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第23話 万物流転

 僕達を視認した途端、ゆったりとした歩みから一転、地を蹴り、素早く襲い来る銀牙虎(シルバーファング)

 でも、こいつがやってくることは予測済みだ。慌てず、兄ちゃんを庇うように前に出て、右手の刀を振るう。そんな僕に向かって、銀牙虎(シルバーファング)は刀をへし折ろうと爪を振り下ろす。


 刀と爪とがぶつかり合う。ただの木刀なら受けきれなかっただろうけど、今の僕の刀はヘーゼルさんが魔力で生成したもの。爪3本をまとめて斬り飛ばす。

 即座に後ろに退る銀牙虎(シルバーファング)に向かって、片手で刀を構える。まだ、暴食樹人(グラトニートレント)の攻撃は止んではいないから、左手の氷晶魔杖(クリスタルロッド)は消せない。


「兄ちゃんとヘーゼルさんは作戦について話し合ってて。こいつの相手は僕がする。それから、他の魔物も集まってきてるけど、ギーラ達もあと少しで到着するはず。だから、兄ちゃん達は作戦に集中して」


 襲撃を受け、銀牙虎(シルバーファング)に向き直ろうとする兄ちゃんを制して言った。


力増強(パワーブースト)! じゃあ、マルドゥク君の補助は、私が。魔法を使い続けたら、もっと制御を奪えるかもしれないから、色々やってみようと思う』


 良かった。ブリュノさんの声がだいぶ明るくなっている。


 銀牙虎(シルバーファング)は、僕の強さを押し測っているようだ。今まで戦ってきた魔物のほとんどは、本能的に人間を襲うだけで、あまり頭を使って戦い方を工夫してきたりしなかった。

 でも、こいつは違う。

 先見の明で予測した結果、こいつは自分の不利を悟ると厄介な動きをすることが分かっている。例えば、暴食樹人(グラトニートレント)の攻撃を捌くのに手一杯になった瞬間を狙ったり、幹に噛みついて直接樹液を啜ることで更なる上位種への進化を試みたり。

 だから、時間をかける気はない。ブリュノさんのサポートも受けたことだし、一撃で決める!



 軽く刀を構え直し、距離を詰めていく。こいつが自分の間合いだと思っている地点まで、ゆっくりと。

 その地点までたどり着いた瞬間、銀牙虎(シルバーファング)は口角をニッと上げて、銀色に鈍く光る牙を見せ、跳躍しながら飛びかかる。


 こいつは素早さに自信があるようだ。僕のような人間の子供が自分よりも早く動くことなんて想定していない。

 その油断が命取り。僕のタラリアを甘く見てもらっちゃ困る! ついさっきまで、使い方はよく分かってなかったけど!


 左に回り込みつつ、旋回するように飛んで、斜め後ろから流れるように首を斬り飛ばす。


 銀牙虎(シルバーファング)の頭は、獲物を狩る喜びを浮かべた表情のまま大地に落ちた。


 血の匂いで余計に魔物が寄ってくるのを防ぐために、魔力を込めたけど、この刀だと効率が良すぎて加減が難しい。

 傷口を凍り付かせただけじゃなく、剣を振るった軌道に沿って氷が生成されていた。もちろん、ヘーゼルさんが剣を振るったときよりも2回りも3回りも小さい氷だけれど、キラキラ光って綺麗だ。


『まぁ、力加減は要練習だな。修業のメニューに組み込もう。この氷に後方の敵を巻き込むこともできるから、威力を上げるのも練習しておくといい。ちなみに、フェンがヒノキの木刀でよくやってる火焔斬りの氷バージョンで、凍結斬りという』

『はーい』

『ねぇ、フェン君。ヘーゼル様はもちろんだけど、弟さんもぶっ飛んでるね。普通の凍結斬りは、あんな派手に氷が出てきたりしないよ。大抵、斬撃と一緒に冷たい風が吹くとか、傷口がひんやりする程度なのに。なんか余裕みたい。僕のサポートなんていらなかったみたいだ』


 しまった。ブリュノさんの自信を失わせてしまったかも。


『あー。いや、あんたも結構ぶっ飛んだ能力してるよ? それに、昔、俺の父さんが母さんに”自分が思うように動けなくてもカバーしてもらえるって安心感があるから、実力を出せる”って言ったらしいんだ。今も、あんた防御魔法を準備してくれてただろ? カバーしてもらえるから、大胆に動ける。たとえ、使う必要が結果的になかったとしても、無駄だったわけじゃない』

『そうか。ありがとう。君達のお父さんって村長さんだよね。良い人だったのに、ものすごく迷惑をかけてしまった。もし、言葉を交わせたら、謝りたかったな』


 兄ちゃん、ナイスフォロー。


『僕、あんまり力はあるわけじゃないから、首を一撃で斬り落とすのはちょっと難しかったんだ。ブリュノさんの魔法のおかげだよ』


 僕もフォローを入れておく。魔力で力を強化できるといっても、今の僕には限度がある。強化魔法なしなら避けられる可能性もある斬撃飛ばしか、2、3回攻撃するかだった。


『マルドゥク、次の魔物が来るぞ。こちらは粗方作戦を立て終わった。ギーラ達が来たら、シミュレーションを頼む』

『はーい』


 次は数は多いけど、上位種じゃない。油断はできなくても、余裕は持てる。

 ブリュノさんの方も、だいぶ魔物化した体を制御できているようで、今はほぼ攻撃が止んでいる。


 樹上からワイルドモンキーが9体と、地を走るブラックボア12体。

 シミュレーションの時間を確保したいし、魔力はブリュノさんが補充してくれる。せっかくだから、凍結斬りの練習も兼ねて、戦ってみよう。


 ある程度引き付けてから、まずは地上のブラックボアに向かって横なぎに剣を一閃。刀身の青と銀が通った軌道に同じ色の剣閃を一瞬残す。

 近い距離まで近づいてきていた個体は飛んで行った斬撃で、やや遠い個体は生成された氷に串刺しにされて絶命する。9体撃破。


 残った最後列の3体が仲間の死体を乗り越えて襲い来る。そこに、下から上へと斬り上げる。やや多めに込めた魔力に巻き込まれ、塔のように空を目指して生成された氷に閉じ込められるブラックボア3体。これで、地上は片付いた。


 上へと伸びる氷を駆け上がり、樹上から迫りくるワイルドモンキーに向かって宙返りしながら剣を振るう。弧を描いて生成される斬撃と氷によって4体のワイルドモンキーが倒れた。


 ブラックボアと比べて、動きが曲線的なワイルドモンキーは少し捉えにくい。

 それでも残った5体のうち3体は氷がかすって地面に落下。作戦は立て終わったらしいから、この3体は兄ちゃんに任せる。

 無傷の2体はまだ空中にいる僕に向かって、同時に攻撃してきた。普通なら踏み込みの勢いもなしに空中で体勢を大きく変えるのは難しい。でも、僕にはタラリアがある。虚空を踏みしめ、しっかり力の乗った斬撃を放ち、サクッと刀で仕留めた。

 体勢を整えて、トンっと地面に着地。


「これは……! まさしく蒼銀の軌跡! マルドゥク、お前が……? その刀はどうしたんだ? さっきは持っていなかっただろう?」

「あ、父さーん。待ってたよー。この刀はヘーゼルさんに作ってもらったのー。ちょっとしたら、また魔物が襲ってくるから、代わってー」


 父さんとギーラ達が到着していた。ちょっと離れた場所で戦いを眺めてたみたいだ。声が届くようにちょっとだけ声を張り上げ、手を大きく振りながら答える。

 次の魔物は、ホワイトシープ4体、ゴブリン7体、ジャイアントスパイダー3体だ。ホワイトシープは使い魔にしよっと。


「えーと、マルドゥク。いまいち状況がつかめてないんだが……」

「村長。説明に時間食って魔物に隙をさらすより、魔物が来たらともかく倒す、でいいだろ? あと、オレ、まだちょっと怒ってるからな。せめて、今くらいはマルの言う通りにしてやれよ」

「どうしたんだよ、ギーラ。父さんとなんかあったの?」

『フェン、後で話す。――私も怒ってる。ちょっとどころじゃなく、な』


 言うなり、周囲が霜で覆われ、真っ白になる。

 ひぇぇ。ホントにめちゃくちゃ怒ってる。

 先見の明って未来の状況が見えるけど、僕の中にいるヘーゼルさんの気持ちとかは分からないからなぁ。僕が一番いいと思った未来でも、ヘーゼルさんの怒りを解くことはできなかったみたいだ。

 というより、先見の明で見た未来のいくつかは、余計にヘーゼルさんを怒らせちゃったんだろう。攻撃を防ぎ続けているうちに、はずみでギーラとプリシラが大ケガを負ってしまう未来とかもあったから、無理もない。


「こんなに怒るって、何があったか気になるんだけど。やっぱり先に説明を――」


 はっ。兄ちゃんは、僕に危害を加えようとした奴は髪を全部燃やすと言っていた。実の父親だから大丈夫、なんて高を括っていたらダメだ。兄ちゃんは実害がなくてもやると言ってたくらいなんだから。

 何とか兄ちゃんが怒らないような伝え方を見つけて、父さんの頭髪を守らないと! せっかく、僕と目を合わせてくれるようになったんだ。頭の眩しさに僕の方から目を逸らしてしまうような事態は避けないと!


 まずは、時間稼ぎだ。せめてこの状況が収まるまでは、知らないままでいてもらおう。


「兄ちゃん! 僕達は、非常に重要なミッションに挑もうとしている! そうだよね!?」

「あぁ。そうだな。これは、俺達の使命に関わる戦いだ」

 神妙な顔で力強くうなずく兄ちゃん。

「今は他のことに気を取られてる場合じゃないよ。全力を尽くそう!」


 ともかく、父さん、ギーラ、プリシラの3人に普通の魔物の対処を任せ、暴食樹人(グラトニートレント)の対策を固めることになった。


 ◇


『ブリュノさん。本当にいいの?』

『ああ。この作戦がいい。私はもう死んでいるんだ。いつまでもこの世界に留まるべきじゃないし、私の生に意味はなくとも、私の死に意味を持たせてもらえる。私にとって、一番納得できる結末だ』

『一応、念を押しておく。宿主に宿ったまま、宿主が死んでも他の何かに憑依するだけ、ということもある。そうなったら――』

『根拠があるわけじゃないですけど、大丈夫だと思います。死にきれないのは未練を残しているからだと言いますし、今回はちゃんとこの世を去れる気がするんです』

『分かった。始めよう』


 この作戦では、僕、ヘーゼルさん、兄ちゃんの順で動き出す。

 まずは僕だ。去年聞いた精霊術師さんの歌を思い出しながら歌う。


 三日月熊(クレッセントベア)との戦い以来、この精霊術らしきものは使っていなかった。もうハンノキの木刀はない。不安だったけど、ちゃんと願いは届いた。

 風が渦巻き、木の葉を舞い上げる。範囲を狭めて、暴食樹人(グラトニートレント)の根元に集中させる。


 次はヘーゼルさんだ。風の渦巻く場所に水を発生させ、深く大地に張り巡らせた根から土を引き離していく。


 ブリュノさんがこの世を去ることを選んだのは、体の制御は奪えても森の養分を吸い取るのを止められなかったからでもある。どうしても普通の木の何倍も栄養を必要とするらしい。

 それはきっと他の木に乗り移っても続いてしまう。そうやって生き続けるのは、ブリュノさんの望むところではなかった。


 ヘーゼルさんの魔法が始まっても、まだ僕には役割が残っている。

 兄ちゃんの魔法が完成するまで歌い続ける。こんなときは葬送曲(レクイエム)とかが良いんだろうけど、僕が知ってる歌はこの豊穣を願う歌と肉の歌しかない。


『ブリュノさん。ごめんなさい。僕、相応しい歌を知らなくて』

『そうなのかい? 私は君がこの場面に相応しい歌として、この歌を選んでくれたんだと思ってたよ。豊かな未来を期待する歌。私はこの歌で送ってもらえて、とても嬉しい』

 そう言ってもらえるとは思ってなかった。ブリュノさん、理知的で優しい人だ。


 暴食樹人(グラトニートレント)の根が地面から引き剥がされ、強風に舞い上げられて浮上する。


魔法威力増強(マナブースト)!』


 ブリュノさんの強化魔法を受けてから、兄ちゃんの呪文の詠唱が始まる。ここからは。ただ風を起こすだけじゃなく、兄ちゃんの魔法の補助もしていく。


 ――我、万物に宿る精霊達に願い奉る――


 無詠唱の兄ちゃんは、普段詠唱することはない。でも、これから使うのは新しく組み立てた初めて使う魔法で、魔力の動かし方が分からない。だから、呪文を詠唱して、自然と魔力が流れていくようにする。


 すべての精霊に呼び掛けているけど、複数属性の精霊さんの力を借りる魔法っていうのは、ほぼ失敗するそうだ。各精霊さんの力加減が上手くいかないためらしい。

 僕の歌でその辺りの調整をする。三日月熊(クレッセントベア)のときは、風以外の精霊さんも力を貸してくれて、ローストベアまで焼き上げてくれたんだ。きっと大丈夫。


 ――命の輝き 満ち満ちて

衰え知らぬ 彼の者に

この世の(ことわり) 知らしめん

すべてのものは 変わりゆく

栄華極めし 強者にも

時は待たずに 進むもの――


 この部分はコルさんの使ってたミルクをヨーグルトに変える魔法と実は同じ。暴食樹人(グラトニートレント)には、養分をたっぷり含んだ腐葉土となってもらう。


――猛き獣の 体さえ

小さきものの 糧となり

(かばね)さらして 朽ち果てん

すべてのものは 循環す

大地に還りし 死者どもも

真白き命 紡ぐ糸――


 ただ変質させるのではなく、新たな生へとつながる死を与える魔法。ヨーグルト作成魔法としては威力過多だったとはいえ、さすがにそのままじゃ威力が足りない。威力を増すためと、より詳しくイメージを伝えるために呪文を足してある。

 それに応じて魔力の消費も大きくなっているはず。その分はブリュノさんが、何度も魔力分与(マナシェアリング)で魔力を補充してくれている。『魔力転換で自身の体力を魔力に変えた上でできるから、一石二鳥だ』と言っていた。言葉通りに実行しているのは、本当にこの結末に納得しているからなんだろう。

 僕も歌で精霊さん達に兄ちゃんへの協力を呼び掛ける。周囲の魔力が流れていく。魔力の総量は足りていそうだと精霊さんは判断したのか、兄ちゃんの杖の先に集まり、制御を手伝っているようだ。


――諸行無常は 世の定め

彼の者ついに 旅立てり

輪廻の環へと 導かん

未来をつなぐ (しるべ)たる

歩んだ道に 尊敬を

新たな生に 祝福を――


万物流転(パンタレイ)!」


 杖を掲げて放った魔法を浴びて、暴食樹人(グラトニートレント)の体がボロボロと崩れていく。湿り気のある土が落ちてくる。上手くいったみたいだ。僕の歌もここで終わりだ。


献身(ディヴォーション)


 最後に、ブリュノさんの魔法が僕達全員にかけられた。兄ちゃんが目を見開く。

 残った魔力をすべて僕達に譲って、ブリュノさんは旅立っていった。

 「仰々しい呪文」とだけ書いても、イメージが湧かないかな? と思って、呪文を書いてみました。思っていた以上に考えるのが大変だったので、たぶん以降は書かないです(苦笑)

 「大げさな呪文」とか「長々とした詠唱」とか書いてあるときは、この話に出てくるような呪文を唱えてるんだなー、と思っていただければ。

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