12話 シンガリ
別れを済ませると急いで門へ向かう
避難は町の衛兵たちに任せて、とにかく門の外の状況を知りたい
壁を登ると愕然とした
「なんでこんなにいるのじゃ?」
一面魔物で埋め尽くされどうにかなるような状況ではなかった
ただ、数がいすぎて動きが取れない様子で、これといった攻撃はないようだ
その上からとりあえず矢や魔法を撃ってるといった感じで、姫さんもいた
「姫さん何をしとるんじゃ!早く避難しなされ!」
「王族として、民を見捨てて逃げたとあっては死んでも死にきれないわ」
「あなたも王族ではないけれど気持ちは同じでしょ?」
ニヤっと意地悪そうに言い放ったが
「そうじゃな」
ニヤっと笑い返した
しかし、なんで急に増えたんじゃろ?
姫さんに聞いてみる
こういうことが他の国でもたまにあるという
この世界には超大国というものが存在しない
その前に必ずこういったことが起こるので、どこも中規模な国家で行き詰まる、しかし何故か中規模な国家だとこういうことはほとんど起きないという
この国も他の国家からすると大きい方で、最近でも順調に成長している時にこれだ
かつて勇者と呼ばれる者が現れ、魔物を狩り尽くし国を起こしたことがあったそうだ
次々と周りを吸収し、勇者を王とした超大国があったらしいのだが
ある日1日でその国は滅んだそうだ
王都に至っては、人や物が一切消え去り何が起こったかもわからない状態だったと
神の逆鱗に触れた神の所業であると伝えられてはいるが真相はわからないし、今回のこれがそれにつながってるのかはわからない
とりあえず目の前のことをどうするかじゃの
避難はまだまだ時間がかかる、馬車の数が圧倒的に足りないから当然徒歩であるため町を出たからと言って解決にはならない
追いつかれたらお終いだし、不眠不休というわけにもいかない
とにかく時間を稼ぐ必要がある
魔物の数が増えてきて余計身動きできないでいるのは助かる
ちょっと間抜けに見えるが
しばらくは大丈夫そうなので町の様子を見てくる
まだまだ避難する人でごった返している中、自分の店と心中するだの、諦めて酒を飲んでヤケになってる者だのトラブルは多い
火事場泥棒もいるだろうから見廻りも兼ねて町を廻ってみることにした
そうしていると孤児院が見えてきた
なんともなしに足が向いてしまったようだ
中を覗くと静かな空間が広がっていた
いつもなら絶えず子供たちの声で賑わっていたのに今は嘘のようだ
「みんな無事に着いておくれ」
「そして、立派な大人にの」
心の中で願いつつ、大浴場へ向かう
すっかり湯も冷めているが最後に入ることにした
身を清め、綺麗な肌着に着替えた
「これでいつでも…」
大分避難も済んだのか人がまばらになっていた
姫さんはまだ壁の上だ
「そろそろ姫さんも避難したほうええんじゃないかの」
周りの護衛さんも気が気でないようだ
「先程と同じで私が避難するのは最後よ」
その心意気や立派
そして避難が終わる頃に遠くから巨人が歩いてくるのが確認できた
「これまでね撤退するわ」
最後の馬車がある所まで走る
すでに巨人は門に到達したのか、壊そうと叩いてる音が響いている
ドスン、ガンガン
もういつ突破されてもおかしくない
町の外で待つ馬車に一斉に乗り込むと合図もなしに出発する
「ちょっと、まだ重蔵が乗ってないわよ」
「ちょっと聞いてるの!止めなさい!」
「聞こえてるんでしょ!何してるのまだ乗ってないって言ってるでしょ!」
「ちょっと!あ…」
手綱を握る兵士が泣いていた
他の兵士を見ると同じく泣いていた
馬車は全速力で走る
バッと振り返ると重蔵が手を振っていた
「ウソ…」
そして町に入りそのまま門を閉めた
姫が最後まで残ってるのは誤算だったが
少しでも時間を稼ぎ、確実に逃がすために残る決意を初めからしていたのだ
「なんでぇ、どうしてぇ…」
普通の少女のような声で泣き伏せるサラ
そのまま動かずにずっと泣いていた
小さくつぶやいた
「お願いよ、生きていて重蔵」
だが無情にも町の放棄が決定
重蔵が戻ってくることはなかった