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第12話 暗殺者

 クロード君に返事をした後、さらに念入りに予測をした。

 僕達が選んだ未来だ。犠牲者を減らすのは僕達次第。3人で済むはずの死者を、それ以上に増やす訳にはいかない。


 それで分かったことは、ブリアン様の帰還に関することだけじゃない。

 今晩さっそく、事件は起こる。


「クロード様、本日は私と兄でお部屋に待機させていただきます」

「いーよ。じゅんばん、かえた?」

「はい。明日からの会議での警備について兄と話し合いたいので。できるだけ、うるさくないよう配慮します」

「わかった。きまったこと、おちえてね」


 クロード君は、アンナさんとの別れを想ってか、時々寂しげな表情を浮かべるものの、それ以外はいつも通りだ。

 守護騎士に任命された5人のうち2人は、クロード君と同じ部屋に寝泊まりするようにしている。クロード君の決めた順番通りだと今日はプリシラと僕なんだけど、交代してもらった。


 毎日、就寝前にしてた魔力の練り上げも今日はなし。

『夜中の事件が片付くまで延期しただけだが?』

 あう。残念。この気の重い事件で唯一のラッキーなことだったのに。

 ヘーゼルさんの正体を教えてもらった日から毎日続けて、慣れてきてはいると思う。でも、慣れた分だけ負荷を上げられてしまうから、魔力を寝られた後は気を失うように寝入ってしまうことに変わりはない。さらに翌日には、筋肉痛が残る。動ける程度ではあるけど、これも地味に辛い。


 ただ、効果は感じてるから、やらないわけにもいかない。

 ヘーゼルさんが憑依してから、時々感じていた体内に魔力が収まりきらずに暴れだすような感覚。あれがどんどん薄くなっている。濃縮された状態で魔力が体内に収められ、溢れ出す魔力の量が減っているんだ。

 体内の魔力量も増えるし、魔力効率も上がる。ついでに自分で魔力を練られるようになれば、魔力制御も上達するらしい。


『マル、ヘーゼル。クロードは寝ちまったから、ベッドに運んどく。警備は事前の打ち合わせ通りでいいな?』

『うん。よろしく』

 兄ちゃんに本を読んでもらってたクロード君は、いつの間にか疲れて寝てしまったようだ。本って言っても絵本じゃなく、『古今戦術集』だ。頑張って理解しようとしてると疲れるんだろう。今までは、夜の護衛って言っても、本の読み聞かせだけだったんだけど今日はこれからが重要だ。


 部屋の明かりを消して、僕はクロード君のベッドの横に置かれた簡易ベッドの横にしゃがみ込む。簡易ベッドにはクッションを置いて、誰かが寝てるように見せる。兄ちゃんは部屋の扉の脇。

 そのまま、しばらく待機。



 そっと、音もなく扉が開き招かれざる客人が2名入ってくる。

 兄ちゃんはドアでちょうど見えなくなる位置だから、侵入者からは見えない。

 明かりを灯すこともなく移動する、闇と同化する暗い色の服を纏った侵入者。顔も服と同色の布で覆われ、目元だけが出ている。典型的な暗殺者の格好、というやつだ。

 暗さに目が慣れていたおかげで、なんとか見える。


 暗殺の対象は普通ならクロード君だけなんだろうけど、この暗殺者は最初に守護騎士を襲ってからクロード君を殺すつもりらしい。1人は簡易ベッドに、もう1人はソファに近づいていく。この部屋に泊まり込むときに、いつも僕達が寝る場所だ。簡易ベッドはクロード君に異変があったときに気付けるように、ソファは扉を開けてすぐの場所で侵入者がいたら気付けるように。そう考えての就寝場所だった。


 簡易ベッドに近づいた方は、ベッドのふくらみに向かって両手でナイフを振り上げる。ソファに近づいた方は、誰もいないのを見てキョロキョロしている。ソファの下とかを覗き込みだした。そんな場所に入り込むのは、小さな子供じゃないとできない。ギーラや兄ちゃんでもちょっと難しいだろう。今日の当番の守護騎士が僕とプリシラだと思っているんだろうか。


 簡易ベッドに置いたクッションに迷いなくナイフが突き立てられる。

 暗殺者は、寝ている人物の顔を確認することもしなかった。


 僕は静かに立ち上がり、クッションとナイフと暗殺者の手をまとめて氷に閉じ込める。後ろから氷刀を首筋に付きつけ、感情を殺した声で短く言う。


「動かないで。聞きたいことがある」


 ソファの近くを探していたもう1人の暗殺者は作戦失敗を悟り、即座に部屋から出て行こうとする。

 部屋の扉に向かって歩き出した瞬間、兄ちゃんが魔法で一瞬だけ閃光を放つ。そこまで強い光ではないけれど、暗闇になれた目には眩しかったことだろう。


「っ。プリシラ? そこにいるの? 逃げるよ。ここにいたら死ぬだけ。――って言っても聞こえないか」

 女性の声だった。

 この暗殺者さん達はギーラとプリシラの両親。だから、僕と兄ちゃんで対応することにしたんだ。

 簡易ベッドの方に来た父親は有無を言わさず殺そうとしてきたけど、母親の方はプリシラを連れて逃げようとしてるのか? 僕が簡易ベッドの方だって知ってたんだろうか。配置を決めたのは、当日の朝だったけど……。


「プリシラはここにいない。今日は俺達兄弟で警備だったからな」

「ちっ。情報、間違ってんじゃないのさ」

 見えないまま暴れる女性の腕をかいくぐって後ろに回り、兄ちゃんが女性の手首を抑えて縛る。


「まるるく、けるたん。どーちたの?」

 できればそのまま寝ていて欲しかったけど、クロード君は起きてしまった。色々なパターンをシミュレーションしてみたけど、どうしても第六感が働いて目覚めてしまうようだった。


「クロード様、ちょっと侵入者が。もう取り押さえたので大丈夫ですよ」

「ぎらとぷりたん、よんだほーがいい?」

「大丈夫です。事情聴取をするので、別室に移りますね」

「くろーろも、ちょーしゅすりゅ」

「……では、このままこの部屋で話を聞きましょう」

 これも予測通りだなぁ。クロード君にとってショックな話になるだろうから、できれば寝てて欲しかったけど、こんな場面を目撃して気にならないわけないよね。


 兄ちゃんが弱めの光球を作って、少しだけ部屋を明るくする。

 ギーラの両親をソファに座らせ、僕は氷刀を手にしたまま背後に立つ。クロード君は2人と対面するように座り、兄ちゃんが隣に待機。


 クロード君は2人を眺めて、首をかしげ、ちょっと考えてから問いかける。


「だーれ? くろーろにごよう?」

 何だか平和な問いかけだ。

「――このカッコ見て分からねぇのか? ま、その年じゃしょうがねえか」

「あしゃしん?」

 アサシンって言いたいんだろうな。ちゃんと分かってるみたいだ。

 ギーラの父親はただ肩をすくめただけだった。


「クロード。悪いけど、俺からズケズケ質問させてもらうぞ。なんでクロードを狙った? さっき、ここに残ってたら死ぬだけだって言ってたよな? それなら、ブリアンに置いて行かれるクロードだって、死ぬ確率高いだろ? わざわざ暗殺する意味が分からない」

 兄ちゃんが本当に遠慮なく質問する。死ぬ確率が高いと言われても、クロード君は表情を変えない。覚悟が決まっているのか、大丈夫だと信じているのか。


 暗殺者2人は何も言葉を返さない。黙秘するつもりみたいだ。


「きぞく、あんさつ、じゅーざい。ぜんぶ、はなしゅ。くろーろ、ゆるしゅ」

「”貴族の暗殺は重罪。厳罰は免れないが、全て話すなら特別に不問にする”ってことで訳は合ってるか?」

「あってりゅ。いきのこりゅ、じょーほー、だいじ」

 クロード君は、罪を問うことよりも生き残るために情報を得ることを選んだ。


 良かった。先見の明での予測によれば、守護騎士の誰かが傷ついたなら、クロード君は処刑を選ぶ。ケガをした場合はもちろん、実の両親の行動にギーラやプリシラがショックを受けていた場合も。


「ほう。二言はないな? いいぜ。オレ達は生き残りたい。この仕事を受けたのだって、報酬としてこの町からの脱出を確約してくれたからだ」

「つまり、ブリアンからの依頼か。帰還の一団に混ぜてもらうことになってた、と?」

「まあな。ある程度はお前達も情報をつかんでるみたいだが、今回の件は、ただのスタンピードじゃねぇ。とても対応しきれないことは、最初から上の連中は分かってやがった。でも、何も対処しませんでした、じゃ非難される。責められないだけの犠牲を払って、後の対処は別の連中に丸投げするつもりだったのさ」

 ん? よく分からない。クロード君も首をかしげている。


『どこまでの情報を伯爵が知っていたのか分からないが、事件を解決できる戦力は用意できないと判断したんだろ。しかし、何もせずに、他の領地に魔物を擦り付ければ、当然責められる。だから、自分達は被害者だと言えるポジションを確保したい。それで、まともに対応しようとしたふりをするため、この町の住民と自身の息子を犠牲にすることにしたんだ。犠牲にする息子は次期当主最有力候補の長男では困るから、次男と三男を派遣したんだろう』

 そんな……。クロード君のお父さんは、ブリアン様とクロード君を犠牲にしようとしてるってこと?

 僕はヘーゼルさんの解説で意味が分かったけど、クロード君は分かってしまったらショックだろうな。


「理解できねぇだろうな。跡取りになりうる息子が死んでれば、一生懸命魔物を食い止めるために頑張りましたって言い訳ができるってことだ。お前か、ブリアンのどっちかは死んでくれなきゃ、伯爵様は困るんだ。ブリアンはお前が死んでなけりゃ、領都に帰ってもまたこの町に派遣される可能性がある。だから、帰る前に死んで欲しかったんだよ」

「――! ちやう。くろーろ、しなない。まもの、たおしゅの。にーたんも、しなない」

「こんなに小っちゃくちゃ、そう信じたいだろうな。でもな、死ぬんだよ。知ってるだろ? 上位種数百を含む魔物1万に対して、人間側はせいぜい千数百。勝ち目はねぇ」

「しょれでも。まるるくも、けるたんも、ぎらもいりゅの。ほかにも――」

「ギーラとプリシラは連れて行く。どうせ、村長の息子2人にはバレてるから言うが、オレはギーラとプリシラの父親だ。子供なんて煩わしいばっかりだと思ってたんだがな、死ぬってなると平気なわけでもねぇんだ。不思議なもんだぜ」


 少しだけ、ホッとした。ギーラ達の両親も子供のことを大切だと思う気持ちはあったんだ。


「――プリシラのことを売り飛ばそうとしてたくせに、今更普通の親のふりか? 大体、簡易ベッドの方には遠慮なくナイフを突き立ててただろ!?」

「親、か。まともな親ってのがどんなもんか、オレ達には分からねぇ。ギーラだけでも手一杯だったのに、耳の聞こえない子供をまともに育てられるわけがねぇんだ。そもそも、オレ達は暗殺の仕方しか知らん。育てようと思ったら、一度は辞めた暗殺者をまたやるしかなかった。この仕事が上手くいけば、しばらく暮らしていける程度の金は手に入ったんだがな。――あと、プリシラはソファの方だって情報があった。そこの白がうちの娘に惚れてるから、2歳児相手でも男には近付けさせないとか。よく分からんが、確かな筋からの情報らしい」

 確かな筋からの情報って、誰から!?

 感知術のあるプリシラを出入り口付近に、窓から逃げられても侵入者を追える僕を窓に比較的近い簡易ベッドの方に配置してるだけだよ!?

 兄ちゃんが「そんないい加減な情報を流してやがるのは、どこのどいつだ?」と詰め寄っている。


「――ひとまず、その情報源の話は置いておいて。プリシラは冒険者になりたいって言ってたよ」

「そんな仕事ができるわけないだろ? 少なくとも1人じゃ無理だ。かといって、パーティに入れてもらえる可能性は低い。ずっとギーラに面倒を見てもらうわけにもいかない。お前らがずっと助けてくれるってか? 年食って冒険者ができなくなった後も?」

「働ける内にお金を貯めておけばいいよ」

「盗まれるだけだ。所詮、現実を知らない子供の夢だ」

 この人なりに考えてるんだろうけど、無理だって決めつけすぎていて、聞き入れてくれそうにない。


「ぎらぱぱも、ぷりままも、くろーろにちゅくの。たたかって、かちゅやくしたら、ほーしゅーありゅはじゅ」

「死んだら報酬は受け取れねぇだろ?」

「しななきゃ、いーの。がんばって」

 笑みを浮かべて言うクロード君。唐突に話を終わらせたけど、どうやら眠いみたいだ。

 諦めたような表情で、2人はため息をついた。

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