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第13話 平常心

 ついに、14日だ。ブリアン様達が領都に向かって出発し、魔物の襲撃を受ける日。


 町長さんや冒険者ギルドマスターと対策会議を行ったけど、彼らはクロード君にあまり期待していないようで「伯爵様に救援要請を」とか、「町を放棄して他の場所で受け入れてもらえるようにしてもらえないか」とか、そんなお願いばかりだった。

 偵察の結果を知ったのだから、無理もない。手紙を書いてくれれば、アンナさんに届けてもらう、とクロード君が伝えると用は済んだとばかりに帰っていった。

 威圧に対抗できそうな人材も見つからないままだ。こちらは兄ちゃんとヘーゼルさんが無事精神防壁(マインドウォール)の魔法を覚えたから、魔法で何とかすることも考慮に入れる。


 ギーラ達の両親によるクロード君暗殺未遂事件の後も、別の暗殺者が来たけど、もちろん、失敗に終わった。

 クロード君の第六感に、僕の先見の明、さらにプリシラの感知術まであるなかで暗殺を成功させるのは至難の技だ。公館に入った瞬間に見つかって、部屋までたどり着けず、クロード君に「こんなことしてちゃ、メーよ?」とお説教されて帰っていった。ギーラ達の両親が侵入できたのは、気配遮断っていう技能系スキルを持ってたからみたいだ。



 クロード君は、ギーラ達一家にアンナさんの護衛を命じた。

 第六感が何か起こると告げているのか、あるいは、子供を死なせたくないと言った2人の言葉に思うところがあったのか。


 どちらにせよ、好都合だ。魔物の襲撃を知るギーラとプリシラがついているなら、一行に被害が及ぶのを抑えやすい。


 ギーラ達には両親による暗殺未遂のことは伏せ、クロード君が町で見つけて臨時守護騎士に任命したと説明した。暗殺が成功したふりをしてもらうから、ご両親は制服を着ない。そもそも、合うサイズがなかった。母親の方は着れるかと思ったけど、丈はともかく、胸のところが入らないそうだ。


 クロード君がすっぽり入れる大きさの袋にプリシラに入ってもらい、父親が抱えて馬車に乗り込めば、クロード君の死体を運んでいると勝手に思ってくれるだろう。


 ブリアン様にはクロード君は今朝死んだと報告を入れておいてもらえば、出発時に姿を現さなくても不思議には思われないだろう。

 念のため、クロード君に僕のローブを着せて、フードで顔を隠してもらい、町の外壁の上、最西端から約100名のブリアン様一行を見守る。



 日が上ると同時に準備を始めた一団は、1時間ほどかけて挨拶や荷物の詰め込みを終え、西へと出発した。


「まるるく、かてりゅよね? まち、まもれりゅよね? にげりゅの、せいかい、ちやうよね?」

 去っていく一行を眺めながら、クロード君が珍しく弱気なことを言い出す。

 町長さんにも冒険者ギルドマスターにも勝ち目はないと言われ、全員逃げるのが正解なのかもしれないと思い始めているようだ。


「大丈夫ですよ」

「俺達にケンカを売ったこと、魔物達に後悔させてやるから、安心してみてろ」

 僕と兄ちゃんで自信たっぷりに答える。

 そういえば、僕達は勝てない可能性は考えていなかった。だって、先見の明で死者ゼロで切り抜けられる未来もありうると知っている。

 それに、そもそも逃げられないことも知っている。


「フェン、マルドゥク。もういいんじゃないのか? 無事出発したようだ。きっと増援を送ってくれるだろう。クロード様も公館に帰りましょう」

 一緒に来てもらった父さんが帰りを促す。

「――まだ。あんにゃが、みえなくなりゅまで」

 アンナさんは白馬と黒馬の2頭立てで御者を婚約者さんが務めている馬車に乗っている。あの馬車が見えなくなるまではここにいるつもりらしい。

『父さん、この後魔物が出てくるから、まだ帰れないんだ。言ってなくてごめん』

 帰ることになると困るから、遅ればせながら父さんに伝えておく。


「なっ」

 父さんは、びっくりして目をむいている。つい、言葉に出してしまったみたいだ。

 クロード君が何か起こったのかと思って、氷晶鏡(レンズ)で周囲を見回す。


「みのたうりょしゅ! いる!」

 僕達もクロード君の指さす方を見る。わらわらと牛頭鬼(ミノタウロス)を主力とした魔物の1群が森から出てきて、馬車の通路を塞ぐように素早く展開していく!


『準備完了だ。いつでも撃てるぞ』

 ヘーゼルさん、準備はやっ! 既に、僕の周囲には数えきれないほどの氷塊が浮かんでスタンバイしている。

「おい、クロード。発射許可を。あの辺なら、射程範囲内だ」

 兄ちゃんも即座に火球を準備した。


「今、敵が展開している場所のさらに西にも魔物がいるようです。早く引き返させないと!」

 目を見開きながらも、大きくうなずく。

「はっちゃ! どぉーん!」


 兄ちゃんの火球が枝分かれし、魔物の群れに向かって飛んで行く。敵の近くでさらに分かれ、百近くの火球となって降り注ぐ。

 ヘーゼルさんも氷塊を飛ばす。兄ちゃんの暴走事件の時以上の数だ。合わせて五百くらいかな?


『ふっ。フェン、私の勝ちだな』

『っ。くだんねー。勝負してるわけじゃねえぞ』

 勝ち誇るヘーゼルさんに言い返しながらも、どこか悔しそうな兄ちゃん。


「まるるく、けるたん。あんにゃと、にーたんたち、たしゅけりゅの!」

 最も緊張感を持って臨んでいる最年少のクロード君。


「御意! 父さん、クロード様の警護をお願い!」

「おい、待てっ! マチルド達に援護を頼みに行くから――」

 返事は聞かずに、兄ちゃんをおぶって壁の上から飛ぶ。同時にラプに意思伝達を飛ばす。タラリアで飛んで行ってもいいけど、体力は温存したいし、素早い撤退にラプは役立つ。

 門から走り出たラプに飛び乗り、騎竜術を使って全速で走らせる。


 移動中も兄ちゃんとヘーゼルさんは魔法を撃ちまくっている。よく見ると、遠くに氷塊を積み上げた壁がいくつかできていて、魔物の進路を妨害している。おかげで、最初に森から出てきた約千の魔物達と、続いてさらに西から出てきた魔物達が分断されている。

 最初に出てきた分は、だいぶ間引くことができた。しかし、既に一団は魔物と交戦状態だ。



 視界の先で、ギーラが黒くて爪が赤い牛頭鬼(ミノタウロス)と切り結んでいるのが見えた。

 あれは、確か和牛七美。体が大きく、迫力がある。体長3メートルくらいか。


 その和牛七美の斧をギーラが剣で受ける。

 魔法は呪文を覚えるのが大変だからと、魔力での身体強化を集中的に鍛えてきたギーラだけど、さすがに牛頭鬼(ミノタウロス)と力比べをするのは分が悪いようだ。ギーラの額には汗のが浮かび、やや押され気味に見える。


 しかし、鍔迫り合いで動きの止まった和牛七美の背後に気配を消して忍び寄る影がある。

 気付けば、和牛七美の背中にナイフが深々と突き刺さっている。ギーラの父親だ。

 周囲に数匹、ウルフやオークなんかもいるけど、そっちはプリシラと母親が相手をしている。

 ギーラ一家は、なかなか安定した戦いぶりのようだ。



 腰を抜かして動けなくなっている騎士も散見されるが、既に何人かは走って町に戻ろうとしている。戦おうとする騎士は数えるほどしかいない。


「お前達! 私を守るのが仕事だろう! 私は帰るんだ! 西に進め! 町からの魔法攻撃でだいぶ数は減った。このままなら行ける!」

 そんな中で声を張り上げるブリアン様。顔を恐怖で歪め、今にも泣き出しそうになりながらも、威張り続けている。

『恐怖を紛らわせるためだろう。気にするな。予定通り、誰かお付きの騎士に進言してもらおう。そこで、腰を抜かしている騎士がちょうど良さそうだ』

 現場に到着するなり、プリシラにラプを預け、ブリアン様に撤退命令を出してもらうべく行動する。

 敵を倒すことばかりに注力していては、進み続けて被害が拡大する。


「騎士様、クロード様の命により、救援に参りました。今は敵の分断に成功しておりますが、さらに敵は増加する見込みです。ブリアン様に撤退の号令をかけていただくよう、説得をお願いできますか?」

 双眼鏡型にした氷晶鏡(レンズ)を手渡しながらお願いする。


「……イヤだ。死にたくない。こんなのと戦えるわけないじゃないか! 帰っても死ぬだけだ。撤退したって死ぬのがちょっと先になるだけ。だったら逃げ切れることにかけて、このまま進んだ方が――」

「黙れ。守るべき者を置いて逃げて、何が騎士だ。腰の剣は飾りか?」

 狼狽えて、グダグダと弱音を吐く騎士さんにイラっと来たのか、ヘーゼルさんが体の制御を奪って胸倉つかんで凄む。僕が低姿勢で話しかけたのが台無しだ。


「あぁ、飾りさ! 飾りだよ! 儀式と訓練でしか使ったことなんてない!」


「あ、そうなのか? 使わないんだったら、借りるぜ。オレの剣、折れちまってさー。マジで助かるわ。サンキュ!――飾りなら、柄さえあれば十分か? 刃だけでももらえたら、剣、買い換える金が浮くな」

 そう言って、ギーラが剣を鞘ごと持っていく。後半は独り言っぽかったけど、本気かな?


 騎士さんは呆気に取られて黙り込んだ。視線がギーラを追う。

 兄ちゃんと合流したギーラは、次は槍を持った和牛五助に挑むようだ。

 既に六郎は倒されている。どうやら、兄ちゃんの魔法で焼かれたようだ。所々黒焦げになった死体が転がっている。「せっかくの肉がもったいない! 次は焦がすんじゃねえぞ!」と兄ちゃんにギーラが文句を言っている。


「ちゃんと西を見てみろ。今、引き返さなければ、どれだけの数の魔物と遭遇するのか分かるはずだ。戦えなかったとしても、自分にできる最善を尽くせ」

 ギーラの呑気な様子を見て平常心を取り戻したのか、落ち着いたようだ。

 今度は素直に氷晶鏡(レンズ)を覗き見て、それからブリアン様に近付いていった。


 こっちはひとまず大丈夫。僕も魔物の掃討に加わろう。和牛一平、二葉、三太、四乃の4体は、この後出てくるはずだ。それまでに雑魚を片付けておかなくては。


「ッ撤退! 撤退だ! 町に引き返せ! 殿(しんがり)を務める者は名乗り出よ! 後で褒美を取らす!」

「はいはーい! ギーラ=サーフィ、フェンサー=サラーム、マルドゥク=サラーム! ご褒美、楽しみにしてるぜ!」

 すかさず立候補するギーラ。プリシラが入ってないのは、ラプでケガ人を運んでもらうためだ。


「おいッ! このバカ! 撤退だっていってんだから、さっさと逃げるんだよ!!」

 さっきまで勇ましく戦ってたギーラの両親は、そんなギーラに抗議する。せっかく強いのに、即座に逃げるつもりだったようだ。


「クロードの守護騎士か!? 借りを作るのは面白くないが、良いだろう。――殿はクロードの守護騎士3名が務める! 他の者は、速やかに撤退せよ!!」

 ブリアン様が良く通る声で撤退命令を出した。こっそりプリシラが音波反響(エコー)をかけたから、全員に聞こえたようだ。

 台詞はカッコいいよね。手綱を握る騎士さんにしがみついていなければ、もっと良い。


 騎士さん達は迅速に来た道を引き返していく。アンナさんは、心配そうに僕達を見ていたけど、婚約者さんに促されて帰っていく。

 プリシラは、ケガ人をラプに乗せて走らせた。


 あとは、魔物をどうにかすれば解決だ。



 ヘーゼルさんが作った氷の壁に魔物達がタックルでもしているのか、ドーンという衝突音と、ピシピシと鳴る氷の音が聞こえてくる。

 待っていれば、あと数十秒で氷の壁は破られるだろう。


 しかし、待つ気はない。

 兄ちゃんが二重詠唱で、炎と雷の魔法をそれぞれ用意する。


 ドーンと壁にぶつかった音に合わせて、まずは、炎を氷の壁にぶつける。

 氷は溶けて水となって、思いっきり壁にぶつかった直後の魔物達は、重心を後ろに移動させる前に支えを失って、水溜まりのできた地面に倒れ込む。

 すかさず、そこに雷を叩き込む!


 うまく和牛一平も巻き込めた。雑魚もほぼ片付いたから、後は和牛二葉、三太、四乃だけ。

「ふっふーん! どうだ、ヘーゼル! 水属性だけじゃ、こうはいかないだろ!」

 今度は兄ちゃんが勝ち誇ってる。

『甘いな、フェン。余裕のあるときは、倒し方にもこだわるべきだ。もっと肉の味の落ちない倒し方がある!』

 静かに言って、薙刀を持った和牛四乃を氷漬けにする。

「師匠の勝ちだな! 精進しろよ、フェン!」

「勝負のポイントは肉の味じゃないだろ!?」


 僕とギーラも連携して、二葉、三太の相手。

 僕が上に飛び、氷刀を振りかざして三太の注意を引く。その隙にギーラが足に斬りつける。ギーラに注目が移れば、今度は僕が腕を狙って刀を振る。

 度重なる攻撃に平常心を失ったところを、二葉の影に入り込むように回り込むと、2体がぶつかりそうになって動きが止まる。


 攻撃力とタフさは脅威だし、普通の牛頭鬼(ミノタウロス)よりも巧みに武器を扱うけど、体が大きい分小回りはきかないところは変わらないみたいだ。

 攻撃を受けないことに集中し、一撃で倒そうと思わないことが大切。隙をついて2度3度と攻撃を重ねていけば、十分に倒せる相手だ。

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