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第25話 フェンの日記(15)

 魔法歴984年4月3日


 明け方、目が覚めて異界図書館をのぞいたら、伝言板にメッセージが届いていた。


『暴食の神の使徒だったブリュノ=タアーム、魂名”鶏肉”は君達の活躍により使徒の地位を失った。いや、暴食から解放されたと言った方がいいのかな。初撃破だよ。おめでとう。と言っても浮かない様子だね』


 あいつが”献身(ディヴォーション)”を使った瞬間に、”暴食の神の使徒”の称号が消えた。暴食のスキルも。だから、使徒じゃなくなったんだろうって分かってた。やっぱり、あいつはもう使徒じゃないんですね。


 プロメテウス様、俺、あいつは転生するだけだって思ってたんです。どこか別の世界で新しい人生を始めるだけだ、消滅するわけじゃないって。

 あいつ、良い奴だったから。俺、攻撃しまくってたのに魔力分けてきたり、皆に迷惑かけたって反省してたり。それに、鶏肉なんて酷い魂名つけられてて、かわいそうだと思ったし。

 ずっと活躍したいって思ってたけど、こんなに苦い気持ちになるなんて思わなかった。


商売の神(ヘルメス)が勝利宣言したんだけど、暴食の神の違反もあったから、ボクも1人分の使徒任命権もらえたんだ。だから、ブリュノ君に話をしに行ったよ。ボクの使徒になる気はないかって。でも、断られた。自分は自力で暴食の衝動には逆らえなかった。もっと使徒に相応しい人を任命してください、だって。あと、伝言を預かった。暴食のスキルが消えた瞬間、ずっと抱えてた苦しみから解放された、ありがとうってさ』


 リアルタイムで返事が返ってきた。チャットみたいだ。


 そっか。あいつ、頑固だったしな。

 暴食樹人(グラトニートレント)はもちろん倒す。でもブリュノには、他の木に宿ってもらって、その木で杖作って、ちょうど良さそうな白の子に許可とった上で憑依してもらう。

 そう提案したのに、頑なに受け入れなかった。憑依した子が暴飲暴食に走ったり、魔物化したら困るからって、他の奴の心配ばっかりして。


 ありがとうございます。会いに行ってくれて。


『どういたしまして。ところで、今後の方針だけど。悪徳の使徒は、彼みたいに善良な魂に守護神の悪しき特性を植え付けられている可能性がある。自分の使徒を堕とされたことのある神は、元々は善良な魂だなんてあんまり信じてくれてないけど』


 そういえば、スキルに変なのありましたね。ブリュノなら暴食、ギーラなら妬みっていうのが。


『ボク達は、悪徳の使徒それぞれをよく見て、対応を考えよう。元が善良そうなら、守護神から与えられた呪縛を自身で打ち破るための手助けをする。こいつは無理って思ったら、距離を置くなり、排除するなりで良いけどね。安全第一。――ということで、次なる指令を言い渡す。”ギーラを嫉妬から解放せよ”』


 分け与えることを続けたことが暴食の神の使徒に相応しくないと判断されて撃破扱いになった。同じように倒していけばいい。

 言うは易く、行うは難しって感じだけど。


 ギーラなら、誰かを羨む必要がないほど立派になってもらうとかか? 具体的なプランは追々考えていくけど、今のところ悪くない方向に行ってる気がする。


 もうギーラを敵視する必要なんてないんだ。俺がすべきことは、あいつが抱えてるであろう呪縛を打ち破る手助けをすることだから。

 あいつ自身は仲間。マルもヘーゼルもプリシラも、この方針なら協力してくれる。

 ありがとうございます。 なんだか元気出ました!


『あ、そうだ。前の”先を見よ”って指令の点数、60点ね。結果は悪くないけど、ロー(マルドゥク)君とかヘーゼルとかに助けられすぎ』


 ……点数、辛くないですか。初撃破なのに。




 2度寝して普通の時間に起き、朝食を食べたら、ヘーゼルが「ちょっとマルドゥクと条件を詰めてくる。緊急の用事以外では呼ぶな」って言って、村のすぐ外に大きな氷の宮殿を作って中に閉じこもった。


 条件ねぇ。どうせ、自分の目的にも協力することと、製造販売を任せられる奴を見つけること、だろ?

 マルも頑固だからもめるかもしれないけど、心配しなくてもいいだろう。

 バカでかい宮殿まで作って、大げさじゃないかな。


 なんてことを考えていたら、父さんと母さんが寄ってきた。そりゃ、家の近くにこんなもの建てられたら、調べに来るよな。

 不審な建物を調べに来たのかと思ったのに、「これは、ヘーゼル様の氷晶宮殿(クリスタルパレス)!」とか言って興奮してた。なんでも、宮殿だったり、砦だったり、城壁だったりを魔法で作り上げ、敵の襲撃から国民を守ったって伝説があるらしい。


 ヘーゼルめ。俺が質問攻めにされたじゃないか。事情なんて聞かされてないのに。


 でも、母さんは「ヘーゼル様が付いてて下さるなら、子供達も参戦しても大丈夫かも」ってつぶやいていた。


 父さんは決して弱くないけど、母さんは戦ってるところを見たことない。たぶん、俺が生まれてから一度も戦闘なんてしてないんじゃないかな。

 もともと回復役だと言っていたし、母さんには安全な場所での後方支援をお願いして、俺とマルは前線で戦う方向に持っていきたい。


 そもそも、原則は全員で参戦せよ、なんて命じられる規模のスタンピードだ。俺達が参加した方がいいに決まってる。



 そういえば、ギーラ達の一家はどうするんだろう。

 ギーラはもちろん、プリシラも前線に出ても問題ないくらいの実力はあると思う。プリシラにはラプを付けとけばいいし。意思疎通でコミュニケーションが取れるっぽくて、操縦の腕はマルに次いで高いからな。

 問題はあいつらの両親だ。日々、飲んだくれてる人達なんて、戦力にならない。でも、参戦しないなら何かしらの物資を拠出しないといけない。

 ……本当に疫病神だな。


 それとなく、父さんにギーラの両親について聞いてみる。

 すると、両親ともかなり強いという。おそらく元暗殺者だそうだ。……って、暗殺者!?


「孤児が暗殺者として育てられることは少なくない。父さんも一歩間違えればそうなっていたかもしれない。彼らはその稼業が嫌で逃げ出したんだが、他の働き方が分からずにいるのかもしれない。――彼らの身ごなしから推測しただけで、間違ってるかもしれないから、誰にも言うなよ」


 だそうだ。

 使徒は強力な力を持って生まれる。あまりに非力な両親の子供だと不自然だから、自動的に不自然すぎる生まれ先は選択肢から外されるらしい。

 考えてみればギーラの両親なら弱いはずはなかったんだ。

 会った覚えはないから、スキルとかは分からない。父さんの話によると、2人とも体術と短剣の扱いに長けているそうだ。



 父さんから情報を集めていたら、宮殿から悲鳴が聞こえた気がした。扉が開いてマルが出てくる。

 駆け寄り、無事を確認。特に異常はなさそうだ。強いて言えば、髪がつやっつやのサラッサラになってる。光が当たるとキラキラ輝いて、銀髪にも見える。


 ヘーゼルが、本契約したから魔力を体に馴染ませると言って、全身の魔力を練り上げたらしい。その副作用で、肌や髪に潤いが満ち、肌はもちもち、髪はサラつやになったそうだ。

 ――いや、あんま変わらん。副作用じゃなく、メインの作用を教えてくれ。


 ◇


 魔法歴984年4月4日


 ギーラの一家の方針を聞いてみた。一家そろって町に行き、全員で参戦するそうだ。

 招集に応じるわけだから馬車代はいらないけど、町での滞在は外のテントで雑魚寝でいいなら無料。あとは食事。携帯できる保存食は配給されるけど、続くと飽きるからたまには町の中で食事させてくれって頼まれた。

 こいつ、ホント食にはこだわるな。暴食ってわけじゃないからいいけど、普段美味しいものを食べられていないせいだと思うと切ない。



 ついでに村の様子を見て回ってたら、どこもかしこも悲壮感に溢れていた。

 逃げ出すと犯罪者扱いになるから、行かないわけにいかない、戦闘に参加しないようにするには金か物資が必要、ついでにスタンピードで町が踏みつぶされたら、この村もそのまま犠牲になって生活基盤も失う。でも、サボって戦闘訓練なんてロクにしてこなかった。

 うん、そりゃ絶望的な表情にもなるな。


 コルに会ったら、突然、土下座された。

 羊がやってきて、せっかく元気になったじいちゃんを戦場に行かせたくないそうだ。つまり、借金の申し込み。

 これはマルに相談したら、アルバイトをさせることになった。一昨日狩りまくった魔物を解体したり、皮をなめしたりするのを手伝わせたり、余ってたミルクをチーズに加工してもらう。バイト代はちゃんと払うから、それを納めて非戦闘員にしてもらう。

 あっさり金を貸すかと思ってたけど、こういうところは意外とシビアだ。商売の神の使徒だからだろうか。


 コルとそのじいちゃんはこういう作業は得意だったみたいだ。ヘーゼルが直した呪文を教えたから、魔力制御も簡単にできるようになって喜んでいた。


 っていうか、病み上がりの高齢者でも免除されないって酷くない?

 子供も5歳以上は全員参加らしい。ヘーゼルは、賢者大戦での少年兵徴用の名残りだろうと言っていた。

 あー。やたら、声が平坦になってる。これは、怒りを押し込めてるな。子供が魔物に殺されそうになったら、待機命令とか出てても無視して飛び出しそうだな。

 面倒なことにならないなら、そのこと自体は構わない。一応、マルに先見の明でその辺りも含めて予測をしてもらおう。


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