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第20話 フェンの日記(7)

 魔法歴983年11月13日


 今日も最近の日課になってる討伐依頼をこなす。


 苦戦してた俺達を見かねたジルさんから、討伐依頼をこなすコツを教えてもらってから多少は効率が上がった。

 感知術か索敵系の魔法を使えるメンバーがいるかどうかで狙うべき依頼は変わってくる。今はいないから、多少効率を下げてでも確実に依頼を達成できるようにしなければならない。


 場所不明だけど近所によく出ますって魔物は、討伐証明部位を持ってくればいいわけだから、最初から依頼を受けてはいかない。見つけて狩ってから、依頼が残っていたら受けると同時に、討伐証明部位を渡す。ただ、ありふれた魔物の討伐は報酬が低めだし、依頼を他の冒険者に取られていたら達成できない。

 目撃情報がある手ごわい魔物で割増の報酬が設定されている奴や、巣を作って定住している魔物なんかは、感知術とかがなくても対象を見つけやすいから狙い目と教えてもらった。


 しかし、稼げる依頼は当然取り合いになる。依頼の取り合い合戦を制するのは、俺達子供にはハードだ。ボードの上の方に依頼書が貼られてたら、手が届かなくて取れない。やっと依頼書を取れても、ちょっとでも強めの魔物の討伐依頼は「こんな子供で大丈夫かしら?」と受付嬢に心配されて他の冒険者に回される。


 そんなわけで、結局、町の北西側に広がる森に入って目についた魔物を狩っている。討伐証明部位を大量保管することも空間魔法があればできるし、手当たり次第に狩って残っていた依頼に合わせて取り出せば良いから、普通の冒険者よりは効率が良いはずだ。

 今日はオーク2体とウルフ5体を午前中で狩って終了。2種類とも討伐証明部位が頭なんだよな。オークは肉がそこそこの値だからいいが、ウルフは頭を保管しておくのはかさばるし、長期保管は腐るから好き好んで狩る奴はいない。もっと、小さな部位を討伐証明にしたら良いのに。


 今朝見た依頼では、討伐依頼はリトルコカトリス、ブラックボア、ウルフが残ってた。オークは空間魔法の中で保管。ウルフも討伐は3体分だけだから、2体分はそのまま収納しておく。

 以前に狩っておいたリトルコカトリスとブラックボアも出しておいて、依頼完了の報告をする。素材を売り払った分も含めて1万ダハブ。まあ、こんなものだろう。

 宿代は普通の客だと1泊2食付きで5000ダハブらしいから、2人分の1日の稼ぎとしてはあんまり良くない。新米冒険者とかどうしてるんだろうと考えていたら、「稼ぎを寄こせ」と絡んでくる奴らに遭遇。

 なるほど。そこそこ稼いでそうで、勝てそうに見える相手を探してカツアゲしてるのか。しかし、相手を間違えたら当然返り討ちだ。

 ちなみに、父さん達のパーティではマチルドさんが魔法で索敵をしていたそうだ。俺も覚えようかな。


 空間魔法にかなりの量の魔物の死体がストックされてるから、午後からは町を見物して回った。今日は魔法塾の案内を見ておこうと思ってる。


 この町はぐるりと壁で取り囲まれた円形になっている。中央に広場があって、そこから東西南北に大通りが伸び、町を大きく4つに分けている。

 俺達がいつも過ごしているのは北西のブロック。狩場が近く、冒険者ギルドや宿屋、武器や防具を売る店や冒険者向けの雑貨店がある。

 魔法塾があるのは、南西のブロック。警備隊の詰め所や役所が集まってる場所みたいだ。

 事前に教えてもらっていた魔法塾の場所を見つけ、中に入る。冒険者ギルドと比べるとこじんまりした飾り気のない建物だ。今は子供達が数人、文字を習っている。普段は集会所兼寺子屋みたいな場所っぽいな。

 となりは剣術の道場みたいで、子供だけじゃなく大人の掛け声も聞こえてきた。ギーラが「あっちにしようぜ」とか言い出した。

 何しに来たんだ、お前。剣なら村でも習えるだろ。

 チラッと覗いて鑑定してみたけど、剣術≪下≫しか持ってない人が教えてた。わざわざ金を払って教えてもらうことはない。

 

 建物に入った途端に、受付に座っていたおばさんが声をかけてきて魔法塾の入塾希望者かと聞いてくる。そうだと答えると資料をテーブルに広げながら説明を始める。結構、商売っ気があるな。

 おばさんによると、魔法塾が始まるのは12月の頭からだけど、人気の講座は埋まってしまうことも多いからと、11月の半ばから申し込みをしておくことをお勧めされた。営業トークも入ってそうだから、即決する気はない。

 資料によると魔法塾のコースは3種類。それぞれ攻撃魔法、強化魔法、回復魔法のコースだ。基礎魔法理論とかを教える座学中心のコースも昔はあったらしいけど、人気がなくて今は開講しなくなったそうだ。実技は自分でやるから、理論的なことを教えて欲しかったんだけどな。

 各コース5日に1回のペースで開かれ、12月は入門、1月は初級、2月は中級、3月は加工魔術なんかの応用編になっているそうだ。このうち、中級だけはテストを受けて入ることになるが、俺達の年で受ける子はいないから気にする必要はないと言われた。


 金額は講師によって違い、高い人で1か月分が7万ダハブ、安い人だと5万ダハブ。キャリアの長い人や、評判の良い人ほど高くなってるそうだ。冒険者ギルドでの稼ぎを考えると結構するんだな。

 持たされてるお金は、35万ダハブ。宿代は3月末までの5か月近い滞在で5万ダハブと本当に格安にしてくれたから、残り30万ダハブで塾と生活費。資料には書いてないけど、入門より初級や中級の方が高いんだろうし、やっぱり余裕はないな。

 たぶん、父さんは中級は受けないと思ってお金を渡したんだろうけど、できたら全部受けておきたい。さらにギーラの分もあるから、全然足りない。さすがに強化魔法や回復魔法のコースは諦めよう。


 ふと、ギーラにどのコースを受けたいのか聞いてみた。それでも、攻撃手段は剣術や体術があるし、回復魔法ってタイプじゃないから強化魔法を選ぶだろうと思ってたら、俺と同じコースにすると言ってきた。まったく、こいつは俺に張り合ってばっかりだな。


 一通り、説明を聞いて建物を後にする。資料は配る分は作ってないみたいだけど、1回読めば異界図書館に収録されるから何の問題もない。あとで、マチルドさんに相談に乗ってもらおう。


 時間が余ったので、町を散策してみる。

 ギーラとは興味のある場所が違いそうだから、別の場所を見てていいと言ったけど付いてくるという。何か変だ。しつこく追及したらやっと目を逸らしながら答えた。


「1人になるなって言われてんだよ。きっと迷子になるからって。プリシラから」


 情けない兄貴だな。でも、納得した。らしくなく不安そうにキョロキョロしてたもんな。


 広場を通って、石像があるのに気付く。これを目印として待ち合わせることに決めておけば別行動もできそうだ。近づいて何の石像か確かめ、思わずのけぞった。

 「水の賢者像」だって。ヘーゼルかよ。負けた側の賢者の像なんて、なんで建ってるんだ?

 風になびく柔らかそうな髪に通った鼻筋。憂いを含んだ眼差しが印象的な整った顔立ち。実物とどれだけ似てるのか知らないけど、賢者というより王子と言われた方が納得しそうな雰囲気だ。服装もローブじゃなくて、カチッとしてはいるが動きやすさを重視した服だし、年齢もどう見ても20歳前後。


 なんか気に食わないけど他に目印になりそうなものはないし、ギーラに迷ったときはこの像の前で集合だと言っておいた。他の賢者の像も立てておけよ。せめて、建国者の闇の賢者像だけでもあったら、そっちを待ち合わせに使ったのに。


 そんなに大きな町じゃないから、しばらく歩き回ると大体把握できた。図書館があると良かったんだけど、なかった。領主が住んでいるような大きな町に行かないとないらしい。しかも、貴族じゃないと入れないそうだ。

 父さんの書斎の本は、俺を気遣って難しい歴史関係の本とかを上の段に置き、魔物図鑑とかの子供が見ても楽しめそうな絵が多めの本を下の段に配置してある。椅子とかを踏み台にしても一番上の段には手が届かないし、ヘーゼルの目の前で闇の賢者の建国史を読むのもなんだから、この町で読みたかったんだけどな。


 ◇


 魔法歴983年11月14日


 今日は、依頼は休んで素材の整理をした。狩りの後、一旦宿に帰ってから加工して冒険者ギルドに行くのがめんどくさくて解体をギルド任せにしてたけど、不審に思われない程度の素材持ち込みで可能な限り稼ぐには必要だ。


 ギーラには好きにしてていいと言っておいたら、薪割りをしたり、シーツとかの洗濯を手伝ったりしていた。

 良い子かよ。キャラと合わないと思ったけど、こいつの両親の話と合わせて考えると、普段からやってそうだな。手際もいいし。


 加工の終わった素材をまとめて冒険者ギルドで換金。ギーラと2人で持てるだけ持って2回往復。2万ダハブになった。手間を考えると、そんなに効率は良くない。

 ついでに残ってる討伐依頼を確認して、空間魔法内のストックを利用してウルフと突進ウサギの討伐依頼を完了させる。単価の安い依頼だから3500ダハブにしかならないけど。


 昼時の忙しい時間帯を避けて、マチルドさんに時間を取ってもらい、魔法塾について相談した。


「攻撃魔法のコースを選ぶなら、先生は魔力量の多い人を選ばないダメよ。初心者の頃は魔力の扱いになれてなくて、暴走させちゃうこともたまにあるんだけど、暴走状態の魔法に同程度以上の魔法をぶつけて相殺する役目を先生が担ってくれるの。だから、自分よりも威力の高い魔法を撃てる人でないと危険ね。それと、自分が暴走した魔法の的になるようなものだから、その覚悟をちゃんと決めてる人」


 むむむ。結構、先生側のハードルが高いぞ。


「でも、安心してね。ここはラティーフ地方。魔法塾の講師をやる魔導士は、水の賢者に誓いを立てる風習があるの。覚悟を決められないなら、講師になんてならないわ」


 なんだって? ラティーフ地方? この辺ってヘーゼルゆかりの地なの?


「マチルドの水の賢者の話はあんまり真に受けない方が良いぞ。ただの迷信に基づいた形式的なものだから。こいつはイケメン賢者様のファンだから、重く考えてるだけだ」

 ジルさんが珍しく口を挟んできた。プロポーズしたときに「あなたは2番目だけどいい?」って返事をされ、1番目は誰かと問い質したら「ヘーゼル=ラティーフ!」って答えが返ってきたんだそうな。

 随分、熱狂的なファンなんだな。


「ヘーゼル=ラティーフ? それが水の賢者って人の名前? オレの師匠もヘーゼルって言うんだぜ!」


 ギーラはあいつが水の賢者って知らないから、よく分からない自慢をし出した。

 マチルドさんは、賢者の名を名乗るなんて不遜だ、名前負けするのがオチだ、ってちょっと怒ってた。本人なんだけどね。


「1つ聞いてもいいですか? この国を建国したのは闇の賢者ですよね? 敵だった水の賢者の話って大っぴらにしても大丈夫なものなんですか?」


 石像が建てられてるくらいだから大丈夫だろうと思いつつ、念のため確認しておく。


「水の賢者の遺体はバラバラされてラティーフ地方の各地に埋められたんだけど、死後数年が経った頃、遺体の埋められた辺りから水が溢れ、湖や川ができたらしいの。死した後も奇跡を起こした執念を目の当たりにして、闇の賢者様は敵だった他の賢者達も偉大な存在であったと認めたのよ。地の賢者の建国した帝国では、今でも他の賢者の話はタブーらしいけど、この国では問題ないわ」


 ……ヘーゼルの奴、誰かに憑依して、いたずらで湖とか作ったわけじゃないよな?


 話が大幅に逸れたけど、相談の目的の講師選びは無事に決まった。壮年の魔導士で評判もいいし、実力も抜群な人がいるという。評判の良い人だけあって一番高いけど、こればっかりは仕方ない。

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