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第11話 真実と信じてくれること

「はっ」


 意思伝達で呪文を唱えつつ、空中で準備されていた氷の槍を同じ高さまで飛び上がって、叩き切る。

 続けて、唱えていた呪文で落下する自分の足元に氷を作り出して足場にし、さらに高く飛び上がる。これで、下から打ち出された氷の弾は僕まで届かない。


 次は、僕の上から氷の塊が落ちてくる。空中で上手く姿勢を制御しながら、斬撃飛ばしで氷塊を粉々に砕く。

 さらに、落下していく僕に向かって氷の弾やら矢やら槍やらが次々と飛来する。蹴り飛ばして方向転換したり、氷刀で叩き切ったり、斬撃飛ばしで砕いたりしながら防ぎ、何とか無事に着地する。


「ふっ」


 地上から射出されるように飛んできた氷塊を叩き落して着地した後、間髪を入れずに短く息を吐いて後ろに飛び、前方から飛んでくる氷の矢を避ける。

 後ろに動いた先に落下予定の氷は、すぐさま氷刀を振るってはじく。

 これで、27手目を防いだ。


 開始前に予測しておいたのは、ここまで。先見の明で直近の未来を予測。


 次は、後ろから丸い氷の球が飛んでくる。振り返っていたんじゃ間に合わない。


 体の向きを変えつつ、左の方向へ横っ飛び。


 直後、雪がドサッと頭上から落ちてきた。見ると右に避けた場合にも備えてあったのか、周囲の結構広い範囲に雪が積もっている。


 また、僕の負けだ。

 でも、1つ分かったことがある。この訓練は必ず僕が負けるようになっている。


 よく考えてみたら当然だ。先見の明が見せる未来は、僕に憑依しているヘーゼルさんも見られるんだから。

 ヘーゼルさんは僕が予測した未来を知った上で、さらにその1手先か2手先を考えておけばいいだけだ。僕が事前に予測した未来まで進むと、その後は急に氷の球とか雪とか当たっても大したケガをしないものが飛んでくるのは、僕が対応しきれるか分からないから。


『ついにバレたか。で、どうする? この訓練、今後も続けるか?』

『続けて。少なくとも、他にもっと良い訓練方法が見つかるまでは』

『了解だ』

 ヘーゼルさんの返事はちょっと嬉しそうだ。


 兄ちゃんに負けたくないって思うようになってから、少し意識が変わった。それまでは、商人になるには戦闘能力はそんなに必要ないって気持ちがあったんだと思う。

 今も、そんなに頑張らなくてもって気持ちは消えてない。けど、魔法は無理でも、剣術とか、総合的な戦闘能力とか、意地でも何か1つくらいは勝てるものが欲しい。

 今でも料理の腕とか素材の加工とかなら勝てそうだけど、できたら父さんが一目置いてくれそうなものがいい。


 でも、ひとまず今日の修業はここまでだ。明日は2月14日。ギーラの誕生日だ。森を突っ切って町の南の草原まで行くことを、兄ちゃん達には手紙で伝えてある。

 プレゼントのローストベアの準備をしなきゃ。それから、最短で森を抜けられるように先見の明で予測して魔物に会わないルートを見つけたり、町で売ろうと思ってる物をカバンに詰め込んだり。色々とやることがある。

 売りたい物の量を考えると、僕は最低3往復はしなきゃだな。


 負けたくないとは思ってるけど、兄ちゃんのことが嫌いになったわけじゃない。会えるのは楽しみだ。プリシラだってギーラに久しぶりに会えるのをすごく楽しみにしてる。

 だけど、少しだけ胸に引っ掛かりを感じる。父さん達の関心は兄ちゃん1人に集まっている。

 兄ちゃんがいなかったら、少しは僕にも興味を持ってもらえる? ――考えるのはよそう。兄ちゃんのことは好きだ。楽しい気分で会いたい。


 ◇


『マル! 最近、無茶が過ぎない!? なんで、魔物引き連れて、突っ切ってるの!? 魔物に会わないルートを探すって言ってたのにー!!』

『魔物に会わないルートが見つからなかったから、仕方ないんだよ。後でまとめて倒せる程度の数しかついて来られないから、大丈夫』

 今は17匹ほどついてきてるけど、森を出るまでにほとんどが諦めて、最終的には8匹だけしかついて来ないはずだ。

 迂回路も検討したけど、魔物が1匹も付いて来ないルートが見つからなかった。一直線に脇目も振らずに進んで、8匹。このルートが、ついてくる魔物が1番少ない。


『マル、そのまま行くとワイルドモンキーの縄張りみたい! 10匹以上いるよ!』

『うん、知ってる』

『きゃー』

『ふふふ。マルドゥク、だいぶ私の弟子らしくなったな!』

『ヘーゼルさん、なんで嬉しそうなのー!? もうやだー』


 ちなみに、今、僕は両手がふさがってる。背中には大きなリュックを背負い、前でプリシラをお姫様抱っこしながら木の枝を飛び移って移動中だ。

 僕はワイルドモンキーよりも木々を飛び移るのはうまいみたいだ。追ってくる敵との距離が少しずつ開いていく。


 目的地までの到着時間を考えても、先見の明と計算機(カリキュレーター)の出した結論ではこれがベストなんだ。これなら、森を抜けるまで1時間を切れる。


 ちなみに、お姫様抱っことはいっても、プリシラはプリシラで大きなお弁当箱をお腹の上で抱えているから、全くロマンチックな感じはない。

 この体勢もプリシラとしては残念らしい。ごめんね。


 そんな魔物との樹上追いかけっこを続けることしばし、森の終わりが見えてきた。

 プリシラも途中で納得したのか諦めたのか、魔物の集まっているところを探るよりも兄ちゃんとギーラの気配を探して、助けを求めることにしたらしい。意識と視線が森の外に向いている。


『あ、見つけた! お兄ちゃーん! 魔物に追われてるの! 数は8! 迎撃準備お願いー!』

『えらいぞ、プリシラ。的確な状況判断と指示。サポート役に必要なことがちゃんと身に付いてる』

「さすが師匠。魔物8匹に追われてるのに余裕だな! でも、任せろ! 8匹くらいならオレとフェンだけでもどうにかなる!」

 あ、久しぶりのギーラの声だ。ちゃんと先見の明で見た通りに待ってくれたんだ。

『魔物はワイルドモンキー3、ジャイアントスパイダー2、ワイルドビー1、ブラックボア1、フォレストラプトル1。兄ちゃんはワイルドモンキーを。ギーラはジャイアントスパイダーをお願い。プリシラは魔法でワイルドビーを。ブラックボアとフォレストラプトルは僕が受け持つよ』


 指示を出し、兄ちゃんとギーラが構えてるのを確認しながら、草原に降り立つ。プリシラを下ろして、腰に差した木刀を抜く。振り向きざまに斬撃飛ばし。ブラックボアとフォレストラプトルをまとめて倒す。

 他の3人も特に苦戦せず、あっさり魔物を倒した。


「兄ちゃん、久しぶりー! ゆっくり話したいけど、まだ運ぶものがあるから、とりあえずこれ受け取って」

 そう、僕はあと2往復して素材を運ばないといけないんだ。

『マルドゥク、次はフェンを抱えて移動したらどうだ? 空間魔法に全部詰め込ませて帰ってくれば、1往復で済む』

「なるほど! ヘーゼルさん、ナイスアイディア!」

「マル、ストップ。まずは説明をしてくれ。それと、俺をお姫様抱っこするのは止めような」

 ついプリシラと同じように運ぼうとしたら、避けられた。


『ちっ。問答無用で抱きかかえて飛んでしまえばいいものを』

「ヘーゼル。お前、最初から俺を連れてけばいいって気付いてたな。焦ってるマルを見て楽しむな」

 兄ちゃんとヘーゼルさんは相変わらずだ。


 とりあえず、あと1往復だけで良いことが分かって余裕ができたので、ルートの再計算と予測。

 う~ん。やっぱり、魔物の活動がやや鈍い朝のうちに移動した方が、ついてくる魔物の数が少ないな。


「兄ちゃん、じっくり説明してキラーベア5体とワイルドビー6体の合計11体と戦うのと、すぐ出発してブラックボア4体とフォレストラプトル2体の合計6体と戦うの、どっちがいい? 行きで秘密基地までついてきちゃう魔物の数だから、僕達2人で倒すことになるけど」

「じっくり説明の方で」

 即答だった。敵の数なんて気にしないのか。兄ちゃん、意外とワイルドだ。


「マルの様子がちょっと変な気がするんだけど。いつもはこんなに無茶しないだろ。ヘーゼル、お前の指導のせいか?」

『冤罪だ。元から何かを売るとか、金を稼ぐとか、そういう目的がある時は暴走気味だっただろ? あと、お前を助けようとしてたときよりは正常な状態だ』

『フェンさん、マルはストレスが溜まってるんだと思う。村の人達は失礼だし、お肉を勝手に持っていこうとする子はいるし、倒した上位種の素材はいまいちだし、お父さんはフェンさんのことばっかり気にするし』

『修業もはかどるし、面白いから、私はこのままでもいいが。目的があるのは悪いことじゃない。どうせ目的を達したら、また気合の抜けた状態に戻るんだ。気にしなくていい』

「兄ちゃん、僕は頑張ってお金を貯めようと思ってるだけだから大丈夫だよ。皆、アブヤドに来てくれたら、僕も寂しくないから」

 兄ちゃんは困ったような顔で僕を見る。心配してるのかな。


『説明の仕方を変えよう。魔物を引き連れてきたが、別にマルドゥクは無茶をしたわけじゃない。昨日1日シミュレーションした結果、最短距離で森を突っ切るのが最も安全だと判断しただけだ。今、この森は魔物の数が急増している』

『移動中にマルがそんなこと言ってたね。でも、どうして魔物の数が増えてるの?』

『上位種出現の前兆だ。先見の明で既に予測も済ませている。今までほとんど見なかった種類の中から進化する個体が出る。時期は明後日以降、遅くても1週間以内だ』

「今までほとんど見なかった種類か。ワイルドモンキーかフォレストラプトルの上位種ってことか?」

「ワイルドモンキーは僕達が普段過ごしてた場所にいなかっただけらしいよ。フォレストラプトルの上位種、岩石地走竜(ロックラプトル)黒瑪瑙地走竜(オニキスラプトル)が出現するみたい。最近、秘密基地のお肉を狙って村の人達が森に入ってくることがたまにあるから、早めに対処しなきゃいけないんだ」

「なるほど。それだけの事態なら少々焦ってても仕方ないな」

 なぜか兄ちゃんが納得してる。別に焦ってないけど。今までの上位種より強めだけど、氷が弱点の魔物だから心配してないんだ。

 それに、岩石地走竜(ロックラプトル)なら丈夫な皮が、黒瑪瑙地走竜(オニキスラプトル)なら艶のある黒い皮と額の宝石が、それぞれ高く売れるそうだ。使い魔にして移動手段にする人もいるらしく、結構人気のある魔物らしいから黒雄羊(ブラックラム)よりずっと良い。

 ちなみに、竜の一種ではあるけど、乗れるようなっても竜騎士にはなれない。飛べる竜じゃないとダメらしい。


『マルドゥク、本当のことと信じてもらえることというのは、時として違うものだ。フェンにとっては、まだまだお前は自分が手を引いて引っ張っていくべき弟なんだろう。急に先を歩かれると特別な理由を探してしまうんだ』


 なんだか腑に落ちた。僕がずっと読み勝てさえすればヘーゼルさんの氷を避け切れると信じてたように。父さん達がヘーゼルさんは普通の人間だと信じているように。

 人は真実よりも信じやすい結論があったら、そちらに飛びついてしまうものなんだろう。


 兄ちゃんが本当のことよりも緊急事態で僕が焦ってるって理由で納得したのは、弟の僕を守りたいと思ってくれているからだ。


 知らないうちに張り詰めていた気持ちが緩んで、心の中にあった澱みが消えていく。やっぱり、兄ちゃんの近くだと安心する。

 僕は、ただ父さんに認めて欲しいだけなんだ。兄ちゃんを敵視する必要なんてない。

 だから、僕と兄ちゃんの関係は今まで通りだ。まずは、ちゃんと説明して本当にお金を稼ぎたいだけだってことを分かってもらおう。

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