15話 勇者との手合わせ
話を聞くと、あの町のあった国は滅んでいて今はもう違う国となっているらしい
差別の酷い国だったし、敵を作りすぎたんだなと
それに伴って差別意識も薄まり、今ではエルフの里も普通に他の街と交流しているという
それを契機に里を出て重蔵の行方を探し始めたけど、本当に会えるとは思っていなかったので会った時に感情を抑えられなかったと
などと、また隣に座り朝食を取りながら話すユリ
やっぱり隣はおかしくない?
朝食を終えて部屋へ向かうと
「ユリ、冒険を再開しようと思うんだけどいつからがいいかい?」
勇者が話しかけてきた
するとユリは
「ごめんなさい、パーティーは抜けるわ」
「目的は達成したし、これからは重蔵とパートナー組むから」
他のパーティーメンバーは、だろうなっと気づいていたが勇者だけビックリしていた
いや、気づくだろっとメンバーも呆れ顔だった
そのまま部屋へ戻ると
「重蔵は今は何をしてどこに住んでいるの?」
重蔵がこの帝都に現れたのはつい最近
1ヶ月前くらいだろうか
例によって10年前のあの時からの記憶はない
ここは帝都ということもあり孤児院などの施設も充実しているから孤児の姿も見ないし
おにぎりもあるから食事の心配もないしで毎日ボーッとしていた
「とにかくフリーなのね、良かった」
「じゃあ一緒に住む家を買うためにパートナー組んで冒険しましょう」
もうすっかり奥さん気分であったユリだったが、重蔵は相変わらず親子だと思っていた
あのキスも挨拶代わりなのだろう
ふれんちきす、というのかな?
まずは冒険者ギルドへ向かう
ギルドカードは持っていたので帝都のギルドにも登録をした
「Bランクとはすごいですね」
「えっと最後が10年前で…あのテスタの町ですか!」
今はもう放棄されて魔物たちの住処になってるらしいの
「復帰されたんですねぇ、頑張って下さい」
「それで、パートナーが…」
「私よ」
「あれ?ユリさん?勇者パーティーのほうは」
「抜けてこの人とパートナーを組むことにしたの」
あまり詮索すると怖いからか淡々と手続きを進める受付さん
以前のユリはどんなじゃったんかの
「はい、登録は完了です」
さて何をするか、久々だから軽いものがええかの
ちなみにユリはAランクだ
お互い実力を知らないので多少危険な狩りでもいいのかも
「失礼だが、私と手合わせ願えないだろうか」
まーた勇者が絡んできた、諦めきれないのだろう
それはわかる
こんなに綺麗な女性をみすみす逃すのはもったいないと思うのも仕方のないことだ
「わしはかまわんが…」
チラッとお隣の機嫌を伺うと、そこには鬼がいた
鬼だ、この顔は鬼の顔だ
「突然パーティーを抜けたのは悪かったと思うけどなんで重蔵なのよ!」
勇者は堂々と
「君が好きだからだよ、僕の強さを見せつけ君に振り向いてほしいからさ」
うーん、やはりオツムが残念じゃの
Sランクの勇者がBランクのわしに勝っても振り向かんと思うが
「話にならないわ、行きましょう重蔵」
こういった輩はいつまでも絡んでくるからのぉ
ましてや惚れた女を諦めないとなるとストーカーと化したりすると危険な目に合う可能性もあるし
しかし、イケメンじゃの
勇者といえば実力もあるし、稼ぎも十分
オツムが弱いのを除けば申し分ないんじゃが
「ユリや、あの青年に気はないのかの?」
「顔もいいし、強くて経済力もあるし申し分ないと思うんじゃが」
すると強い口調で
「私は重蔵がいればいいの!重蔵しか見えないし重蔵がいいの!」
おや?重度のファザコン?
「あんな優良物件は滅多にないぞい…」
「重蔵は私があんなアンポンタンと付き合っても平気なの!」
「親としては安心かのぉって…」
ハァっとユリはため息をつく
「私は重蔵を愛してるの、親としてじゃなく恋愛として」
「そして重蔵とは血はつながってない」
「年齢差にしても重蔵あれから歳を取ってないし、こう見えて私ももうすぐ40歳よ」
「それとも重蔵は私のこと嫌い?」
泣き顔になってしまったので、頭を抱き寄せ愛してると伝えると抱きついて泣き出してしまった
こんなチンチクリンのどこがええのかの
そんなやり取りをしていても、勇者のポンコツぶりは変わらなかった
「さあ、重蔵さん是非手合わせを」
周りの人たちも
「空気読めよ」
そんな感じだった
ユリも泣き止み、キッと勇者を睨みつけたがそれを制止して
「男なら言葉でなく剣で語ることもあるじゃろて、それなのかの」
「重蔵格好いい〜」
ユリが褒めるので急に恥ずかしくなってきた
「ちょっと離れなさい」
スリスリしながら抱きついているユリを引き離そうとする
本当に力が強いな
「とりあえず手合わせということだからスキルはなしにしようかの」
「スキルでは手加減間違って大怪我をするかもしれんし、単純に剣術のみでいいかの?」
「はい、それで結構です」
場所をギルドにある広場に決め移動する
「重蔵頑張って!」
やっぱり応援されると気分がいいの
「さて、いつでも結構じゃよ」
勇者と謎の剣士の手合わせということでギャラリーがたくさんいた
ギルドの職員たちも窓越しに見物している
はっきり言ってこの世界の剣術は未熟だ
スキル頼みというのもあるし、剣術に至っては力任せに叩き斬るといった感じ
重蔵は居合の型で待ち受ける
さすがというべきか勇者は間合いには入ってこない?
入ってこれないと言うべきか、半身の体勢の重蔵の刀が見えない
とにかく抜刀しない型など見たこともないので攻めあぐねているようだ
そして勇者が瞬きをした瞬間に一撃を繰り出す
一瞬ビクっと反応した勇者ではあったが、その手に剣はなく宙を舞い数メートル先の地面に突き刺さった
一斉に周りから歓声と拍手が鳴り響くと
同時にユリが抱きついて、口を近づけてきたので必死に抵抗した
すごい力だ腕がプルプルする