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第11話 ハイリスク

 昨晩の夕食の席で、北と南の戦力配分が大まかに決められてしまった。激戦の北の戦力が薄くなりがちな配分に。


 しかし、悪いことばかりでもない。北方担当の部隊だけでの会議なら、ブリアン様や警備隊長さんは省いていい。幼いクロード君の言葉をどれだけ聞いてくれるか不安だけど、今までよりはしっかりと対策を練ることができるはずだ。会議はクロード君、町長さん、冒険者ギルドマスターで予定通り行う。


「フェン、貴人にご挨拶するときは男性は跪くことになっているのよ。挨拶が終わっても、その方が話しかけてくださるまでは立ち上がってはダメ。話しかけられても、友好的な印象じゃなかったら立ち上がらないことね。さあ、やってみて」


 ブリアン様は来ないことになったから、礼儀作法はそんなに気にしなくていいはずなんだけど、兄ちゃんは礼儀作法を母さんから教えてもらっている。呪文は挨拶の仕方をマスターするまでは教えてくれないらしい。

 ギーラはそんな兄ちゃんをニマニマしながら見ており、時々兄ちゃんに睨みつけられてる。プリシラは弓の練習中。


 僕は母さんの授業を聞きながら、体がなまるといけないから素振りをしている。場所は、部屋の中だと危険だから、公館の前庭だ。

 クロード君は、僕を見ながらスプーンを振っている。素振りを真似しているようだ。「やあっ!」とか、たまにかけ声が入るのがかわいい。


 素振りをしながら考える。犠牲者を減らすために、僕達がすべきことは何なんだろう。

 偵察をしたことは良い方に転びそうに思ったけど、そうとも限らないようだった。ということは情報を活かせるかどうかがポイントなんだろうか。

 第1波に似た魔物の襲来も気にかかる。普通に考えると避けた方がいいことなんだけど、何が理由で分岐するのかが分からない。


「おい、クロード。こんなところで白の子供と剣術ごっこか? 子供は気楽でいいな」

 外にいたせいで、たまたま町から帰ってきたブリアン様の目に留まってしまったみたいだ。

「ごっこ、ちやうの。くんれん」

「訓練だぁ? スプーンでか? ぷくくっ」

 笑われてしまったけど、クロード君は構わず、またスプーンを振り始めた。

 クロード君っていい子だよなぁ。兄ちゃんに「ガキ」って言われたり、呼び捨てにされても怒らない。昨日怒ったのだって、ブリアン様が悪いことをしても謝らなかったり、危機に対して真面目に取り組もうとしなかったりしたからだ。自分のことではカッとなることはあんまりないみたいだ。


「――ふん。まぁいい。クロード、伝えておくことがある。スタンピードの件だが、第1波到来予測期間を過ぎたというのに、何の動きもない。3日後まで待っても何も起きないようなら、その翌日に我々は引き上げる。父上と対応を協議せねばならぬからな。お前は、この町に残り別命あるまで待機するがいい」

「――にーたん、なんにん、つれてかえりゅ?」

「あ? あいかわらず、なにを言ってるか分からんな」

「ブリアン様、クロード様は同行される者の人数を気にしておいでです」

 アンナさんが伝えると、ブリアン様は眦を吊り上げた。何か気に障ったみたいだ。


「発言を許可した覚えはないぞ。気持ち悪い平民め。通訳すると見せて自分の意見を混ぜ込んでおるのだろう! まったく、図々しいにも程がある! クロード、この女は処分すべきだ。せっかくお前の騎士がいるのだから、斬らせたらどうだ? あぁ、竜騎士でもない白では無理か。木の剣しか持っていないようだからなぁ」

「にーたん、あんにゃ、わるくない!」

 アンナさんは低く頭を下げたが、クロード君が庇うようにブリアン様との間に立った。


「主のお前がそこまで言うなら、許してやらんでもない。で、私が領都に帰って父上の判断を仰ぎ、お前が残ることに異存はないだろうな?」

「しゅこし、かんがえりゅ」

「はぁ~~~~っ。これだから、お子様は。許してやる代わりに、お前がここに残れと言っている!」

 あぁ、そういう意味だったのか。分かりにくいなぁ。


『マルドゥク、4日後に出発すると言っていたな? 4日後は4月14日。魔物襲来の可能性がある日だ』

 そういえばそうだ。ここで、未来がまた狭まるんだろうか。でも、どうなったら正解なのか分からない。援軍を頼めそうなら行ってもらった方がいいけど、この様子じゃ期待できなさそうだ。


「くろーろ、のこりゅ。でも、にーたん、かえりゅべきか、わかりゃない。しゅこし、かんがえりゅ」

「お前の指図は受けんぞ。しかし、残るとはっきり言ったな。私の騎士達も聞いた。後から覆すのは認めんからな!」


 そういうとブリアン様は身を翻し、公館の中へと向かうかと思いきや、チラリと視線だけ寄こして言った。


「ああ、一応そこのメイドが聞いてきたことに答えてやる。来るときに乗ってきた馬車を使って帰るつもりだ。馬に乗る者も含めると、合計で100人ほど乗れる。そのまま撤退の可能性を考えると、正規の騎士は全員帰らせなければならないからな!」

 え。それはもはや、指示を仰ぎに行くんじゃなくて撤退だよね?

 よく考えてみれば、伯爵に現状を説明し、判断を求めるためだけなら、騎士を1人か2人程度帰らせればいいだけだ。


 クロード君はブリアン様の言葉を聞いてから、考え込んでしまった。ずっと庭に突っ立ったままだったので、アンナさんが心配して声をかけ、公館の中に入らせた。護衛として、僕とギーラも一緒に移動する。


 まったくしゃべらないクロード君が心配だけど、僕には確かめないといけないことがある。

 ブリアン様が帰ることで、未来はどう変わるのか? それを見なくてはいけない。


『ギーラ、クロード君の様子見てて。僕は先見の明で、ブリアン様の行動の結果を予測する』

『おう、りょーかい! 任せとけ!』


 本を読んでいるふりをして、先見の明を発動。


 あぁ、やっぱりだ。

 領都はこの町から見て北西だという。ブリアン様達は町の西門から出て真っ直ぐ西に進んで、北西に広がる森を避け、森が途切れた辺りから北上して帰ろうとする。別に変わった動きではない。来た時のルートを逆に進んでいるだけ。

 しかし、牛頭鬼(ミノタウロス)達は、女王(クイーン)によって統率され、北西の森にも支配域を広げている。森の端には歩哨まで立てていた。100人もの人数が移動していれば、気付かれないはずはない。当然、牛頭鬼(ミノタウロス)達がブリアン様達の一団を襲う。


 あれ? アンナさんがいる。傍らには婚約者の騎士さん。

 あぁ、そうか。クロード君は、ブリアン様を帰らせていいのかだけじゃなく、結婚を控えた2人を揃って帰らせるべきかを考えているんだ。騎士は全員帰らせると言っていたから、アンナさんをここに残せば、婚約者さんとは離れ離れになる。そのことを気遣っているんだろう。本当に優しい子だ。


 アンナさん達の乗った馬車に牛頭鬼(ミノタウロス)が迫る。

 ブリアン様の行動は止めるべきと、僕が結論を出そうとしたその瞬間、未来は分岐した。分岐は2つ。

 1つは、帰還しようとした一団がほぼ全滅してしまう未来。中には警備隊長さんもいる。どうやら、危険から逃れようと同行させてもらっていたようだ。

 もう1つの未来では、迫ってくる牛頭鬼(ミノタウロス)に氷塊や炎が飛んでいく。城壁上からの魔法攻撃が届いたみたいだ。それを見て、ブリアン様はそのまま進もうとする。

 しかし、その先にも当然敵がいる。ヘーゼルさんや兄ちゃんの魔法が届かない場所で攻撃を受ければ、やはり壊滅状態に陥るだろう。

 ここでの戦闘の結果でさらに細かく未来は分岐した。


 頭が痛む。全ては把握しきれなかった。上手くすれば、ブリアン様を止めて町に引き返させ、ケガ人は出るけれど、死者はなし。そのまま進ませてしまえば、壊滅。その間に、何人死ぬのか、誰が死ぬのか、色々なパターンがあるようだ。


 う~ん。死者ゼロの未来は消えなさそうに思えるけど、危険だ。やっぱり止めた方がいいんだろうな。


『マルドゥク、ブリアンがそう簡単に意見を変えるとは思えない。帰ろうとしなかった場合の未来が存在するのか、確かめておいた方がいいんじゃないか?』

『よく分かんねーけど、師匠に賛成だぜ! オレ、あいつ嫌いだ。平民の言葉なんて聞かない、って態度がムカついた。クロードが止めても、こっそり帰ろうとする未来があってもおかしくないぜ』


 なるほど。見てみよう。


 え? そんな……。


「まるるく、どうちたの? ぐあい、わりゅい?」

「いえ、大丈夫ですよ。久しぶりに体を動かして、ちょっと疲れちゃっただけです」

「もう、まるるく、メーよ? しゅごきし、ちゃんと、うごきゅ。あちたから、しゅぶり、ひゃっかい!」

 冗談めかした表情を浮かべている。素振り100回くらいなら、全然構わないけど。


「まるるく、ぎら。にーたんのはなち、どーおもう?」

 クロード君は、言い終わるとアンナさんを見た。通訳してと言ってるみたいだ。たぶん、言葉にできなかった伝えたいことがあるんだ。


「――あんにゃ、おねがい」

 なかなか通訳してくれないアンナさんに頼み込むクロード君。こんなことは今までなかった。

 だいぶ迷ってから、クロード君の真っ直ぐな瞳に負けて、やっと口を開いた。


「クロード様は、ブリアン様が領都に帰るのを止めるべきかどうか、意見を求めていらっしゃいます。止める場合は決闘を挑みます。貴族の流儀ではありますが、お二人とも戦いは騎士に任せるしかないので、クロード様の代わりに2人のどちらかに戦っていただきます」

 なるほど。そうやって止めるのか。

『さりげなく言ったが、ブリアンも戦えないのか? 剣くらい習わせるはずだが』

 そういえば、16歳だったよね。15歳越えてるから成人してるはずだけど、戦えないんだ……。

 って、そこじゃないよ! ヘーゼルさん!


『私の答えは決まっている。違う答えをお前が選ぶなら従うが、たぶん同じだろう?』

『マル、話が見えねーよ。ブリアンの選んだ騎士をぶっ飛ばせばいいのか?』

『ううん、ブリアン様を止めれば、死者ゼロの未来は消える。ギーラが言ってたように、勝手に抜け出して3人死ぬ。ブリアン様と警備隊長と、アンナさんの婚約者の騎士さん』


 さっき見えたのは、魔物に惨殺された遺体を前に、膝から崩れ落ち、人形のように感情の読めない表情で止めどなく涙を流すアンナさん。そして、悲しみに泣き崩れていたら、裏切り者と罵られ、石を投げられる警備隊長の奥さんと子供達らしい人達。父親が自分達を置いて逃げたのだと知り、子供達の顔が絶望に染まる。

 そして、ブリアン様の遺体を前に怒りに震えるクロード君。

 死者は少ないかもしれないけど、それでも、その死が生む悲しみの深さは計り知れない。


 ギーラが一瞬視線を寄越す。ギーラの答えも同じみたいだ。

 兄ちゃんやプリシラの意見も聞きたい。試してみたら、ギリギリ意思伝達の効果範囲だった。2人とも僕達の選択を支持してくれた。


「あんにゃ、つづき」

 再び黙ってしまったアンナさんをクロード君が促す。

「あるいは、あえてブリアン様を止めない選択肢もあります。偵察で得た情報をまとめ、帰還する一団に入れてもらって、……私が伯爵様に届けに行きます」

 1人、安全圏に逃れる罪悪感があるのだろう。すまなさそうな顔でうつむいてしまった。


 すまなく思う必要なんてない。アンナさんには、怖い思いをさせることになってしまうんだ。

 でも、許してください。こっちの未来の方が、あなたにとっても、きっと良い。あなたの婚約者さんは助けてみせる。


 ギーラと顔を見合せ、うなずきあう。


「アンナさんにブリアン様や婚約者さんと一緒に帰って、情報を伝えてもらいましょう」

「勝つ自信はある。皆で幸せな未来をつかむには、こっちだろ!」


 僕は真っ直ぐにクロード君を見つめて、ギーラはいたずらっ子な笑みでウィンクしながら答えた。

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