シロの成長
六歳でヘイに拾われた時、私に名前をくれた。
『シロ』と言う名前だ。あまり聞きなれない言葉で戸惑った。
どのような意味で付けたか聞いた。
「清廉で綺麗でありますように付けました」
その言葉は、難しくて分からなかったので、聞き直す。
嘘の吐かない、真っすぐな子になって欲しいと言われた。
簡単だった、拾われる前からしてきたことだ。
言いたくないことは、言わなくても良いですよ?とヘイに言われたが、隠すような生き方はしていないつもりだ。残飯をあさり、泥水を啜ってでも生きたことは、当たり前なのだから。生きるのに必死だった。
今までのことを全て話したら、そっと頭を撫でられた。
「やはり、貴女だ」
その言葉の意味は、理解出来なかったが髪を梳く様に撫でられるのは気持ちが良かった。
それから二年、ヘイと共に過ごした。
ヘイの後ろをついてまわって、仕事の合間にヘイに遊んで貰うのが好きだ。
小さな石造りの家で、私はヘイと二人で暮らしている。そう頻ぱんではないけれど、来客も何人かいる。
そのときは、ヘイは何処かへ行き、代わりにお客さまのはずの人が、シロの面倒を見て貰っている。
ヘイが何をしているのか知らないし、聞いても教えてくれない。ヘイの態度を見るに言いたくない感じで、シロが子供だからだと思う。
おじさんやおねーさんが言うには、ヘイしかできないことをお願いしているらしい。
それを聞くと誇らしく思う。けど危ないことをしてはいないか心配になる。
早く大人になって、ヘイの口から白状させるつもりだ。
決意表明をしたものの、シロは今6歳。長い道のりだ。
現場していることといえば、本を読んで知識を溜め込むことが精一杯だ。
魔法の勉強もしたいが、10歳になるまで禁止されている。
曰く、魔素を生産し、制御する器官がその頃にある程度の成長をとげるなのだと。
小さいときに、魔法を行使すると、魔力器官とも言うべき臓器にダメージを負うそうな。
最悪死ぬ、良くて魔法が使えなくなる。
だから我慢するしかない。知識は、あさるけどね。
今いるのは、シロの寝室である。
昼食を済ませ、ヘイが週に一度の買い物に出かけているので、読書している。
本の題名は、「ゴブリンでも分かる魔法の初歩」である。
長々と書いてあるので、端的に説明すると、魔法は、魔素を魔力器官で作るか空気中のものを利用して発動する。
その際に、イメージが大切らしく、出来てないと魔素を無駄に使うし、効果も下がる。逆に、イメージが鮮明だと効率が上がる。低コストで素早く発動するのだ。
実際に、火を見たり、水に触れたりすると、イメージを強固にすることができ、スムーズに発動できると書いてあった。
火は、…だめだな。ヘイに怒られる。水なら安全だろう。
早速、部屋を出て、調理室と居間が一緒になった部屋に行く。ヘイの寝室でもある。
ヘイは、ハンモックで寝るのが好きなので、あまり場所を取らないし、起きたあとは片付けている。ヘイの私物は少なく、服を入れる棚があるくらいだ。
そんな部屋の調理場に置いてある甕から、水をコップで掬う。
飲んだり、見つめたり、手にかけたりしてみる。
そして、我に帰ってみると、やはり寂しいと感じられる。
ヘイのいない部屋は、広くて、やや暗い感じがする。
早く帰って来て欲しくて、どうしても落ち着かない。
もしかしたら、事故に遭ってるんじゃないかと不安になる。
一緒について行きたいけど、まだ駄目であると言われている。
自衛のできる10歳まで、外に連れ出さないとヘイから言われている。
ここで一人で居るのも危ないのじゃないか、と聞くと問題はないとのこと。
理由は、秘密と言っていた。10歳になれば分かるとも。
なんとなく予想はできるから、一人のときは、家から出ない。何処までが、安全地帯か分からないからだ。
と長々と考えていたら、玄関の開いた音がした。
「ただいま。シロ」
とヘイが言うと、
「おかえりなさい。ヘイ。
今日の夕餉は、何かな?」
今日も今日とて、平凡で変わらない日を過ごす。
それが、幸せなことだとヘイは、言うだろう。