シロ十歳
ある日、ヘイが私に
「十歳の誕生日おめでとうございます!」
と突然言った。
目をまん丸にする私。
それもそうだろう歳なんて、適当に数えていたし、本当の年齢も知らない。
ましてや、誕生日なのも。
丁度新年が私の誕生日らしい。
「これで正式に十歳。呪いや病に抵抗が付く年齢になりました。
これから積極的に外の世界へ行けるようになります」
その言葉を聞いた私は、何とも言えない気持ちになった。
だが、いつでもヘイと居られるなら悪くないと思ってしまった自分もいる。
そんなことを考えているとヘイが爆弾発言してきた。
「これから私は、貴女様の従者となります。シロお嬢様」
イマナンテ?
「ルドルクス王家の最後の落胤。王には、もはや子を残す力がない。貴女様が最後の希望なのです」
頭が追い付かない。
それでも!
「私は、孤児よ!なんで大層な身分、それも一番上のヤツらの血が入っているのオカシイじゃない?!」
「それは、王が侍女に手を出したからです」
「は?」
「王家に穢れた血はいらぬと、妊娠した侍女を金を渡し放逐したのです」
「私の母親は、どうなったの?」
手を固く握りながら言った。
「どうやら、貴女様が四歳になる前には、病で…」
固く握った拳は、少し開いた。
「ヘイ、貴女は何者?」
涙がこぼれそうになりながらも、ヘイを見た。
「この国の騎士です」
「この四年間は何だったの?」
「貴女様をお守りす…」
「尊称も言葉遣いも止めて!!!」
私の声が張り裂けた。
「私にとってヘイはヘイ。私は私。それ以外の何物でもないわ!」
ヘイは笑い出した。
私はカッとなる。
「何が可笑しいの!!」
「保険をかけておいて正解だったよ、シロ」
いきなり砕けたいつもの口調に面を食らう。
「誰にもシロの存在は知られていない。
それにこの国は腐っている。革命も近い。民による政治が始まる」
理解が追い付かない。
「つまり、人身御供になる必要はありません。」
安心してください。そうヘイは言った。
「国が変わり、王族は必要ない。
シロも私を選んでくれた。少し引っ掛けをしましたがね」
それを聞き恥ずかしくなりながらも、聞かずにはいられなかった。
「ヘイは私が好き?愛してる?」
「ええ。心の底からお慕い申しております」
即答だった。でも、
「いつも通りでね?」
「愛してるよ、シロ、家族として」
そこは、一人の女性としてじゃないのかしら。まあ、
「許してあげる」
「何を?」
「全部」
満面の笑みで私は、彼に抱き着いた。
ずっと目線を合わせるために跪いていたヘイの肩に顎をのせた。
それから暫くそのままの体勢でいた。私から離れると、ヘイは何かのポーズを取った。
後でこれが臣下の礼だと知る。
「私は、貴女の剣、貴女の盾。いかなる障害をも打ち砕き。この身朽ち果てる迄守り通すと誓います」
ヘイは微笑ながら私に促す。私は言われた通りに許すと言った。
その後、誕生会を二人で楽しんだ。