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魔王を目指して  作者: 骸骨
2/4

第2話 可能性の魔法

「gjfosob!!!cidiejfgkfkwjf!!!」


(ぅん?)


「kelvrnggks。rogekwgbslffg!」


(もう、うっさいな)


 突然の睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまった田中は何者かの声によって目を覚ました。


(ここ、何処だ?ていうか何か見えずらいな。全部ぼやけて見える)


「Didkfkekeged」


(さっきから何語、喋ってんだ?)


 疑問に思って、声がした方へ目を向けると何か人らしき物が2人映る。


(何だ?人か?いや、もしかしたら神様なのか?)


 目がぼやけるせいでそれが何なのか分からずにいる。


「ekfibo!!!!」


 不思議に思っていると、その2人が突然こちらに身体を向け、片方が田中を両手で持ち上げる。


(はぁ?!そんな軽々と人は持ち上がらんだろう!やっぱり、神様か?)


 田中はろくに働いておらず、家でダラダラして生きていたせいで、体重は100近くもある。

 そんな太っている人を簡単に持ち上げる事ができれば、そんな人を神と思うのも無理はないだろう。

 

 しかし実際はそうでは無い。

 あの時、田中は地球という星でトラックに轢かれ死に、何故かこの異世界に赤ちゃんとして生まれ変わった。

 

 つまりは、持ち上げれるくらい小さく、軽くなってしまったのである。


 そんな事をまだ知らなあ田中が、困惑するのは当然の結果だった。


 だがそんな戸惑っていることなど一切気にせず、田中を腕に抱えている母親はにっこりと笑顔を浮かべる。


「全くどういう状況か分からんが、まぁ成るようになるだろう。ていうか、…また眠くなって来た。……後の事はこの人達に任せよう……」


 そう言って田中は考える事を放棄し、瞼を閉じた。

 たとえ別の人物に転生したところで中身はそのままなので田中のサボり癖や他力本願な所は変わっていなかった。


 中身がこんな駄目人間である事を知らない両親は可愛い息子の寝た姿を見て更に笑顔になる。


「Godnigt、Noah」


 母親は完全に寝たのを確認したら、抱きかかえている赤子を優しく元のとこへ戻した。

  






 そして時は流れ、田中が生まれ変わってから3年が経った。


(まさか、転生したとはなぁ)


 この3年間で田中は自分がどういう状況に居るのかを理解した。


 最初の頃は赤子の目がまだ成長しておらず、視界全体がぼやけていたが、日に日にクリアになって来て2人が神様などでは無く人間である事を知った。


 それから、2人が田中をあやす様な行動をしたり、知らない言語で話していたり、手足だけではなく首やその他の体が動きずらい事、そして知らない木でできた、病院ではあり得ない素材を使った天井などを見て、田中は、日本では無い何処かに生まれ変わってしまったという事を認識したのだ。


 その時は驚きと困惑が頭の中をぐるぐると走り回っていたが、結局考えていても答えが出ない事に気づき、その状況を受け入れていた。


 そこからは特に、病気などに罹る事なく順調に育っていき、今ではこの世界の言語を理解できる様になり、最近は本を読むことができるくらい成長していた。


 この世界での田中の新たな名前はノア。

 日本ではあり得ない金色の髪になっており、目の色は薄い水色だ。外国人っぽい顔をしており、とても整っていた。

 

 そして、この世界の名前はアルセリア。 

 その中の人族が治める国の一つ、エルガルドという王国にいる。

 この世界は中世ヨーロッパに似た世界で王族、貴族、平民、奴隷の四つの階級があり、ノアは下から2番目の平民として生まれた。

 しかし、平民だからと言って生活が困難という訳でもなく、平民の中でも比較的裕福な家庭だった。


 苗字は貴族や王族だけが持っているので庶民であるノアやノアの両親は名前しかなく、名前が被っていると書類などで困るが、それ以外は特に何も無く、本で知ったノアも「へぇ〜」位しか反応がなかった。


 この3年間、両親の会話や本で色々なことが分かって最初の方は驚いていたが、すっかり環境に慣れ、今では赤ん坊ライフを満喫していた。

 

(たまに、ばぶぅばぶぅと泣き叫ばなければいけないのは恥ずかしいが、それ以外の事は勝手にやってくれるし楽で良いわ。それに、せっかくの第二の人生だ。後悔の無いように楽しもう!)


 最近、可動域が広がった腕を上げ、心の中で宣言をする。

 田中は前世に思い残す事が無いせいで、すっかり赤子に慣れていた。


 そんな事をしていると部屋のドアが開き、ヨーロッパ系の顔立ちをした田中の母親が入って来た。


「あら〜。まだ起きているの?ノア」


 この母親の名前はミラ。

 歳は27歳で、髪の色はノアと同じく金髪、そして目の色は綺麗なピンク色になっており、唯の平民とは思えない程、美しい顔をしている。

 

 そんな母親は少し呆れ顔をしたままノアのいるベッドに近づく。

 

「まま〜。ねむれない」


 ノアが未熟な言葉を発する。

 もちろんこの3年間で言葉を流暢に言えるようになったが、見た目がまだ3歳なのでそれに相応しい演技をしているのだ。


「もう、仕方ないわねぇ。じゃあ、本を読み聞かせてあげる」


「ほんと!やったー!」


 言葉は演技だが、本を読めることの喜びは嘘では無く本物だった。

 この部屋はノアが生まれる前は物置として使っていたのか棚には沢山の本がおいてあり、ノアは両親がいない隙を狙って読んでいるが、それでもまだ読めていない本が大半だった。

 なのでノアは新しいものを読めることに嬉しく思っていた。

 

「うん〜、どれにしようかな?」


 ミラは本棚に近付き、どんな物が寝かしつけに良いか物色する。


「あっ!これ良いわね」

  

 そう言い、持ってきた本のタイトルには「英雄カイロス」と書かれていた。


「じゃあ、読むね」


「うん!」


「遥か昔、カイロスという1人の冒険者がいました――、」

 

 英雄カイロスという本はこのエルガルド王国ではとても有名な英雄譚で、男女問わず子供の頃に聞かない人はいないと言われる程だ。

 内容はカイロスという冒険者がいつものように魔物を狩っていると突如、邪竜が現れ死闘を繰り広げるが最後は切り札の魔法剣を出し、無事に倒してすぐ近くにある街を救った、という物だ。

 

 本としては良くある英雄が活躍する内容だが、この物語が有名なのは理由がある。

 その理由はこの本は架空のものではなく事実を元に書かれた本なのである。

 今から約300年前の王国でその出来事が起こり、平民だったカイロスは功績を讃えられ貴族になり、カイロス・ルイスと名付けられた。

 今でもルイス家は存在しており、ゴリゴリの武闘派として活躍している。


「――カイロスは剣に火の魔法を纏わせ、邪竜を打ち倒しました。こうして街は平和になり、カイロスは英雄になったのです」


 物語が終わったところでパタンと本を閉じた。


 ノアは最初、子供に聞かせる様な本なのであまり盛り上がらなかったが、終盤で聞き捨てならない単語を聞いた。


(魔法……そうだよ!ここ異世界なんだから魔法があってもおかしくない!)


「まま!」


「うん?何?もしかしてノアも英雄に憧れる?」


「そんなことより、まほうってあるの?」


 中身が30のおっさんとは思えない位、キラキラした目で質問する。


「そんな事…えぇまぁ魔法あるわよ。私も少しだけなら出来るわよ」


 ミラは予想していた反応と違い、少し戸惑ったが直ぐに切り替え答える。


「本当!?見せて!見せて!」

  

 興奮のあまり3歳児の設定を忘れ、流暢に話してしまっていた。


「もう、仕方ないわね。じゃあ魔法見たら、寝なさいね」


 そう言い、ミラは手のひらを上に向けた。そして、


「聖なる光よ、我が手に集い、闇を照らせ〈ライト〉」


 呪文を唱えた瞬間、手の上に5センチ程の光る球体が現れた。

 その光は魔力という地球では存在しなかった未知のエネルギーから供給されており、使用者の魔力が尽きない限り永遠に存在し続ける。

 そんな光の球が部屋全体を照らしていた。


 魔法はこのアルセリアという世界ではそう珍しいものでは無く、常識の中にあるものだ。

 地球で言うところの豆電球が光った位ものだが、異世界の常識を知らず、逆に地球の常識に囚われていたノアはその魔法の光はとても幻想的な物に見えていた。


「おおぉぉぉお!これが、魔法……」


 口を大きく開け、驚きのあまり放心している。

 しかしそれは無理もない。


 ノアは、いや田中はずっと魔法に執着していた。

 魔法を使いたい、魔法で何かを成したい、ゲームのように魔法でモンスターを倒したい、そう言う子供なら一度は思う願望を大人になっても持ち続けていた。

 しかし、それが不可能である事を田中は理解していた。

 だから代わりにゲームで使っている気になったり、アニメや漫画を見て、妄想したりしていた。


 だが今目の前で起きた事は夢でも何でもなく現実だった。

 本物の魔法がこの世界にはあるのだ。

 つまりは、この世界に転生した田中はこれまで夢でしか無かった世界一の魔法使いというものになることができる。

 可能性が0から1に上がったのだ。


 それを理解した瞬間、今まで感じたことの無い喜びや幸福感が押し寄せてくる。

 あまりの嬉しさに目から涙をこぼしそうになる程だ。


(あぁ〜、綺麗。生まれて良かった。死んで良かった。転生がこんなにも良いものだと知らなかった)

 

 目をうるうるとさせてこれまでの出来事に心から感謝する。


(もし、俺も魔法が使えるなら……)


 ノアは希望を見いだす。


(それなら…向こうでは努力なんてしなかったけど、こっちでは頑張ろう、魔法を使える様にする為に。そしてゆくゆくは世界一の魔法使いに俺はなる!)


 興奮しているせいでおかしな決意をするが、そんなノアに水を差す者がいた。


「ほら、もう寝なさい。明日起きれなくなるわよ」


 ミラだった。

 軽く注意してから読み終えた本を元の棚に戻して、ノアの布団をあげる。


「は〜い!」


 そんなミラにノアは若干興奮が抑えきれていないのか、高い声で返事をしてから目を閉じる。

 それを確認したらミラは部屋から出て、ドアを閉めた。


 ドアが閉まった事で部屋は更に暗くなり、窓から見える月だけが唯一の明かりになっていた。

 それでも目が慣れていないと何も見えない程の暗い部屋の中でノアは目をぱっちりと開けた。


(余計に眠れなくなった。どうしよう、これじゃあ朝に起きれなくなる。明日は外に出掛ける予定があるのに)


 ノアは興奮のせいで本を読み聞かせる前よりも目が覚めてしまっていた。

 

 

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