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第5話 不穏な年明け

 今日から新しい年だ。

 いつもは兄ちゃんがお正月の遊びだと言って、お手製のカルタとか福笑いとかで遊んでくれるんだけど、今年は兄ちゃんがいない。

 プリシラに毎年どんなことをしてたか聞いたけど、特に特別なことはしていなかったそうだ。

 年が変わってから初めて会った知り合いにいつもより丁寧な挨拶をし、ちょっとだけ豪華なご馳走を食べる。兄ちゃん以外の人は、そのくらいしかいつもと変わったことをしないみたい。


「おはよう。今日はヘーゼル様にご挨拶に行くでしょう? そこの籠を持って行って」

 僕の顔を見るなり、母さんからそう言われた。

 今日は修業はお休みだから森に行く予定はなかったけど、どうしよう。保存のできそうな物なら小屋に置いておくこともできるけど、籠からは焼き立てのパンの匂いがする。たぶん、日頃の感謝を込めて、森の中じゃ調達しにくい食べ物を差し入れるつもりなんだろう。


『ふふふ。仕方ないな。今日も修業するか』

 ヘーゼルさんは楽しそうだ。修業の後はお腹が空くから、差し入れは無駄にならない。

 修業が嫌なわけじゃないんだけど、1月1日は家でゆっくりするものだと思ってた。何だか今年は新年らしい特別感がないな。

 プリシラは修業で構わないみたい。むしろ張り切ってる。僕も頑張るか。


 手早く身支度を整えていると、外が騒がしくなった。

 プリシラと僕は、いつも人に会わないタイミングを狙って森に行っている。騒ぎが起きてるなら収まってから出かけたいな。

 庭に出て様子を伺うと、村の人達と父さんが話していた。


 どうやら、新年のご馳走のために村の倉庫から食料を分けてもらおうとしたけど、ほとんど空になっていて食べ物がなかったらしい。今日の食事をどうしたらいいんだ、と父さんに詰め寄っている。

 村の倉庫は収穫祭前に満杯にしたはずだ。それぞれの家でも備蓄はしてあるはずだから、こんなに早く空になるはずなんてないんだけどな。


「うちには食べ盛りの子供もいるんだ。食べる物がないと困るんだよ。新年だからご馳走を食べれるって楽しみにしていたんだ」


 見つからないように物陰に隠れて、様子を見る。父さんに苦情を言っていたのは、僕より少し年上くらいの男の子を連れた父親だ。

 食べ物がないのはかわいそうだなと思ったけど、父子ともにだいぶ太っている。男の子の方は僕の倍以上の横幅がありそうだ。太ってるからって絶食するわけにはいかないだろうけど、食料がなくなったのには食べ過ぎのせいもあるんじゃないかって思っちゃうような体形だ。

 その親子以外にも、10人くらいの村人が今日のご馳走をどうしてくれるんだと口々に文句を言っている。


「村の備蓄は、緊急時のためのもの。基本的には各家庭で冬を越せるだけの備えをしておくことをお願いしているはずだ。まだ本格的な冬に入って1か月。なぜ、こんなタイミングで食料がなくなる? 皆、しっかりと備蓄し、計画的な消費をしてきたのか?」

 父さんも食料がなくなるには早すぎると思ったみたいだ。


 しかし、村の人達に落ち度があるのではと疑う言葉が気に障ったのか、予想外の言葉が返ってきた。

「私達はちゃんとしてたさ! 村の食料管理は村長の仕事だろ? 村での備蓄が不十分だったのをオレ達のせいにするな!」

「そういえば、村長の上の息子さんとギーラ君、冬が始まる前に町に行ったわよね? あの子達、町で売りさばくために食料を持ち出したんじゃない?」

「あの子達ならやりかねないわ。うちの子、ギーラ君に殴られたことあるのよ。村長の息子も、魔法が使えるのを鼻にかけて、私達のこと見下してそうだし」


「あの子達はそんなことはしない!!」


 言いたい放題の村人に腹が立ったのか、さすがに父さんも声を荒げた。兄ちゃんやギーラを疑う声に、僕ももう少しで出て行って文句を言うところだったけど、父さんが怒ってくれたおかげで踏みとどまれた。

 それにしても、ギーラが村の子供を殴ったって……?


『マル、お兄ちゃんは悪くないの。私、1年くらい前まで、村の子供達に見つかっては石を投げられたり、わざと足を踏まれたり、泥水をかけられたりしてたの。それで、お兄ちゃんが怒って村の子供達全員に1発ずつ』

 そうだったのか。それなら分かる。

 ギーラはプリシラをかわいがってるから、そんなことされたら許さないだろう。

 人の気配を察知できるようになってからは、会わないように気を付けてるから、今は嫌がらせはされてないそうだ。


「あの子達を疑うことは許さない。ひとまずは、我が家で保存してある分を分けよう。明日以降の食料については、後で対策を知らせる。それぞれの家での備蓄がこんなに早く底をついている時点で、あなた方の準備不足は明らかだ。対策には皆も協力してもらう!」


 そう宣言して、父さんは家の中に入っていった。

 修業で狩った魔物の肉を保存食に加工して蔵にこっそり置いておいたから、家の蔵はほぼ満杯だ。良い気分はしないけど、今日1日分なら十分いきわたるだろう。


『思った以上に早かったな。マルドゥク、部屋にあらかじめ書いておいた手紙が置いてある。村長に渡してやれ。内容は渡す前に読んで、納得したらでいいからな』


 ヘーゼルさんはちょっと呆れた様子だ。

 何か用意をしていたみたい。とりあえず、部屋に戻る。

 手紙を置いてある場所は、兄ちゃんの机の引き出しの中だった。

 引き出しの中はきれいに整理されている。筆記具、紙、木を削って作った物差しなんかが入っているだけだった。見たらまずそうなものは入ってなかったけど、勝手に開けちゃってごめんね、兄ちゃん。

 1番上の紙を裏返すと、ヘーゼルさんの筆跡で文字が書かれている。これが用意してた手紙みたいだ。


”マルセル=サラーム村長殿


 寒い日が続くが、いかがお過ごしだろうか。


 まずは、この手紙の不躾な内容を詫びておく。貴殿の村の運営に口を出すつもりはないのだが、少し気になることがあったため、失礼を承知で書かせてもらった。


 この村の者達は怠惰が過ぎるようだ。冬越えの準備をしている様子を見ていたが、真面目に取り組む者は一握り。他の者は申し訳程度に参加するだけで、他の者が余分に備蓄しておいてくれることを期待している。

 あの様子では、備蓄は冬の間に底をつくだろう。


 知っての通り、冬場の森は少ない食料を求めて凶暴さを増している魔物も多い。食料調達には並み以上の実力か優秀な索敵係が必要だ。

 急場をしのぐためであれば、私が氷室にして使っている洞穴で凍らせてある肉は持って行って構わない。ただし、荷車1台に載せることができる量までだ。誰かが解決してくれると村の者が思っているうちは、いつまでも問題は解決しないだろう。


 どうしても困ったときは、相談していただければ有料で譲るなりするが、貴殿が上手く根本的な問題を解決することを祈っている。


ヘーゼル”


『ヘーゼルさん、ひょっとして先見の明まで習得した?』

 この展開を読んでいたような手紙に、しばらく前から思っていたことを聞いてみた。

 降ってくる氷を避け切る修業、未だに全敗なんだ。僕よりも先まで未来を見ることができているんじゃないかって思って、気になってた。


『いいや。お前のようにスキルで未来が見られるわけではない。ただの推論だ。冬越えの準備中、お前達を除けば、村の者はほとんど魔物も狩らなければ、木の実も採っていなかっただろ? とても3ヵ月間分の食料には届かない。村の倉庫は割と広かったが、ざっと見たところ、村人全員の1か月か1か月半くらいの食料しか置いておけなさそうだった』


 本来なら各家庭でも備蓄をしてあるから、1か月分も余分に村で備蓄しておいてあったら問題なかった。でも、家で何も準備をしていなかったら、とても足りない。


『でも、狩りや採集で食料を集めてなくても、行商人さんから買って準備することもできるよ』

『あぁ。その可能性はあった。そうしたら、ただの取り越し苦労に終わっていただけのことだ。幸福な読み間違いだな』


 なるほど、確定的な予測ができていたわけじゃないけど、最悪に備えておいたってことだね。


『しかし、予想より早く食料を食い潰したな。日頃の暴食のツケは当人が払うべきなんだが……。現状では危険覚悟で森で食料を調達するしかないな。森に上位種でも出現していると危険だ。下手をすると死人が出てしまう』


 11月の始めに魔女蜘蛛(ウィッチスパイダー)を倒している。あれから2か月か。新しい上位種が出現しててもおかしくないのかな?


『普通、あの森の上位種は半年から1年に1度出現する程度だったんだが、最近やたら出現頻度が上がっているようだな。プリシラ、明日は森を探索。上位種を探すぞ』

『――えっ? あ、えっと。上位種?』


 そういえば、プリシラは話に入ってきてなかった。村の人達の様子を見てたときから何かを考え込むような様子だったけど、どうしたんだろう。昔の嫌がらせのことを思いだしてしまったんだろうか。


『ごめんなさい。ボーっとしちゃって。森に上位種が出現してないか調べるんだよね。分かった』


 ◇


 父さんにヘーゼルさんからの手紙を渡そうとしたら、蔵が満杯になっていたことについて聞かれた。

 正直に森で倒した魔物の肉を加工して置いてたと話したら、「知らないうちにヘーゼル様に食料を恵んでもらっていただなんて……」って膝から崩れ落ちてしまった。


 さらに、手紙を読んで、ますます肩を落としてしまった。

 とはいえ、他に策も見つからないみたいで、荷車を氷室まで運んでおくように頼まれた。父さんも後から来て食料を積み込むそうだ。

 父さん、元気出して。僕とプリシラが狩った魔物だから、ヘーゼルさんにそんなに迷惑かけてないよ。


『これは、最初から有料の方が良かったか?』

 あ、ヘーゼルさんもタダは嫌だったか。そうだよね。失礼な人達にタダであげるのは僕も嫌だ。


『うん。価格表作っとく?』

 いくらか分かったら、次に食料がなくなったときは、お金用意して買いに来てくれるかもしれないし、急いで作って氷室に貼っとくのもいいかも。

『――マルドゥク、私は食肉業者になったわけではないからな? 有料の方が気に病まずに受け取れると思っただけだ』

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