黄金郷エルドラド
ある日、こんなことがあった。
「シロ。外に行きましょう。」
10歳の春。いきなり、ヘイがそう言った。
訝しげな顔で
「外?」
と聞き返す。
「ピクニックですよ。
黄金の獅子に会いに行きます。」
「にゃんにゃん?!」
私の頬はきっと赤くなっているだろう。
鼻息が荒くなり。右手に猫じゃらし、左手にヘビのオモチャを握る。
準備万端いざ行こう。もう待ちきれない。
「神の獣の眠る地で、再びあの雄叫びを耳にする。黄金よ、約束を今果たそう」
【移動魔法・約束の地が発動しました。跳躍。黄金郷エルドラドに移動しました。】
黄金の稲穂が揺れる大地。
赤い牛頭が手入れをする。
葉っぱが黄色な巨大な森林。黄金林檎が実る巨大な一本樹。
「目がチカチカするよ。ヘイ。」
「着きました、目的地に。」
ヘイは、笑顔でそう言った。
すぐ前に誰かが居た。彼女が話しかけて来た。
「あら。お子さまを連れたナニかでありんすね。」
「貴女もお子さまじゃない。」
「わっちはレディでありんすよ?」
背丈は同じだった。
「すまないね。お嬢さん。」
自称、淑女の後ろから声が掛かる。
四足の獣。黄金の鬣を持つ獅子。百獣の王者が居た。
「にゃんにゃんじゃない」
シロは項垂れて言った。
王者の目が細まり、風が吹いた。
【王者の威圧・神威の影響を受けました。】
「動けない…」
シロは呟いた。
王者は、フッと息を吹きかけた。
【王者は、神風が発動しました。】
渦巻く風が嵐となる。
「全てを吸い込む理外の力よ、ここに顕現せよ」
【ヘイは、黒穴が発動しました。】
超重力場の穴が嵐を吸い込む。
「無礼をお詫びいたします。王者よ」
「ヘイ」
「王者よ、どうかシロには、手出しむ…」
「うるさいでありんすえ」
レディが言うと地面が光った。
【神祖の領域・代行、鳴神】
雷がヘイを打つ。一瞬の内に襤褸のように成った。
が、ヘイの体が黒く輝く
【根源たる者、修復】
ヘイは、傷はおろか服の綻びさえない姿で立ち上がった。
「シロの友を探しに、来ただけなんですがね」
「友とな?笑わせる。
ボッチが!
一人空を彷徨う亡者が!
我が黄金を盗みに来たか!」
王者が吠える。その余波で大地が軋む。
「お父様良いではありんせんか。
私も欲しいと思っていた所でありんすから。」
ヘイが安堵仕掛けた所、彼女は続けて言い放った。
「従順なペットが!!」
彼女は、獣人だった。九本の尾持つ狐人。
九尾の尾が変革する。
炎尾、氷尾、雷尾、風尾、幸尾、命尾、定尾、土尾、言尾。
そこに、呪本目、炎尾と氷尾の間で水尾が顕現する。
風尾の中から空尾が伸び、土尾から木尾が萌ゆる。これで十二本。術式が展開された。
「盛者必衰の理」
全てが朽ち果てる。
「その前に倒す!」
~私の躰は光と成りて~
私の身体は、粒子と成り光の速度に近づいた。
そこから尻尾を狙い連打、連打、連打。
無事な尻尾は無く、尻尾の数も9本に戻っている。
尻尾以外は無傷である。
「私はペットでない器であることは分かったかしら?」
狐人の子供は言う。
「ええ、想像以上の力を示してくれたでありんす。
これで対等以下は、あり得ないでありんす。」
「友達になって」
「そんなことで良いのでありんすか?
望めば、貴女樣の下に着くことも辞さないでありんすえ」
「友達がいいの」
私は照れながら言った。
「なら、遊ぶでありんす。友とは、そういうものでありんす」
「うん!」
私は、満面の笑みでそう言った。