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第23話 フェンの日記(9)

 魔法歴983年12月5日


 朝起きると、「プロメテウスの伝言板」にメッセージが届いていた。


『今日は北東区の食料品店でヘーゼルナッツが割引だよ! 右から3つ目の袋がオススメ』


 ……プロメテウス様、ありがとうございます。魔力を強制的に消費させるために特売情報まで集めさせてしまって申し訳ありません。



 いつもなら、朝は早く起きて魔法の練習をしてるけど、昨日拡がった放出口は大丈夫だろうか? 今までは、少しでも痛みが出たらそこで止めて、慎重に拡げていた。昨日の魔法の威力は、ざっと見積もって今までの3倍程度。放出口もその威力に応じて拡がったはずだ。

 左の掌の方は痛みはもうない。右は多少痛む程度。


 枕元の燃え残ったお守りが目に入る。今日は魔法の練習は止めとこう。昨日の今日で、また暴走させるわけにいかない。

 マルが徹夜して作ったくれたのに、俺の軽率な行動でこんなになってしまった。ギーラに渡された方なんて、完全に燃え尽きてしまって跡形もない。

 この燃え残りにも効果が残っているか分からないが、これはギーラに持っていてもらおう。まだ寝ているギーラの枕元にお守りを移動させる。

 でも、このままでは村に帰れないし、誰か教えてくれる人を見つけ、何かしら学ばなくては。まずは、誰かに相談しよう。マチルドさんかジルさんが良いかな。


 身支度をして部屋の外に出ると、マチルドさんが飛んできた。


「フェン君! 大丈夫? 掌は痛むわよね? 今日は部屋に食事を運んで食べさせてあげるから、寝てなさい」


 食べさせてもらうのは恥ずかしすぎる。慌てて断った。

 掌の痛みはそんなにないと話すと、両手をとられ、マジマジと観察された。


「信じられない。本当に魔力がほとんど漏れ出てないわ。昨日並みの威力の魔法を恒常的に発動できると言うの? ――さすがは、ヘーゼル様の弟子ね」


 派手な魔法を使ったせいで、水の賢者だってバレてる。あいつは正体隠す気はないのかな?


「あの、ギーラはヘーゼルに弟子入りしたみたいですけど、俺はしてないんで――」

「えぇっ! 断られてしまったの? 理由は聞いた? お会いすることはできるんでしょう? お優しい方だから、諦めずにお願いすればきっと――」

「いえ、俺から断ったんです」

 マチルドさんは目を見開き、言葉を失ってしまった。


「それで、昨日の講師以外で良い先生を探したいんですけど――」

「だめよ! もったいない! ヘーゼル様に頭を下げて、改めて弟子入りさせてもらいなさい!!」


 そんな言い争いを部屋の前でしていたら、ギーラが手にお守りを持って部屋から慌てて飛び出してきた。

 俺と目が合うとホッと胸を撫で下ろし、お守りを差し出してくる。


「お前のために師匠とマルが用意してくれたんだ。ちゃんと持っとけ。あと、今日は魔法の練習禁止。掌の痛みが強くなってきたら、ハイポーション。それで収まらなかったら――、医者か、師匠のとこまでどうにかして行くしかないな」

「それ、ヘーゼル様からのご指示ね? フェン君。ちゃんと守るのよ」

 ちくしょう。すっかりギーラに世話を焼かれてしまってる。


「ねぇ、ギーラ君。お師匠様にフェン君も弟子入りさせてもらえるように頼める? フェン君たら、弟子入りを断っちゃったって言うのよ」

「大丈夫! 帰ったらフェンも入れて修業しようって言ってたし」

「おい。俺はあいつを師匠と認めてなんて――」

「フェン君! まだ分からないの? 他にあなたを教えられる方なんていないのよ。もし、また暴走したら、他の誰が抑えられると言うの?」


 確かに今まで会った中では、あいつ以外いない。でも、俺のピンチに遊び出す奴に弟子入りなんてしたくない。

 食堂に移動しながらそんなことを言っていたら、ジルさんが厨房から頭を出して言った。


「わざと怒りを自分に向けさせたんだと思うぞ。あのクソ講師に攻撃してたら、問題になってただろうから」


 魔法を意図的に暴走させられたところを見ていたのは子供達だけ。まともな証拠がない。講師には、教え子を見捨てたことで避難される点はあるけど、俺の魔法の威力からして無理もないと判断されてしまうだろう。

 普段から、警備隊と冒険者は協力関係にあって、あの講師は信頼もされてる。俺があの講師のせいで魔法を暴走させてしまったと言い出したところで、信じてもらえる可能性はないに等しいそうだ。

 納得はいかないけど、理屈は分かった。


 食堂には昨日のウサギの氷像が置かれていた。

 「任せとけ!」とでも言いたげな自信に満ちた顔でウインクしている。ニヤッと浮かべた笑みがヘーゼルを思い起こさせる。

 やっぱりムカつく。



 今日は依頼もこなせないし、プロメテウス様に教えてもらったヘーゼルナッツでも買うか。一応、助けてもらったお礼を用意しておかなきゃな。

 あいつはどこか場所を見つけてハシバミの木を植えて欲しいって言ってたはずだ。植えて芽が出るようなのが欲しいところだけど、目利きはないからプロメテウス様のオススメに従っておく。

 食料品店のおばちゃんが「水の賢者様に助けられた子じゃないか。サービスしとくよ」って、苺とリンゴを付けてくれた。これもお土産にしとくか。空間魔法に入れとけば腐らないし。


 ◇


 魔法歴983年12月6日


『今日は北西区の職人ギルドで午後から一般販売が行われるよ!』


 あの、プロメテウス様。イベント情報もありがたいんですが、もっと重要そうな情報はありませんか? そういうのあると、俺の魔力暴走も無駄じゃなかったって思えるので。お願いします。


 とはいえ、マルが喜びそうなものが売ってそうだし、今日は金を稼ぐか。

 ギーラと討伐依頼を受けに行ったら、受付嬢が手招きしてくる。依頼争奪戦には参加するつもりがないから、素直に近付くと「ねぇ、あなた達が一昨日の魔力暴走事件の子供って本当?」って聞かれた。


 結構、噂になってしまってるみたいだ。町の周囲を囲む壁の中からでも、俺の黒い靄とか、プロメテウスの火とか、ヘーゼルの氷塊が降ってくる様子とかが見えていたらしい。

 目撃者が多すぎるから隠しても無駄だろう。肯定すると、指名依頼だと言って3枚の依頼書を渡してくる。指名料が上乗せされてるから、少し割が良い仕事になってるはずだ。でも、まずは内容を確認しないとな。


 1枚は魔法塾から。講師と仲直りして評判の低下に歯止めをかけてくれ、だそうだ。なんて厚顔無恥な依頼なんだ。あの講師の授業を引き続き受けることも条件になっている。これは受ける気になれない。


 次は、牛頭鬼(ミノタウロス)退治。北の平原に生息するバッファローから上位種に進化して、数年前から居座っているらしい。こいつのせいでバッファローを狩る冒険者がいなくなって、牛肉の供給がストップして困っているらしい。依頼主は、この町の料理人ギルドで報酬10万ダハブ。

 こんな依頼で子供を指名するなよと思ったが、この依頼は複数の冒険者に指名依頼を出しておき、その中で早い者勝ちというタイプの依頼だそうだ。一定以上の実力の冒険者には全員依頼を出しておいて、誰でもいいから何とかしてくれってことみたいだ。違約金や達成期限はなしだから、受けておいても何か損があるわけではない。

 ギーラは目を輝かせているが、達成は無理だろう。マルがいれば考えてもいいけど。

 受付嬢がギーラの様子を見て釘を刺す。


「この依頼は、はっきり言うと君達のお師匠様が手を貸してくれることに期待して指名して来てるの。君達だけで挑まないでね。もう3年以上討伐されてない。それだけ強敵ってことよ。普通の上位種よりも1段も2段も上の敵だと思って」

「分かった。いつか師匠を連れて倒しに行けばいいんだな! だいぶ先になるかもしれないけど、待っててくれよ! ――ところで、牛肉って旨いの? オレ食べたことないんだけど」


 そういえば、俺もこの世界では食べたことないな。異界図書館じゃ味は分からないから、どんな味か分からない。旨いって知識だけがある。


 最後の指名依頼は、職人ギルドで素材加工の手伝い。鉱石を熔かす炉が壊れたから、俺の火魔法で熔かして欲しいらしい。急ぎで納品が必要な分だけ手伝えば良くて、半日程度の拘束時間。報酬は2万ダハブ。ギーラはつまらなそうな顔をしてるが、これにしよう。


 依頼主は、老年の鍛冶職人。目利きのスキルがある人だった。年明けまでに領主に納めなくてはいけない武具の割り当て分が終わっていないから手伝ってくれってことだった。

 依頼にあった鉱石を熔かすのの他に、なめし革の加工なんかも手伝ったら追加で報酬をくれた。ギーラも暇してるよりいいと思ったのか、鉱石を運んだり、掃除したり、色々手伝ってたので追加報酬も2人分。ナイフと剣だった。1本1万ダハブだったら、依頼の倍額もらうに等しいんじゃないだろうか?

 遠慮しようとしたら、予定の倍作れたから問題ないという。以前に同じことを頼んだ冒険者は、素材や完成した武具をくすねていったり、途中で魔力切れを起こしたり、と問題ばかりだったから安めの報酬設定にしてたという。そもそも、冒険者はこういう仕事は好きではなくて、加工するだけのくせに偉そうにするなと暴言を吐かれることも多いんだそうだ。


 仕事が終わった後、ギルドの一般販売を見て、マルが欲しがりそうな物を物色する。ヤスリとかの道具類や染料や鉱石などの村周辺で手に入れにくい素材、空のポーション瓶。

 品物を選んでいたら、鍛冶職人さんがいつの間にか後ろに立っていて、遠慮がちに「右のヤスリの方がいい」とか「もっと奥にある店の染料の方が扱いは面倒だが良い物ができあがる」とか教えてくれた。

 お礼を言うと「……いや、こんなことを言って気味悪いとは思わないのかね?」って聞かれた。見た目は同じ商品なのに色々口を出すと、気味悪いとか、偏屈だと言われることが多かったらしい。まぁ、鑑定がないと物の性質を見抜くスキルを持ってることが分からないからなぁ。


 ◇


 魔法歴983年12月7日


『今日の昼過ぎから、まだ溶け残ってる雪で子供達が雪合戦をやるよ!』


 ……あー、もう。なんで俺の身近なすごい人は、素直に尊敬させてくれないんだろう。

 プロメテウス様、もっと何かあったでしょう!? 神様が子供達の遊びの予定とか気にしなくていいですから! 俺に雪合戦に参加して欲しいわけじゃないでしょう?



 今日は、普通に討伐依頼をこなして宿に帰ったら、マチルドさんに呼ばれた。

 一昨日、昨日と魔法塾に行って、俺とギーラの受講料の返還について交渉してくれていたらしく、返してもらった12万ダハブを渡された。頑なに講師の失態を認めず、1回分の授業料として1人当たり1万ダハブは差し引かれてしまったと、悔しそうに言っていた。

 お金はもったいないと思ってたから、ありがたい。このお金で他の講師に授業をお願いしたいが、マチルドさんはヘーゼルに習えという意見を変えない。

 何度かの押し問答の後、ふと思いついて提案してみた。


「そうだ。マチルドさんが教えてくれませんか? 実技なしで講義のみなら、暴走しないし。俺、索敵魔法とかも覚えたいんですけど」

「えぇっ!? ダメよ! ヘーゼル様の邪魔になっても困るし」

「あ、それなら、オレが師匠に教わったことを教えよっか? 他の人に教わっても邪魔にならない程度の基礎だって言ってたし」

 おいッ、変なことを思いつくんじゃない。

 マチルドさんが「いいわね! それなら、ヘーゼル様を困らせることもないわ!」なんて言い出して、ギーラに魔法を教わる羽目になってしまった。俺の方が魔法はできるはずなのに。


 マチルドさんも根が良い人だから、困ってることをアピールすると迷うような素振りを見せていた。しつこく頼み込めば、教えてくれそうかな?


 ◇


 魔法歴983年12月8日


『闇の賢者の居場所が分かったよ。竜の谷底と呼ばれるダンジョンの最下層。ドラゴンに憑依してる。今は行く必要ないけど、時期を見て挑んでみてもいいかも』


 え。急に真面目な情報が来たんだけど。自分でお願いしたくせに、どうしていいか分からないです。すみません。プロメテウス様。

 それにしても、ヘーゼルは木だったのに、闇の賢者はドラゴンに憑依してるのか。味方なら心強いけど、敵なら厄介だな。挑んでみてもいい、ってことは少なくともすんなり味方になるってわけじゃなさそうだ。

 忠告に従って、しばらくは放置だな。

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