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第14話 続・並列思考

 兄ちゃん達が帰ってきて、4人でヘーゼルさんの修業を受けることになった。

 修業を始める前に、自分の今の状態を把握しておいた方が良いからと、兄ちゃんが鑑定で見た結果を1人1人に教えてくれた。

 以前は頑なに教えようとしなかったのに、どういう風の吹き回しだろう。


 プリシラと2人でヘーゼルさんの修業を受けている間に僕のスキルは3つほど増えていた。才能系スキルの並列思考と、技能系スキルの二人羽織、水魔法≪下≫。

 二人羽織は、体の制御を手放しているときでも一部のスキルの使用が可能になる、というもの。といっても、先見の明、計算機(カリキュレーター)、目利きなんかは結果が僕の脳内に浮かぶタイプのスキルで、このスキルがなくてもヘーゼルさんも見ることができていた。剣術の天才とかは個人の技能習熟を助けるスキルだから、対象外だろう。騎竜術は使い魔の黒瑪瑙地走竜(オニキスラプトル)で試してみたけど、対象外だった。精霊親和力強化は効果がよく分からないから、対象なのか確かめてみることもできない。

 結局、ヘーゼルさんが体を動かしてる時でも料理術でおいしい料理を作れるくらいしか活用法が分かってない。


 プリシラも3つスキルが増えてて、才能系スキルの並列思考、技能系スキルの水魔法≪下≫、風魔法≪下≫。


 ついでにヘーゼルさんも、才能系スキルの並列思考、技能系スキルの二人羽織。ついでに、風魔法≪下≫が≪中≫に上がってた。

 ヘーゼルさんの二人羽織はかなり使える。僕が体を動かしてる時でも、魔法が撃ち放題だ。考えてみれば、ずっと僕が体を制御したままなのに次々に氷塊を作り出していた。



 で、スキルを把握したうえで、ヘーゼルさんから各自できるようになりたいことや習得したいことを聞かれた。

 僕は魔法での加工や、装備品とかに特別な効果を持たせるための魔法陣についての理解。それから、父さんみたいになりたいから、剣術。

 プリシラは弓術、サポート系の魔法。それから、黒瑪瑙地走竜(オニキスラプトル)の騎乗訓練。

 ギーラは剣術、体術、魔力による身体能力の強化と実戦での立ち回り。


 問題は、兄ちゃんが並列思考を習得したいと言い出したことだ。兄ちゃんには無詠唱、二重詠唱と並列思考と相性のいいスキルが揃ってるかららしい。

 理由は納得できるものだから、応援したい。けど、あの修業をやるってことは……。


『魔法における基本属性と派生属性の――』


 ヘーゼルさんが講義をする場合、僕とプリシラには聞こえちゃうんだよね……。

 しかも、兄ちゃん達も加わったからって本格的に魔法の授業を始めたから、聞き流すわけにもいかない。たまに、しれっと僕の教えてもらいたい魔法陣のこととかも出てくるから、なおさらだ。

 希望に沿った授業をしてくれると期待して答えたけど、修業に手を抜かないように利用されている気がする。


 兄ちゃんは勉強は好きだから生き生きとしてるけど、ギーラは実技の修業だっていうのに講義を聞かされて、目から光が消えている。


「基本属性は火、風、土、水、光、闇の6属性。派生属性は、その名の通り基本属性にアレンジを加えて派生させたもの。生まれつきの相性で使えることもある。後天的に習得するには、まず元になる基本属性をある程度使えるようにならないといけない」


 あ、兄ちゃん、氷粒落とされた。


「何すんだよ!」

『今は問題を出してないぞ。1人だけ理解してればいいわけじゃない。他の子の勉強を邪魔しないように』

「おう。悪かった」


 兄ちゃんが素直だ。明日は雨が降るんじゃないだろうか。


『マルっ! そういうこと考えてると、今すぐに雹が降るから!』


 そうだった。


 つい、いつもの癖で、上空に向かってハンノキの木刀を一振り。雹の落ちてくる軌道を変える。そのまま、なし崩しに氷を避ける訓練に移行する。

 しかし、講義がそのまま続いてるから、並列思考の1つをそちらに割かないといけない。氷を避けることに全神経を集中できない。あっという間に氷が当たる。


『マルドゥク、無詠唱の種類は?』


 しかも、兄ちゃんとギーラだけにテストをすればいいのに、僕にまで問題を出してくる。


「僕やプリシラみたいな一見無詠唱に見えるけど、実は意思伝達とかで言葉によらない詠唱を行ってる疑似的な無詠唱と、兄ちゃんやヘーゼルさんみたいな無詠唱のスキルによる本当の無詠唱がある。2つの違いは詠唱時間を必要とするかどうか」

『では、フェン。私とお前の無詠唱の違いは分かるか?』

「推測だけど、俺のは全部自力で魔力を動かして魔法を発動させてるのに対して、お前のは呪文を唱えた場合と同じように自然と魔力が動かされるようになってる。だから、効率が良い」

 答えながらも、魔法でフォレストラプトルを仕留める兄ちゃん。


「兄ちゃん、答えながら魔法発動できるなんて、もう並列思考獲得できたんじゃない?」

 そうだったら、この訓練とサヨナラできる。ギーラは並列思考は要らないって言ってたし。

「いや、まだだ。慣れてるから何も考えなくても簡単な魔法なら発動できちゃうんだよ」

『――負荷が足りないか』


 嫌な予感のする一言だ。

 案の定、少し考えてからヘーゼルさんは言った。


『よし。フェン、お前も何か知ってることを教えろ。教わるよりも、教える方が色々考えるからな』

「それ、お前にテストしてもいいの?」

 ヤバい。兄ちゃんが乗り気だ。

『もちろん。気が散ってそうだったら、遠慮なく問題を出してくれ』


 ギャーーーー。ヘーゼルさん1人でも大変なのに、教師が2人に増えた。


 ◇


 疲れた。体はそれほどじゃないけど、精神的に疲れた。

 兄ちゃんとヘーゼルさんはなぜか元気だ。


『フェンさんは真面目なんだと思ってたのに、意外と変なこと教えてくる』

「炎色反応に、燃焼による繊維の種類の見分け方に、部位による肉質の違いブラックボア編くらいしか教えてないけど。変なことじゃないだろ?」

『ヘーゼルさんの授業がせっかく魔法関係のになったのに、何に使うか分からない知識ばっかり』

「あー。急に言われたから、あんまり考えてなかった。魔物の種類と特色とか、習得してみたいスキル紹介とかの方がいいか?」

「肉の解説は続けてくれよー。肉食べるときにバッチリ使える知識じゃん。キラーベア編、期待してるぜ!」

 うん、料理のときにも使える知識だね。他の知識は何に使うか思い付かないけど。

『私は今日みたいなのがいい。――マルドゥク、これ燃やしていいか? 確かめてみたい』


 ヘーゼルさんは、勝手に二人羽織で僕の手だけ動かしていたかと思うと、麻糸、絹糸、毛糸、蜘蛛の糸の4つを取り出していた。燃え方が兄ちゃんの言っていた通りか確かめたいらしい。

 もったいないからダメと言っても、引き下がってくれない。仕方なく、短くなって使いにくくなった糸を差し出す。


 麻糸は紙が燃えるような匂いがして、パッと燃え尽き、灰色の灰を残した。

 絹糸と毛糸は縮れながら燃え、黒い塊が残った。麻糸よりも燃えるのには時間がかかって、髪の毛が焼ける匂いがした。

 蜘蛛の糸は燃えるというより、溶けるような感じで、燃え広がらない。

 兄ちゃんの言ってた通りだ。

 僕は目利きで何の糸か分かるから、燃やしてみる必要はないけど。


 一方、ヘーゼルさんは楽しそうに観察していた。

 炎色反応も試したいみたいようだけど、都合よく銅とかナトリウムとかの金属があるわけじゃない。というか、兄ちゃんの講義に出てきた金属のほとんどに聞き覚えがない。ストロンチウムってどんな金属?


「師匠も意外とガキだな。はしゃいじゃって」

『何が面白いのか分からない……』

「わりぃな。俺も割りとそうだけど、知らなかったことを知れただけで楽しい奴もいるんだ。――そうだ。プリシラ、渡し忘れてたけど、これ。俺を助けるために頑張ってくれたお礼。改めて、ありがとう」


 空間魔法から苺とリンゴを取り出してプリシラに渡す。目利きで苺って名前と甘酸っぱい味がすることはすぐ分かったけど、苺は初めて見た。プリシラも初めて見るみたいで、恐る恐る口に運ぶ。

 口に入れて一噛みした途端、笑顔が零れた。気に入ったみたいだ。

 いいなぁ。僕も食べてみたい。プリシラの表情からすると、相当美味しいんだろうな。


『フェンさん、ありがとう! 甘くて、ちょっと酸っぱくって、すんごい美味しい! 何だかフェンさん、雰囲気ちょっと変わった? 前より意志疎通がすんなりできるの』

「そうか? あんま変わってないつもりだけど。――名前、呼び捨てでいいよ。俺だけ、さん付けってのも変だし」


 前はギーラ相手だとやたら張り合ってたし、プリシラとはあんまり積極的に接しようとしてなかった気がする。今の兄ちゃんは、そういうピリピリしたところがなくなったと思う。

 意志疎通がスムーズになったのは、それが理由かな。


 兄ちゃんは、続いて僕の方、というかヘーゼルさんの方を向いた。


「おい、994歳。いつまでも童心に返ってはしゃいでないで、落ち着け。――これ、お前へのお礼だから」


 最後の言葉は目を逸らして言った。ヘーゼルさん相手だと、まだちょっと素直になりきれないみたいだ。

 渡されたのはヘーゼルナッツが入った袋。目利きで見ると大体半分くらいは、植えたら芽が出る可能性があるみたいだ。


「フェンーーーー!!」

 ヘーゼルさんが僕から体の制御を奪って、兄ちゃんに抱きついた。よほど嬉しかったみたいだ。

「おい、止めろ! 抱きつくな! 離せ!」

 嫌がってはいるけど、そんなに強く引き剥がそうとしない。ヘーゼルさんとも仲良くする気になったんだろうな。


「うーん。この流れだと渡しにくいが、フェン、受け取れ!」

 せっかく僕が作った物を、ヘーゼルさんは兄ちゃんに投げて渡した。

 作製者としては、ちゃんと手渡ししてほしかったな。


 兄ちゃんは、反射的にキャッチしたそれを見つめた。段々と眦がつり上がっていく。


「おいッ! お前、どういうつもりだ! 俺に杖を使えってのか!」

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