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第15話 弟子入り

『ヘーゼルせんせ。私には、他にどんなことが向いてそう? 教えて~』

「師匠、オレは実戦での立ち回りを教えて欲しいな! もち、お手本付きで!」

「ヘーゼル先生、僕は斬撃飛ばしの練習がしたいな。あと、採取に使う魔法とか、色々教えて」

『……お前ら、なんで叱られて懐くんだ? あと、全員バラバラなことを教わりたがるのは止めてくれ』


 ホワイトシープを倒した後、各自ヘーゼルさんからダメ出しをされた。僕も「なんで先見の明を使わないんだ? 失敗した場合のことも考えて2手、3手先を読んでおけ。というか、失敗する未来が見えたら、事前に失敗を防げただろ? ひょっとして私がいるからと油断していないか?」って言われちゃった。

 守ってくれる大人のいる魔物狩りって初めてだったから、なんだか甘えたい気持ちになっちゃったのかも。

 そして、僕のことを思って叱ってくれる大人も初めてだ。


 ギーラやプリシラにとっても、珍しいアドバイスをくれる人として認識されたみたい。

 3人してヘーゼルさんに色々リクエストしながら、今日の魔物狩りで得た物を秘密基地に運んでいる。子供3人で運ぶにはかなり大量の素材なんだけど、以前よりも重く感じない。魔力で力が強化されてるおかげだろう。


 ほどなくして秘密基地に到着。

 羊の肉の保管をどうしようかと考えていたけど、ヘーゼルさんがあっという間に秘密基地の洞窟を氷で覆い、氷室に変えた。ここに保管しておき、出発する前に兄ちゃんの空間魔法に入れてもらい、町で売り払ってもらえばいい。


「さて、では午前中に話していた通り、魔力を流し込む。それで今日の修業は終わりだ」

「え~。まだ時間あるし、他にも色々やろうぜ、師匠」

「出発前に準備するものがあるからな。あんまり時間が取れないんだ。――ところで、さっきから師匠だの、先生だのと呼んでるが、私に弟子入りしたと思っていいのか?」

「あぁ。オレ、剣術は村長に習ってるし、これから町で魔法も教えてもらうけど、実戦的な戦闘に関してはヘーゼル師匠に教えてもらいたいと思った。だから……、師匠、よろしくお願いします!」

『僕には、兄ちゃんやギーラ以外に何かを教えてくれる人っていないから。前からヘーゼルさんの生徒のつもりだったよ。改めて、よろしくお願いします!』

『冒険者になるのに役に立つことを教えてくれそうな人、他にいないの。お願いします! 弟子にしてください!!』

「そうか。――では、これからはお前達3人を弟子として扱う」

 ギーラとプリシラの2人に背中を向けながら言った。僕と体を共有してるから顔を見られないけど、ちょっぴり照れてるみたいだ。


「では、さっそく魔力の流れを感じる訓練からだな。ギーラ、手を出せ」

 弟子になったからなのか、名前が呼び捨てになってる。

 ハイタッチをするときみたいに掌を向けさせると、そこに自身の掌を合わせる。


「体外に魔力を放出して使うのが魔法だと教えた。つまり魔法を使う場合、魔力を体のどこかから外に出す必要がある。大抵の人間は掌だ。魔法を使ったことがなくても、武器を扱ったりしているうちに魔力の放出口が開いていることがある。ギーラの場合も既に掌に魔力の放出口ができている」


 魔力の通り道ができているところに向かって魔力を流し込む、ということらしい。魔力が体内を流れて掌からギーラの掌に流れ込んでいく。

 魔力が流れ込んだ瞬間、ギーラの肩がビクッと跳ね上がった。


「確かになんかが流れてんのが分かるけどっ! なんだよ。これ。気持ち悪りぃ」

 手を放し、背中を向けてうずくまってしまった。「おぇぇ」って声が聞こえるから吐きそうなのかも。


 ついで、プリシラに目を向ける。ギーラの様子を見ていたから、ビクッとして、1歩後ろに後ずさる。


「プリシラの場合は、魔力の放出口が開いていないから、同じ方法はできないな」

『そうなの? じゃあ、私はどうしたら魔力の流れを感じられる?』

 ホッとしつつも、魔力の流れを感じるとっかかりがなくて心配そうだ。


「1つ試してみたい方法がある。もし、それでダメだったら普通の戦闘訓練を先にする。効率の良い動きを追求していく中で、体外に魔力を放出しようとして自然と放出口が開くまで待つ」

 心配そうな表情でうなずくプリシラ。試したい方法っていうのが上手くいくと良いけど。


「意思疎通が使えるんだったな。今から私がやるのを真似して動くんだ。呪文は意思疎通で唱えろ。伝える相手は誰か特定の相手を思い浮かべるのではなく、周囲にいるかもしれない誰かだと思って助けを求めて叫ぶつもりでやってみろ」

 そう言って手を前に突き出し、呪文を唱え始めた。どうやら、プリシラに魔法を発動させようとしているらしい。


 ――我、水の精霊に願い奉る――


 へぇ。ヘーゼルさんって無詠唱なのにちゃんと呪文覚えてるんだ。


 ――とりあえず、水をくれ。よろしく。(ウォーター)! ――


 え。

 いきなり呪文がめちゃくちゃ適当になったんだけど。掌から水は出てきたから、魔法としては成功なんだろうけど。

 さては、ヘーゼルさん、呪文忘れて適当に言ったな。


 プリシラは目を丸くしてこちらを見ている。


「どうした?」

『えっと、呪文ってそんな感じなの?』

「大抵の奴はもう少しカッコつけた感じで唱えるが、ただ水を出すだけなのにあんまり仰々しいのも変だろ?」

『ヘーゼルさん、さっきの呪文で無詠唱ができない人でも水を出せるの?』

「まったくもって問題ない。マルドゥク、素材を加工するとき、心の中でどんなことを考えてる?」

『えっと、皮をなめすときだったら、タンニンが全体に浸透するように水をぐるぐる回して、とか』

「その考えていることと呪文の1部は本質的に変わらない。呼びかけ、どうしたいかを伝え、発動の合図をすればいいわけだからな。ちょっとしたことを頼むのに、わざわざ難しい言葉で言う必要はないだろ?」

『あのね、ヘーゼルさん。さっきの呪文で問題ないのかもしれないけど、初めて魔法を使うんだったら、もうちょっと夢が欲しいっていうか』

「前にフェン君が言っていただろ? どうせ私はアレンジしまくりの型破りタイプだ。そんな奴に弟子入りしたんだから、諦めろ」


『マルドゥク、プリシラが今の体で放出しても問題ない魔力量は計算できるか?』

 諦めろと言いつつ、僕にはこんなことを聞いてきた。試しに計算機(カリキュレーター)で計算してみる。

 一応、結果は出たけど、数値化できない要素が入っているから分かりにくい。さっきの(ウォーター)の4.87倍だって。


「今回だけは、リクエストに答えてやる」

 そう言って、改めて呪文を唱える。今度は氷の矢を飛ばす攻撃魔法だ。呪文も結構それっぽい感じだ。


氷の矢(アイシクルアロー)!』

 ちゃんと魔法が発動した。

 プリシラは、掌と氷の矢が刺さった木を交互に見て、初めて使った魔法の感触を噛みしめているようだ。


「プリシラ、掌は痛くないか? 痛みが強くなっていくようだったら、ポーションを飲んでおけ。それから、明日のこれくらいの時間になっても痛みが引かなかったらすぐに言え」

 そういえば、僕もヘーゼルさんが魔法を使ったときに足の裏が痛くなったことがあったな。すぐに痛みは引いたけど。

『少し痛いけど、我慢できないほどじゃないわ。私、魔法が使えた! ヘーゼルせんせ、ありがとう!』

「礼を言うのは早い。魔力の放出口の大きさはその人間が一度に扱える魔力の最大量を決めるが、体がそれに応じた強度を持っていないと維持できない。その痛みが消えない場合は、放出口を開けるのは早すぎたか、放出口が大きすぎたかだ。その場合は、もったいないと思うかもしれないが、ふさぐぞ。そうしたら、しばらくは魔法の訓練は中止だ」

 魔力の放出口をふさぐってことは、魔法が使えなくなるってことだ。珍しくはしゃいでたプリシラだけど、しょんぼりしてしまった。


「安心しろ。マルドゥクに計算させた上で、問題ない範囲にしてある。だが、体に合わないサイズの放出口は魔力を暴走させることにつながる。無理をしたら一生魔法は使えなくなるから、痛みには注意しておきなさい。ポーションを飲んだだけなら、小さくはなるがふさがるところまではいかないから無理はしないこと。ギーラも妹の様子に気を配っておけ」

 まだ少し気持ち悪そうにしてたけど、ギーラは注意を聞いて、真面目な顔で「分かった」ってうなずいた。


『はい。ヘーゼルせんせ、私に魔法の才能がなかったとしても見捨てずに教えてくれる?』

「あぁ、もちろんだ。君自身が諦めてしまわない限りは手を貸そう」


『ところで、ヘーゼル先生、魔力を使ったのにマナポーションじゃなくてポーションを使うのはなんで?』

「大きすぎる放出口が開いた状態はケガと一緒なんだ。傷口から血が出る代わりに魔力が漏れ出てる状態をイメージしてくれ。魔力が体から外に出ようとしている状態で体内の魔力を増やしてしまうと、余計に放出口を拡げてしまう。修業の中でたまに魔力の放出口を拡げることもあるだろうが、その場合の対処法を間違えると危険だから、3人ともしっかり覚えておくように」

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