魔法が禁止になるかもだし……)
「ノア、さっきから黙ってるけど質問に答えてくれるかしら?」
ミラはギアと話し合うよりもノアに直接聞いた方が早いと思い、もう一度問い詰める。
ギアもそれに文句はなく、ノアの方に顔を向けた。
(っ!やばい、ついに俺の方に来た!どうしよう。あ〜、なんかもう考えるの面倒くせぇな。ここは潔く諦めるか)
ノアは覚悟を決め、本当の事を話そうとする。
「ごめんなさい。ぼくがまほうつかってやりました」
「なっ!本当なのか?」
ギアは驚き、信じられないとでも言いそうな顔をした。
それはそうだろう、魔法を習得するのにはそれ相応の時間が掛かると言うのが常識だ。
それも魔法を使える素質があることが前提の話。
それだけでも、人口の半分程度の人数が減らされると言うのに更には3歳でもう既に魔法を発動させられるまでに至っている。
まさに魔法の天才。
それが自分の息子だと言うことが信じられるはずなかった。
ミラも同様に驚いているが、立ち直るのは早かった。
「ノア、疑うのは申し訳ないけど、本当に使えるの?」
自分が言ったことだが、常識から考えればそれはあり得ない。だから、ミラは確認する。
「なら、もう一度同じ魔法使ってみてくれる?」
「うん、いいよ。でもさっきので、まりょくがだいぶへったけど。それでもいいなら」
そう言い、今度はドアと逆の窓へ手を向けた。
そして同じように魔力を手に集め、呪文を唱える。
「舞い上がる風よ、我が手に集い、靡かせ〈プチウィンド〉」
手から魔力が風に変わり、魔法名を言い終えると前回ほどの威力は無いものの、初級魔法ではあり得ない、強い風が放たれた。
窓はしっかりと開いていてそのまま通り抜けていくが、それでもガタガタと音が鳴る。
魔法が使えることですら天才の域なのに魔力の量も普通ではない。
もしかしたら、ノアは魔法の神童かもしれない。
ミラとギアは、実際に発動している所を間近で見てそう思った。
ミラは半信半疑で、ギアに関してはあり得ないと否定していたが、これでは信じざるを得ない。
「ノアが魔法を……」
未だ驚いているギアが囁いた。
そして隣にいるミラはギア以上に驚いた表情をしている。
「どういうこと……?」
「どうしたんだ、ミラ?そんなに狼狽えて。ミラの予想通り、魔法使ったじゃないか。ノアには魔法の才能があるようだな」
ギアは何故驚いているのか分からず、素直な感想を言って自分の息子の素晴らしさを褒める。
しかし、ミラはその言葉を聞いて、より一層顔を強ばらせる。
「才能があるなんてものじゃないわ。さっきの魔法は初級魔法なのよ。本来、髪が揺れる程度の威力しか出ない魔法なのにノアは窓を揺らした。一体どれ程魔力を消費させたのか」
やや早口でノアの異常性を説明する。
言葉に出したお陰でミラは少し冷静さを取り戻した。
「……!そうだ!魔力を見てみれば」
ギアもノアも完全に、置いてけぼりにしてミラは早速、魔力を目に集中させた。
魔力が集まったことで薄い紫色の光が目を纏った。
そしてミラは視界をノアに移した。
見てみるとノアの周りにはモヤの様なものが覆っている。
これはノアが保有する魔力そのものだ。
本来、魔力は人間の目には見えないものだが、目に纏うことで魔力と同化し、魔力を持つものが見えるようになるのだ。
人によって覆う量には差があり、全く無い者もいるがノアには魔力が多くあり、ゆらゆらと輪郭を沿うように漂っていた。
「!?まだこんなに!いくら初級魔法とはいえ相当な威力の魔法を二発打ったはず。なのに……。それじゃあ、元の魔力はどれ程なのかしら?」
ノアを見つめながら手を顎に当て考える。
覆っている量で言えば、魔法をあまり使わないギアと同じだが、それは何十年と生きてきた大人だからだ。
それと同じ量の魔力を3年の時しか経っていない子供が持っている。
それに初級とは言え魔法を二発打った後でだ。
その事を驚かずにはいられないだろう。
もしかすると、万全な状態なら魔法使いである自分よりも魔力があるかもしれない、とミラは思い始めた。
一方、ミラが思考している間、ノアはずっと見つめられていた。
見られているだけで何もして来ないが、それでも居心地は悪く、ついには耐えきれず言葉を発した。
「えっと、ママは魔力が見えるの?」
何を言おうか考えていたが、今一番気になる事を聞いた。
「っ!えぇ、見えるわ。魔力を目に集めさえすれば魔法使いじゃ無くても見えるようになるのよ」
ミラは質問を聞かれたので一旦考えるのをやめたが、答えるとまた自分の世界へ戻って行った。
(ノアは間違いなく魔法の天才ね。その才能に応えられる程の魔力も十分にある。まるで魔法使いになる為に生まれたかのようだわ。これはしっかりと教育しないといけないわね。)
普通の3歳の子供なら健康に育っていればそれだけで親は安心し、満足するものだ。
言葉も徐々に覚え始め、行動範囲も広くなり、一番活発になる時期なので子が何をするのか楽しみになる。
ミラもギアもそう言った成長を期待していた。
しかし、自分の子がまさか魔法を発動させるなんて思いもしなかった。
当然だろう、魔法という単語を知っている者はいるだろうが、それを発動させる人などいるはずがない。
通常、魔法を習い始めるのは平均で6、7歳の頃だ。
その頃になると大半の行動は自分ででき、魔法に興味ある子がやり始める。
それが常識だが、自分の子には当てはまらない。
それを知ったミラは恐れた。
魔法は簡単に人を傷つける。殺める事も出来る。
攻撃力の無い初級ですらあの威力なのだ。
このまま放置して何か問題が起きてしまったら大変だ。
本来なら使うことを、禁止するべきなのだろう。
しかしミラはそれではせっかくの才能が勿体無いと思ってしまった。
だから、逆に魔法についてを教える。
魔法とはとても危険なものだと、それと同時にとても便利なものだという事を。
「ノア、明日から、私が魔法についてを教えてあげるわ」




