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第15話 良貨で悪貨を駆逐せよ

「その通りだ。杖の扱いも覚えておけ。魔法に関する能力を伸ばすには向いている武器だ」

 ワナワナと震え始める兄ちゃんに、ヘーゼルさんは言葉を重ねる。


「落ち着いて聞け。お前が杖を使いたくない理由は、マルドゥクから聞いた。私も、あんな杖を弟子に使ってほしいとは思っていない」

 今は、白の体の一部を素材に使った杖が良い杖だとされている。兄ちゃんは、そんなおぞましいものを使いたくないから杖はいらない、と言っていた。


「じゃあ、なんでこれを渡す? 将来良い武器を手に入れられないなら、使えるようになっていても無駄だろ」

「考え方を変えてみろ。夏の終わりにその手の杖を持った魔導師がいただろ。でも、杖の性能は大したことなかった。今はろくな杖が出回ってないんだ。その中でマシなのが白を使った杖だから、それが持て囃されているだけだ。違うタイプの杖を使って活躍する者が現れれば、そちらに注目が移る」


「つまり、性能の良い杖で白を使った杖を淘汰してしまえってことか。で、性能の良い杖の当てはあるのか?」

「私が使ってた杖は、これなんだが」

 言いながら、氷晶魔杖(クリスタルロッド)を作り出して見せる。

「魔力で作り出す杖よりも、普通に買える杖の方が普及させるには良い。今渡した杖も性能は十分良いが、性能を一般の使用者が実感できるかは分からない。気長に試行錯誤して作りつつ、お前は魔力で杖を出せるように訓練しておく。魔力を物質化する訓練にもなるしな。どうだ?」

「結局、魔力で作った杖が一番性能が良かったら?」

「それでも構わない。最高の性能を求めるなら魔法の腕を磨き、それなりで妥協するなら買うようになるさ。白を使った杖は高い。高い金を出して、それなりの性能しかないものを買う奴は多くないだろう。同程度の性能の安い杖さえ用意できれば、駆逐するのに十分だ」


「兄ちゃん、僕も賛成なんだ。ヘーゼルさんに魔法陣のことを教わって、特別な効果を付けた装備品を将来出すお店の商品にしたい。頑張って良い杖作るよ!」

 体の制御を返してもらって、僕からも説得する。

 兄ちゃんにお守りとグローブを作ってから、魔法陣を仕込んだ武器や防具なんかを将来のお店の商品の1つにしたいと思ってた。

 商売になって、僕と同じ白を助けることにつながるなら最高だ。その商品を、兄ちゃんが宣伝してくれると助かる。


 でも、兄ちゃんは、眉間にシワを寄せて渋い顔になってしまった。

「話は分かった。でも、ヘーゼル。お前、杖術スキルないだろ。何を教えてくれんの?」

『甘えるな。プリシラを見習え。私が弓を教えられなくても、練習を続けている。それに、武器としての扱いではなく、魔法の補助具としての使い方なら教えられる』

「――お前が杖じゃなくて、剣を武器として選んでいた理由は? お前は魔力で杖作れるのに、杖術スキルを覚えるほどには使わず、剣術のスキルの方を伸ばしていただろ?」

『最初に持った武器が剣だったという単純な理由もあるが、実質的な理由は1人で戦っていたからだ。近接攻撃用の武器としては杖よりも剣だ。遠距離から魔法を撃ちまくって殲滅すればいい場面では杖を、敵がある程度近付いてきていて直接攻撃も考慮すべき場面では剣を選択していた。結果、杖は魔法の補助具としてしか使っていなかったから、杖術スキルは獲得できなかったんだろう。お前は1人で戦うわけじゃないだろ? 前衛を務め、近付いてこようとする敵を抑えてくれる仲間がいる』

 

「――少し、考えさせてくれ。空間魔法を使って戦闘中に武器を換装することも可能だから、杖は遠距離だけって使い方もある。今までは、中距離と近距離の戦闘を魔力効率の良い魔法剣術でこなすスタイルを考えてたから」

『私と同じ戦闘スタイルだが、それがお前の理想なのか? ――はっ。そうか。私に憧れていたのか!!』

「おいッ! んなわけねぇだろ!!」

 そうだったのか。父さんに憧れて、斬撃飛ばしの練習を重点的にさせてもらったことのある僕としては納得するしかない理由だ。


「兄ちゃん、実はヘーゼルさんのこと大好きだったんだね」

「オレ、師匠の魔法剣術あんまり見せてもらってないけど、そんなにカッコいいのか? フェンが憧れるほどか~。見てみたいな」

『良かったね、ヘーゼルせんせ。フェンが先生の戦闘スタイルを継いでくれそうで』

「違うっつってんだろ、お前らーーーー!!」


「そういうことなら、杖はヘーゼルさんと同じように遠距離のときだけだね。魔法の性能強化に特化した杖を作れるように頑張るよ」

 兄ちゃんは否定したけど、きっと照れてるだけだ。兄ちゃん素直じゃないところがあるから。

 叫んで体力を消耗してそうな兄ちゃんにハイポーションを差し出し、優しく声をかける。兄ちゃんの夢を潰す気はない。宣伝は無理のない範囲でいい。


「マル。本当に違うから。俺はヘーゼルが魔法剣術使ったところを見たことないし」

 兄ちゃんの言葉に今までを思い返す。ヘーゼルさんが魔法剣術らしきものを使ったのは、僕の記憶にある限り、魔女蜘蛛(ウィッチスパイダー)を倒したときくらいだ。あのときは、兄ちゃんはいなかった。

 じゃあ、どうして杖を使うことを渋っているんだろう。


「――悪いけど、マルが商人になる前提の話なのが気に食わない。ずっと一緒に戦って欲しいから」

『ふっふっふ。それについてはマルドゥクと条件を詰めているところだ。私の技術協力の代わりに、私のしたいことに協力するのと、製造や販売を任せられる人間を見つけることを条件として提示している。マルドゥクは納得してくれていないが』

「だって、ヘーゼルさん、何に協力したらいいのか、はっきり教えてくれないし。それに、別の人が商品作ったり、売ったりするんじゃつまらないよ。人件費だってかかっちゃう」


 納得できないのは当然だ。ちょっと膨れつつ、反論する。

 人を雇うっていうのは大変なことだ。製造を任せるなら、結構な技術がいるし、魔法陣関係の秘密が流出しないように信用できる人を見極めなきゃいけない。

 販売だって簡単じゃない。接客だけじゃなく、商品性能をしっかり把握してなきゃダメだ。しかも、店主が留守がちになるなら、臨機応変な対応力も求められる。

 簡単にそんな人材を見つけられるわけがない。


『手が空いてるときは、製造も販売もやっていい。新商品の開発や素材の仕入れに特化するのも、それはそれで面白いかもしれないぞ。考えてみてもいいんじゃないか? 私としては、各地を飛び回って欲しいんだ。ずっと木に宿っていたから、他の場所を見て回りたい』

「しばらくは4人で冒険者になって活動するつもりだから、そのときにいろんな場所を見て回るんじゃダメなの? 僕はお店を出せたら、商売に専念したいんだ。素材の仕入れは、兄ちゃん達が冒険者続けるなら、持ち込んでもらえたら助かるかな」


『――こんな感じで、話がまとまらないんだ。本格的に動き出すのはまだ先だから、冒険者活動を始めてから決めれば十分だがな』

「ヘーゼル、お前、結構ずるいのな。ちゃっかり自分のしたいことにマルを巻き込みやがって。でも、お前の出してる条件なら一緒に活動できそうだし、悪くない。とりあえず、杖を魔法の補助具としては扱えるようになっておく。マル、この杖の性能を教えてくれ。ついでにヘーゼルの杖の性能も」

「兄ちゃんが、ヘーゼルさんの味方する……」


 兄ちゃんがヘーゼルさんの条件の方に賛成するから、ちょっと面白くない。でも、宣伝に協力する気にはなって欲しいから、性能はちゃんと教える。


 黒羊角の杖

 先端に黒雄羊(ブラックラム)の角を配したチェスナット製の杖。

 材料:黒雄羊(ブラックラム)の角,チェスナット

 付加能力:魔法威力向上、魔力成長量微向上、魔法制御力微向上、魔法防御力微向上

 潜在能力:なし


 氷晶魔杖(クリスタルロッド)

 魔力で生成された杖。水魔法の威力を大幅に上げる効果を持つ。作成者が魔法を解除するか、維持に必要な魔力がなくなると消える。

 付加能力:水魔法威力大向上

 潜在能力:消費魔力半減(要水魔法≪上≫以上)、二重詠唱(要無詠唱)


 ついでに、夏の終わりに会った魔導士が持っていた杖の性能も教えておく。

 血濡れの杖

 人の血を染み込ませた木材で作られた杖。弟を想う兄の魂が宿っている。

 材料:トネリコ、血液

 付加能力:魔力向上

 潜在能力:魔法威力向上(要ザッコ=ダィーフによる魔法発動)



 黒羊角の杖は先端に羊の頭を掘り出してあり、そこから2本の角が伸びている。


「見た目が少し悪役っぽいんだよなぁ。まだ杖本体と羊の頭が黒くないからいいけど」

「おぉ! 兄ちゃんが見た目を気にしてる!」

『良かったな。これで広告塔になってもらうのも問題ない』

「おい。ひょっとして、俺にダサいの禁止とか言ったのって、杖の宣伝する奴の見た目が悪いと困るからか?」

『いいや、お前のためだ。思っている以上に見た目で判断されてしまうことは多いぞ。オシャレになれとは言わんが、最低限のレベルはクリアしておいた方がいい』


 兄ちゃんは、まだ疑いの目で見てる。実際、宣伝のためっていうのも理由の1つだ。でも、ヘーゼルさんの言う通り、1番は兄ちゃんのため。気にしてないみたいだけど、ギーラに「一緒に歩きたくない」って言われるような見た目じゃ損する。


 ちなみに、今日も3回ほど着替えに帰らされてた。

 結局町の古着屋さんでは何も買わなかったから、兄ちゃんの服は基本的に村の誰かからのお下がりだ。僕みたいに白1色だけって制約があったりすると買うこともあるけど、村の子供はできるだけお下がりで済ませている。普通は地味な服ばかりなんだけど、町に行っている間にちょっと背が伸びたからと、昨日もらった服が一癖あるものばかりだった。

 ショッキングピンクのパンツとか、ヒョウ柄のシャツとか、熊さん柄のセーターとか、誰が着ていたんだろう。選び方を間違えると、だいぶインパクトの強い格好になってしまうラインナップだった。

 もちろん、普通の服も混じってる。でも、適当に目についたものを着ちゃう兄ちゃんでは、コーディネートに失敗してしまうみたいだ。

 僕が翌日用に用意されてる服をコーディネートし直すのは禁止されてしまったから、自力で頑張ってもらうしかない。


 兄ちゃん、頑張って。でも、どうしてもダメだったら、戦闘用の服も僕が作ってコーディネートしちゃおう。

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