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魔王を目指して  作者: 骸骨
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第一話 駄目人間

「あぁ〜、魔法使いてぇ〜」


 画面に映る敵を色鮮やかな魔法で打ち倒しながら、男はいつもの様に呟く。


「30歳、童貞は魔法が使えるようになるんじゃないのかよー」


 そう言いながらも淡々と敵を見つけては倒す、見つけては倒すという作業を繰り返していく。


 この男の名は田中太郎。

 深夜0時になりちょうど今、30歳を迎えた無職童貞。

 椅子に座りっぱなしのせいかお腹に肉がつき体型は太っており、働いていないので、もちろん実家暮らしで親の脛をかじって生きている。

 20代の頃は親からぐちぐち言われていたが、しばらくすると働く気が微塵も無い事に気付き最低限のこと以外は何も干渉しなくなった。

 そのせいで余計に駄目人間になってしまったのだ。

 

 そんな駄目人間は今日も机にある画面に向かってファンタジーゲームのデイリークエストを楽しむことなく機械の様に無表情でこなしていく。


「飽きた」


 しばらくすると、田中はコントローラーを投げ捨てた。

 電源を落とすのもだるかったようで、そのまま放置する。

 

「あぁ〜、何かいい事ないかな〜」


 生産性の無い願望を言いながら重い腰を上げて部屋を出た。

 隣にあるリビングに行き、何か食べ物がないか冷蔵庫を漁ろうとすると、


「あれぇ〜、何もない。昨日、全部食ったっけ?」


 昨日の事を思い出そうとするが何も出ず、食い物が無い事に落胆する。


「はぁ〜、仕方ない。コンビニで何か買ってくるか」


 めんどくさい事になり、さっきよりも足取りは重く遅いが、それでも空腹には逆らえず玄関に行き靴を履いて外へ出た。

 久しぶりの外だったので、ドアを開けた途端に日の光が田中の目に突き刺していた。


「うっ。くっそ、眩しいなぁ!」


 鬱陶しく手で日の光を遮るが、数秒経つと目も慣れてきたのか平気になっていく。


 嫌なことが連続で起き、田中は早速部屋に戻りたいと思うようになるが、お腹は正直にぐぅーぐぅーと鳴っており、嫌々歩く。

 幸い、コンビニは近くにある交差点を渡れば、すぐにあるので5分も掛からず到着できた。


 コンビニに入ったら何も迷うことなくカップ麺とジュースの売り場に行き、さっさと会計を済まして出た。


 行きと同じ道を辿り、交差点を渡ろうとするところでふと田中は思った。


(はぁ〜。何で俺は急いでんだろう?帰っても何もやる事ないのに。はぁ〜、何かいい事ないかな〜)


 いつもの口癖。

 いつもの悪い癖。

 

 自分は一切行動しないのに、何かが起きる事を期待している。

 この男は中身が腐っている。


 田中もその事は認識してはいるが、だからと言って何か行動する事は無い。


(俺の両親は可哀想だな。俺なんかを産んじまって。ほんと可哀想だ。)


 田中はいつもはしない自己嫌悪を今日は珍しくしていた。

 いつもはそんな事を考えないようにしていたのに。

 考えてしまったら自分が惨めである事を更に自覚してしまうから。


(はぁ〜、俺は何のために生きてんだろうか)


 そんな事を考えながら交差点を渡り終えようとしていると、急に横から車のクラクションが鳴り響いた。


 すぐに目を向けると、目の前に一台のトラックが田中の方へ走っていた。


「ぁっ!」


 すぐそこに自分の死が近づいている事に驚くが、今までこんな体験をした事が無いので喉から絞った小さな声しか発せれなかった。


 しかし、走っているトラックが急に止まれるはずも無く、そのまま衝突する。


 太っている田中でも所詮は人。

 走行中のトラックにぶつかれば良くて怪我、最悪死ぬ事もある。

 

 そして田中は軽く吹っ飛ばされて地面との打ち所が悪かったのか頭から大量の血が流れていた。


 更にはぶつかった際にかなりの鈍い音がしたので、周りの人達も気付き辺りはパニックになる。

 喚き出す奴や好奇心からスマホで撮影する奴、事の重大性を知り救急車を呼ぼうとする奴、その他の様々な人がキャーキャー、キャーキャーとうるさくしていた。


(痛え…うるせえ…何か寒い…俺、死ぬのか?……あぁそうか死ぬのか)


 言うことの聞かない体を認識し、自分は助からないことを悟った。


(あぁ、これでようやく両親の負担が一気に減るな)

  

 今までずっとそれが心の何処かにあった。

 両親に対しての申し訳なさが。


 だが今からはもう心配しなくていい。

 なぜなら原因の存在が直ぐに亡くなるから。


(トラックに敷かれて死ぬとか、まんま異世界物じゃねぇか……もし、転生したら魔法使ってみてぇな。……そして世界一の魔法使いに俺は……な…――)


 馬鹿馬鹿しい願望を最後まで思う前に息絶えてしまった。


 それから数分後に救急車が到着するが、すでに手遅れの状態にあった。周りで騒いでいた奴らも興味が無くなったのかいつもの日常に戻って行く。


 こうして、今日1人の男が死にその男の願望は潰えた、

 はずだった。


 

 








(俺は社会に何も貢献していないし、天国には行けないな。かといって犯罪を犯しているわけでもないから地獄では無いだろう。そもそも死後の世界ってほんとに有るんだろうか?)


 人間なら誰しもが考えた事のある誰も答えに辿り着けない問題。

 もし死後の世界があってもそれを証明することは出来ない。何故なら死人に口は開かないから。

 

 そんな難題を大して頭がいいわけでも無い人が考える。


(というか、あれ?何で俺こんな考える事が出来てるんだ?まだ生きてるのか?)


 不思議に思う。


(いやっ。あれは確実に死んだはずだ。何というか、もう助からないのが身体で理解した。それに救急車も来なかったし、あそこから助かることは無いだろう)


 田中は謎の根拠で生きているという可能性を捨てた。

 そしてそれは正解だった。あの時、確実な田中は死んだ。

 

 ではなぜ今思考する事ができるのか?


(これが死後の世界か……何にもないし暗いしもしかして一生このまま?)


 五億年ボタンのような事が起こり、恐怖する所だが、何故か田中は平然としていた。


(確かに退屈だが何かここ、安心するっていうか、なんだろうここが俺のいるべき場所のような感じがする)


 そんな事に困惑していると、突然何かに押し出される様な感覚になる。


(なんだ?何が起こっているんだ?)


 もがこうとするが、手足が上手く動かず、すぐに何かに引っ張られる。


(何なんだよ?ぐっ!負けるもんか!)


 ジタバタして抵抗するがあちら側の力の方が強く、結局されるがままになった。


(くっそ!急に仕掛けてきやがって。会ったら文句言ってやる!)


 そんな事を考えていると光が見えてきて、段々と大きくなっていく。

 そしてついに光が全体に照らされると、


「くそっ!勝手に人を引っ張るじゃねえぇぇぇ!てか何か痛えぇな。ぐっ…くそ!ぼやけて…見えねぇ。それに何か……めっちゃ…寝みぃ……――」


(何か、人っぽかったな。…あれは神様なのか?…まぁいいや、…寝ょぅ……)


 

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