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第4話 フェンの日記(11)

 魔法歴983年12月29日


 今日は朝からマチルドさんに捕まった。昨日の話の続きをしたいらしい。

 年末ということもあってか、冒険者ギルドの依頼も少なくなっているから俺は構わないけど、ギーラは露骨に嫌がってる。こいつは本当に勉強が嫌いなんだな。


 しかし、マチルドさんがヘーゼルの弟子であるギーラを逃がすはずがない。「昔話とか何の役に立つんだよー」って文句を言いながらテーブルにつかされていた。

 場所は、いつもの食堂ではなくマチルドさん夫婦のプライベートスペースだ。朝食も用意してくれていた。


 熱をいれて話してると他のお客さんの迷惑になるからだろう。俺としてもその方がありがたい。

 昨日は食堂で話してたけど、他のお客さんから「マチルドちゃん、そこはもっと詳しく話してあげなきゃ」とか色々邪魔が入った。何なら他のお客さんまで語り出しそうな雰囲気だった。


 ともかく、昨日の続きだ。3つ巴の状態になった賢者大戦の話。



 水の賢者は成り行きで火の賢者の跡を継いで領地を守ることになったけど、まずは話し合いによる解決を試みようと、地の賢者と闇の賢者に会談を申し入れた。

 会談の場には、招集者である水の賢者が最初に到着し、次に地の賢者が到着した。その後、闇の賢者が約束の時間にやや遅れて登場。先に到着した2人が何やら会話しているのを見て、自身を謀殺する計画を練っていたと判断し、闇の賢者は即座に魔物を召喚し2人にけしかけた。

 ――って、闇の賢者、えらく短気だな。というより、わざと遅れてきて濡れ衣を着せつつ2人をまとめて処分しようとしたのかな?

 ちなみに、地の賢者が建国した帝国側の正史では、地の賢者はこのとき水の賢者を口説いていたらしい。ぶっちゃけまくりだな、帝国の正史。

 このエピソードから察せるだろうけど、地の賢者は女性だ。当時20歳。ちなみに、光の賢者と風の賢者も女性で、他の3賢者が男性だったそうだ。

 若い2人の賢者に比べ、闇の賢者は既に55歳。ちょっと仲間外れな感じはあったかもしれない。


 このとき召喚された魔物は、ケルベロスとラミア。両方とも地の賢者が倒したが、3者の間に話し合いが成立する余地はないことが明らかとなった。

 ――マチルドさんがウズウズしてる。

 気になるので話してもらったら、水の賢者は呼び出されたケルベロスを一目見て使い魔にしようとしたらしい。けしかけられたときの第一声は「お手!」だったそうだ。しかし、お手とお座りをさせるのに成功したあたりで、「彼の注目を独り占めだなんて! 許さないわ。この犬め」と地の賢者にケルベロスを始末されてしまい、闇の賢者に「次は猫で」とリクエストして去っていったらしい。

 おいッ。もしかして俺の魔法に三頭番犬業火(ケルベロスフレイム)ってつけられたのって、まさかヘーゼルの犬って意味か!?

 ……訂正して回ろう。



 3つ巴の状態では、大きな損害を出さずに勝たなければ、残った最後の1人との戦いで不利となる。

 人間中心で編成した統率のとれた軍を持つが、欠員の補充が容易ではなく、大胆な攻勢に出られない地の賢者軍。補充の容易な魔物で構成された軍勢を用意できるが、統率されていないため強大な力を持つ相手には決め手に欠ける闇の賢者軍。基本的に1人で戦うため、領地の防衛と敵地への侵攻を両立できない水の賢者。

 幾度もの戦いが繰り返されたが、状況に大きな変化はなく、3国が並立する状態が続くかに思われた。


 しかし、4年が経過した頃、状況が変化し始める。

 地の賢者が訓練のコストを抑えるため、少年兵を動員。水の賢者を攻める軍の前線に配置した。苦肉の策であったが、兵としての練度は明らかに低い彼らに、水の賢者は攻撃をしなかった。このとき、最前線の少年兵を飛び越して本陣を攻撃するために放たれたのが、無数の氷塊を降り注がせる魔法、氷晶隕石群(クリスタルミーティア)だったそうだ。

 地の賢者軍は大打撃を受けたものの、水の賢者攻略の糸口をつかむ。年端もいかない子供だらけで構成した軍を差し向けられたくなければ、投降し、自身と結婚するように地の賢者は迫った。

 ――うへぇ。好きな相手への迫り方としては最悪じゃないだろうか。

 なお、水の賢者が少年兵に手を出さなかった理由は、教え導くべき少年に刃を向けることができなかったからだと言われている。


 魔物中心で軍勢を構成していた闇の賢者軍も情報をつかんで、水の賢者に対しては少年兵を軍に投入するようになった。

 水の賢者も大将を討ち取ることで相手を瓦解させようと闇の賢者の元まで乗り込んだが、現場に居合わせた闇の賢者の息子が父親をかばったため、断念。作戦は失敗に終わった。


 水の賢者の不利を感じ取った民は彼を見限り、安心して背中を見せているところに剣を突き立て、殺害。その首を闇の賢者に献上し、庇護を求めた。

 しかし、自分達の王を弑逆した者達を信用できなかった闇の賢者は、水の賢者領の民を地の賢者との戦いの最前線に投入。逆らう気を起こさないよう、見せしめの意味も込めて、水の賢者の遺体をバラバラにして領内の各地に埋めた。

 さらに、自身の領地と比較して水が豊かで、作物も実っていた水の賢者の領地に重税を課した。


 残るは地の賢者ただ1人。

 勢いづく闇の賢者軍だったが、地の賢者は水の賢者の悲報を聞いて激昂。苛烈を極める地の賢者の攻撃に、戦況は3年近くにわたって膠着した。


 この頃には、闇の賢者の領地も地の賢者の領地も荒れていた。闇の賢者は魔物を呼び出して食料にできたものの、魔物狩りはそれなりの強さがないとできないし、植物を食い荒らす魔物もいるため作物がどんどん採れなくなっていた。

 地の賢者は作物を魔力で育てることができたが、水不足から段々と実りが悪くなっていた。


 そんなとき、水の賢者の遺体を埋めた場所から水が溢れ出した。特に頭を埋めた場所からは大量の水が流れ出し、地の賢者軍が掘った塹壕に沿って流れ、川となった。

 水は、塹壕の外の危険地帯に立たされた少年兵を残し、塹壕に隠れた上官だけを押し流した。

 地の賢者はそこに水の賢者の意志を感じ、停戦を申し入れた。

 闇の賢者も、死後に起こした奇跡に感じるものがあったのか、停戦に合意した。

 こうして、統一まで終わらないと思われた戦争は終結した。水の賢者の元領地、現ラティーフ地方の状況も少し改善したようだ。



 これが世間で語られているところの賢者大戦だそうだ。

 なるほど。ヘーゼルは、ラティーフ地方の人々にとって死してなお自分達を救ってくれた王であり、英雄なんだってことは分かった。


 ◇


 魔法歴983年12月31日


 今日は大晦日。

 この世界ではそれほど特別な日って認識はないみたいだけど、1年の締めくくりの日だ。俺はこの1年を思い返していた。


 前半はいつも通りの長閑な日々だったのに、後半は色々あったなぁ。

 記憶に新しいせいか、特にヘーゼル関係のことがよく思い浮かぶ。


 なんで、俺はあいつには素直になれないんだろう。

 マルに無理やり憑依してきたこととか、たまに挑発してきたりすることとか、あいつを嫌う理由はある。

 でも、マルが生き残るためにも、将来の戦いで勝つためにも、あいつが味方なら助かることは確実だ。

 話を聞く限り、そんなに悪い奴でもなさそうだしな。

 魔法塾の講師の授業と違って、ギーラ達にあいつが教えた内容はちゃんと役に立ちそうなものだったから、あいつから得られるものが大きいだろうことも分かる。伊達に賢者と称されているわけじゃない。


 落ち着いて考えてみて、なんで俺があいつに素直になれないか分かった気がする。

 あいつが賢者で、さらにマルの師匠みたいになってて。俺の役割を全部取られたような気がしてたんだ。俺よりもずっと見事に俺がやりたかった役割を果たせるあいつに、嫉妬してたのかもしれない。


 異界図書館に収録されているプロメテウス様の使徒としての心得を思い浮かべる。


「ヒーローにならなくてもいい。目立った活躍をしなくてもいい。人間らしく生きろ」


 異界図書館とか、情報収集とか、戦闘向けじゃないスキルの取得を義務付けられてる俺達は、戦闘向きの使徒と比べるとやや弱い。

 だけど、ほんの些細なことでも未来を変える転換点になるには十分。例えば、ゲームの中で敵を攻略するヒントをしゃべる村人その1だって、最終的な勝利に貢献してる。

 そんな地味な活躍でいい。なんなら、全く活躍しなくても堕落して使徒をクビにさえならなければ、まだ先がある。

 目先の小さな勝利のためではなく、遠い未来の大きな勝利のため、誰も気に留めないような布石を打っていく。そのために、プロメテウス様の策の駒として動くのが俺達の役割。


 それでも、ユトピア行きっていう特別な任務を与えられて、今回の人生では特別な役割を担うことになるんだって思い込んでた。魂名がマーリンなんだから、今回の人生こそ賢者になるんだって。


 俺がやりたがってた役割はあいつが果たすんだとしたら、今生で俺に求められてる役割は、何なんだろう。

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